オオムラサキ -山頂の少女-

天才とは蝶を追っていつのまにか山頂にいる少女である
鬼ごろ氏
鬼ごろ氏

さなぎは颪を目指す 三局

公開日時: 2020年9月9日(水) 22:55
文字数:2,823

 休日のおやつどきの時間だった


「どうかな?」


「おいひいれす」


か゛わ゛ い゛ い゛ な゛あ゛あ゛! ! ! ! ? ?

「昨日はごめんね///」


「らいひょうふれす」


「うん、そっかあ」


か!!!!!!!わ!!!!!!!い!!!!!!!い!!!!!!!かわいい!!!!!!!!!!!!!!!!!


3日ぶりのかざひちゃんに心の中で悶えまくる風子

は宝石のように煌びやかな果物が彩る豪華なバウンドケーキ(厚さ三切れ分)を頬張るかざひをみて悶えまくっていた(大事なことなので2回悶えた)


「そういえばかざひちゃんいいことあった?」


「へ?」


「本日の来店時はすごい嬉しそうでしたよ〜」


「実は」


からかうように問いかけると飲み込んだケーキに紅茶を流し込み口中の乾きを潤すと一息ついたかざひは嬉しそうに


「友達ができたんです」


「ヴォ゛ッッッ」


可愛さのあまり三度目の悶えを起こしてしまう。前世の私は徳を積みすぎたようだ


「それは……最高だね」


「ももさんのおかげでみんなと打ち解けることができて」


神室 桃《かむろ もも》――かざひと同い年の女の子で3日前に対局をしてから学校でもよく話すようになったのか そこからみるみる周りに人が集まってという形だろうわが花ノ宮クラブでも桃は同年代の中では中心的存在だ。


「そっかー!それなら今度 ももちゃんと一緒に別の場所で麻雀打たない?」


「ここじゃない場所ですか」


「じゃん、全国麻雀大会岡山予選!」


「わあ」


「まずは予選で好成績を目指そう!かざひちゃんなら苦手を克服すれば決勝も夢じゃないよ」


正直優勝出来ると思ってるが、


「……どうかな?」


「でます(どやっ」


「よし!それじゃあ……」


「特訓じゃね!」


「まがもがふが」


「うわっ」


「あらおふたりさま」


対局を終えた桃とくずがタイミングを見計らいやってきた。1人だけケーキにかぶりつき何を言ってるか分からないが


「桃さんも出るんですか」


「もちろんじゃで!」


「桃ちゃんとかざひちゃんには今日から本格的に特訓をしてもらいます!」


嬉しそうに特訓表やら分厚いノートをどこからか持ってくる風子


「なんとくずちゃんもお手伝いしてくれます!」


ケーキを食べ終わった葛茂さんが僕と桃さんに視線を向ける


「ついでだけどね、このままじゃ倉敷の土門や津山の白鷺に劣るとも勝らないレベルだからね、桃が」


「くずちゃん!」


「その子たちはそんなに強いんですか」


「この辺りの小学生ならまずこの2人だね八巻さんはともかく桃はその2人に勝てるくらいにはなってもらうよ」


喉が乾いたのか紅茶を飲み干すと葛茂は付け加えて言った。


「風子さんの頼みなら断れないし」


「風子さんの?」


「私は花ノ宮みんなを指導しないといけないからこれから大会まではくずちゃんに頼んでるんだぁ」


「こっちのほうがよろしいようで」


「最低じゃ」


嬉しそうに人差し指と親指で輪っかをつくりこちらに向けるどうやら料金が発生しているようで桃さんの視線が痛い


「まあ小学校でも休み時間使えば麻雀できるし2人は友達集めて対局、放課後は私ができるだけ叩き込むから」


「友達ですか」


「え、いないの?」


スパァァン、と綺麗な音が葛茂の頭から響く、桃の手持ちハリセンが効いた。


「痛ってぇ」


「失礼すぎじゃ」


「今のはくずちゃんが悪いよ」


「いやあ見た目があれだからつい」


「つい最近誤解が解けたんじゃからね!そんなこと言っちゃいけんのじゃでくずちゃん!」


涙目で珈琲に視線を向ける葛茂、まあ確かに外見はあれだ。髪で左半分が隠れており左手も包帯で腕までグルグルと巻き付けられている。中学生がみたら自分の世界の住人て感じだ。周りからは話しかけにくい印象をもたせているのかもしれないここは先輩らしくフォローを入れていく


「でもあれでしょ?対局中にグワーッと封印された力で役満とかあがっちゃうんでしょ?」


「いや……そういうのではなくて」


「無理に言わんでもええんで八巻さん」


「……すみません」


「許す!」


盛大なスパァァァンがまた響いた。









「ロン 8000」


「うっ」


「相変わらず桃はひっかけに弱いなあ、取り返せ

ば論で打ってるだろ」


「そうじゃないと勝てんのじゃもん」


「団体戦ならともかく個人の部なんだからもうちょっとひねくれた打ち方すればいいのに」


「真っ直ぐがうちのええとこじゃもん!」


「あの」


「どうした八巻さん」


「団体戦もあるんですか」


「あーね」


2席分使って僕と桃さん相手に対局指導をしてくれている葛茂さんが少し考えながら応えた


「高校生はね、小学生と中学生は個人の部しかないんだ」


「そうなんですか」


「ただ個人で成績を上げとけば後々進学する際に強豪校から推薦とかくるよ、大阪や東京は激戦区だからそれだけで雑誌に載って注目されたりしてるし」


「岡山じゃと地元新聞の隅っことかにしか書かれんよね」


「まあ岡山で有名なのは縛狩さんと五代目花ノ宮くらいだねー風子さんは大会でれば取材のせいで昼飯逃したとか言ってた」


「風子さんすごいなあ」


「今一番の注目は六代目だけどね」


「六代目ですか?」


「そう六代目、風子さんに決める権限があるんだけどまだ決まってないから麻雀業界そわそわしてるよ」


「くずちゃんも一度は六代目候補に挙がったんよ」


「くずさんがですか」


「まあね、辞退したけど」


「辞退? 何故ですか? 」


「……風子さんが無理してたからかな」


葛茂の動かす指が止まる。どれを捨てるか悩んでいるのではなくどう伝えれば良いのか喉を詰まらせているのだろうか


「無理、ですか」


「私ともう1人桃や八巻さんと同い年の子が残ってね、どっちにするか悩んでたから辞退したんだ。察したようで相手も辞退したけど」


「八巻さんももったいないて思うじゃろ?」


「そんなことないよ、事実候補2人には六代目になる度量がなかった」


「毎度じゃけど断言するんじゃね」


「うん、そうだね」


悩む程度の実力。風子からすればその程度だったということだ。あの頃は急いで時期花ノ宮を探すのに必死で大切なものがあの人には見えていなかった、でも今は……


「頑張りなよ、八巻さん」


「?」


きょとんとした顔をこちらに向ける。不覚にもときめいてしまいそうだった。危ない、もう少しで戻ってこれなくなるところだった。そんでもって油断した。


「ロン 2000」


「あちゃ、上手くなったね」


「ありがとうございます」


「高い手張ってたのに流されてしもうたぁ」


「まあ、桃はバレバレだからね、ほら」


「うわっ」


自分の牌を倒してやると桃は反射的にこぼす


「うちの待ち6枚も持っとる!」


「そういうこと」


「あーまたうちだけヤキトリじゃあ」


「桃さんファイトです」


「次は二人とも飛ばすほどのどデカいのアガるけんね!」


「その前に流すけどね〜」


「くずちゃん!!」


「ふふ」


「お、笑った」


「すみませんつい」


「こら」


「へ――


「これからは謝るの禁止」


「は、はい」


顔を見られないように下に屈ませて応える。耳が真っ赤になっているので照れてるのか、恥じているのか


「よし、ビシバシいくぞ」


「はい」「がんばるけんね!」


大会まであと2週間。



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