「うっ、ぐっ……!」
嶺二は鞄をその胸に抱え込んでいる。
誰にも渡さないとでも言うように、両腕でがっしりと。
「倉持先輩、教えていただけますか? その鞄の中に何が入っているのか」
「べ、別になんだっていいだろ……」
「良くありません。その鞄の中には、プリンの容器が入ってるんじゃないですか?」
「っ……!」
「ちょ、ちょっと待って。レイくんの鞄にカメラが入っていないのはわかったけど、どうしてそこでプリンの容器が出てくるの?」
「プリンを盗み食いした人間は、その容器も処分する必要があります。自身の痕跡が残っている可能性がある物を部室に残したくはないはずですから」
「うん……まあ、それは理解できるわ」
「もしも倉持先輩がプリンを食べたのだとしたら、容器の処分は困難です。すぐに相田先輩が部室に入ってきていますから。部室のゴミ箱に捨ててもすぐに見つかるし、窓から投げ捨てるのも目立ちます。だから、できるのは隠すことだけなんです。この部室のどこかか、もしくは鞄の中に」
「……嶺二さん、どうなんスか?」
嶺二にかけられた純夏の声。
その声からは嶺二への疑惑だけでなく、確かな怒りが感じ取れた。
「っ…………ハッ」
まるで吹っ切れたかのように、嶺二は短く笑い声を漏らした。
「そうだよ。僕は容器を鞄の中に隠すことにした。部室の中に隠すよりも、そっちの方が見つかり辛いし、後で処分するのにも都合が良かったからね」
垂れ流されるような、自嘲気味な告白。
嶺二は、その鞄の中にプリンの容器が入っていることを認めた。
「誤算だったのは、鞄の中に容器が入らなかったこと。だから仕方なくカメラを取り出して、部室の中に隠した。木を隠すならって言うだろ? プリンの容器よりは見つかりにくいと思って……。鞄の中身もなあ……カメラが入ってるなんて言わなきゃよかった。でも、今日に限ってカメラ持ってないなんて言ったら疑われると思ってさ……焦ったなぁ……」
「ふざけんなよ!」
「烏丸くん!?」
純夏が嶺二に掴みかかった。
その怒号は今に殴りかかってもおかしくない雰囲気だ。
「嶺二さん、あんた全部わかっててっ……! それで、俺を疑うフリしてたってことスか!」
「ハッ……。良かったな、烏丸。全部お前の思い通りだ」
「あっ!? あんた、いったいなに言って――」
「ふざけるなはこっちのセリフだよ……っ。僕をハメたのはお前の方だろうがっ!」
そう言って、嶺二は純夏の手を跳ね除けた。
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