僕と先生の授業戦争

杜都醍醐
杜都醍醐

第28話 嵐の前…

公開日時: 2020年9月6日(日) 13:00
文字数:1,027

「何を考え込んでたの?」


 帰り道で織姫が僕に聞く。


「…それは僕にもわからない…。あの時間、僕は何がしたかったんだろう……」

「劉葉が? それは戦うことを考えていたに決まってるじゃない!」


 確かにそうだけど、


「でも、そうは書けなかった」

「えっと、どういう意味?」

「あのプリント、僕は何も書けなかったんだ…」


 それを聞いて織姫は驚いた。


「何も? 嘘でしょう?」

「嘘じゃないよ。僕は名前以外、何も記入してない」

「一度書いて消しちゃったの?」

「いいや、本当に何も。一切手を付けてないよ」


 名前と出席番号は書いたけど、設問には何も答えられなかったのは確かだ。


「でも多分大丈夫」

「何で?」

「だって、帰りの会では何も言われなかったから」

「それは劉葉のプリントにまで目を通してなかったからじゃない?」

「そうかもね。でも、白紙も答えの一つだ!」


 織姫には、僕が強がっているように見えるだろう。

 でも僕は、そうは思わないし考えなかった。戦略的撤退だって立派な作戦だし、白紙解答は生徒が完璧でない証拠。僕は前向きに考えた。



 中園先生が職員室に戻って来た。自分の机に座って総合の時間のプリントに目を通した。


「あ、何も書いてない人がいる…」


 劉葉のプリントには、何も書かれていない。


「どうしましたか?」


 金沢先生がそれを覗き込んだ。


「まさか総合の時間に白紙とは思わなかったわ、劉葉君なら書けないはずないんだけど…」

「それは違いますよ? 彼は俺たち教師陣を困らせるのが目的ですからね。これもそういう作戦ですよ。踊らされてはいけませんよ、中園先生?」

「これは私たちへの当てつけだわ」


 水谷先生も加わる。


「何で授業中に叱ってやらなかったんだい?」


 火野先生も加勢する。


「…やっぱり今度は私の番なんですか?」


 劉葉と戦う時が来たのだ。中園先生は、本当なら平和的に解決したかった。だがこうなってはそんな事は言っても意味がない。


「そろそろ、この戦争を終わらせる必要がありますね」


 みんなが声のした方を振り向いた。

 校長先生だった。職員室内の様子を見ていたのだ。


「明日の朝、一時間目は授業変更。総合にしましょう。一年生を全員、中講義室に集めて下さい」


 校長先生の横にいた土屋先生が聞く。


「何か、策があるんですか?」

「最初から持っていた爆弾を、落とす時が来たようです」

「そんなものが? ならばなぜ、最初に落とさなかったのですか?」

「春に落としても意味がありませんから。この爆弾は劉葉君が生徒たちと団結して初めて、威力が発揮されるんです」

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