僕と先生の授業戦争

杜都醍醐
杜都醍醐

第11話 裏切り者?

公開日時: 2020年9月3日(木) 13:00
文字数:2,154

 ドアをノックして開ける。


「…失礼します…」


 織姫は恐る恐る職員室に入った。


「すぐに来てくれましたか! いやあ助かりますね~君がこうも真面目だと。他の生徒にも見習って欲しいものですよ」


 先生はやけに自分を褒める。


「時間があったので…」

「わざわざ時間を食ってまで、来てくれたんですか! 今学期の君の内申点は、上げずにはいられませんね!」


 先生は丁寧に接してくれるが、周りの他の先生の視線が気になる。


「二時間目が始まっちゃうので、失礼します!」


 そう言って職員室を出た。先生は笑顔で手を振った。


「…それが君の作戦なのかい? 金沢先生?」

「ええそうですよ火野先生。ターゲットは彼女。俺は彼女だけ、贔屓すればいいんですよ。そうすれば、必ず内輪もめに発展しますからね。だってそうでしょ? 敵と仲良くする奴なんて、仲間って言えないですから!」



 まだ作戦が思いつかない。両方を崩すには、一体どうしたらいい? 普通の授業では難しいか。いやだからこそ、理科を選んだんだ! 理科には実験がある。次の実験はいつになるかはわからないけれど、その時がXデーだ。その日のために考えなくては!



「金沢先生、準備ができましたよ」

「校長先生、ありがとうございます。これさえあれば、俺の作戦は完璧ですよ!」

「ちょっと待って! これって…。透析?」


 水谷先生が言う。


「ええそうですよ。透析のためのセロハン。実際の実験では、コロイド現象についてもレクチャーする予定ですよ」

「でも、これは中学生には全くわからないわよ?」

「でしょうね。でもそれが良いんですよ。中学生の教科書には、どこにも載っていない。ならば生徒は、先生を頼るしかない。そんな状態では、生徒は先生に逆らえやしないんですよ」

「なら、もうすぐにでも?」

「いいやまだですね。もう少し待って下さい? もう一方の準備ができてないんですよ。それができ次第、やってみせますよ」



 今日も教室での授業だ。まだ作戦が決まってないから、実験じゃないのは良いが、タイミングが敵に依存してしまうのはよろしくない。


「おっと今日は日直さん、休みですか。こんな時期に風邪を引くなんて、健康管理がおろそかになっている証拠ですよ。情けないですね全く! …仕方ありませんね、織姫さん? 代わりに挨拶お願いできますか?」

「わかりました。起立! 礼! 着席!」

「相変わらず元気があっていいですね! みんなも織姫さんを見習って下さいよ?」


 元気なのは何も、織姫だけじゃない! 僕たちだっていつでも戦えるように、常に元気にしているのに。


「では教科書を開いて下さい? そうですね、織姫さん? 五行目から読んでくれますか?」


 織姫はできるだけ教科書を見ないようにしている。先生が開かせたページには、虫の写真が載っている。織姫は虫が苦手なのだ。


「せ、先生…。ちょっと…」


 すると先生は、


「人間好き苦手はありますからね。多少は目を瞑りましょう。代わりに劉葉君? 読んで下さい」

「はい」


 僕は読み始めた。と同時に、お腹が痛くなった。


「う、いてて」

「どうしました?」


 僕はお腹を押さえて先生に言った。


「先生、お腹が痛いです…。トイレに行ってもいいですか?」


 先生は呆れ顔で、


「駄目ですよ? さっきまで休み時間でしたよねえ? 君、何してたんですか? まさか遊んでたんですか? 休み時間は今の君みたいにならないようにするために、トイレ等を事前に済ませておくための時間ですよ? 君はそれを怠った。ただの自己責任ですよ。さ、音読を続けて下さい?」

「そ、そんな…」

「おやおや今度は私語ですか? 減点ですね、記録しますよ」


 くそ! 久しぶりに被弾した!


「先生! いくらなんでもかわいそうです!」


 織姫が僕をかばって言った。手を挙げなかった。これでは織姫も被弾してしまう!


「…ならしょうがないですね。行ってもいいですよ、劉葉君。ただし、この時間は欠席にしますからね!」


 お腹を押さえた。我慢できそうにない。仕方なく僕は今日の授業を諦めて、トイレに向かった。


「では授業を再開しましょう。鈴茄さん? 音読して下さい」

「わかりました」



 理科の時間が終わると、給食。そして昼休み。今日は晴れているから、普通はみんな外に行く。

 でも僕たちは行かなかった。作戦会議をしなければ。しかし、


「金沢先生、なんなんだよ! 織姫ばっかり贔屓しやがって!」

「と言うと?」


 僕は氷威が何を言っているのかよくわからなかった。


「劉葉はあの場にいなかったからわからないわよね。さっきあんたがトイレに行ったとき、織姫も喋ったのに、減点されなかったのよ? 対してあんたは欠席扱い。おかしいと思わないの?」


 鈴茄が解説してくれた。


「そ、それは本当?」

「そう言えば、日直の代わりも織姫に頼んでた…。普通は学級委員が代わるのに」


 祈裡が付け加える。

 みんな、浮かない顔だ。


「でも敵のスパイだったら、正忠がいるよな?」


 氷威が正忠を睨んだ。


「ぼ、僕だって! 先生のためにあれこれやって来たのに、金沢先生は僕の味方をしてくれない…」

「売国奴はお前じゃ役不足だ」

「じゃあ織姫なら務まるってのかよ!」


 そんなことは考えたくない! でも現状、金沢先生の織姫に対する贔屓には目を瞑れない…。


「待ってみんな! まだ、様子を見てみよう。織姫が裏切るとは、僕は思えない!」


 何とかみんなをなだめた。織姫が裏切るなんて、そんなはずない!

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