トッププレイヤーたちは異世界大戦を攻略できるか

片里鴎
片里鴎

8  第一異世界人遭遇2

公開日時: 2020年10月3日(土) 17:41
更新日時: 2020年10月6日(火) 01:52
文字数:2,740

 冬村は拠点で簡単につくった丸太椅子に腰かけて、ため息をついている。


「どうしたんだよ、冬村さん」


 拠点周辺の警戒、をしながら既に十数体のモンスターを屠って戻ってきた蒼井が言う。


「……佐久間と霜尾だ。先ほどから『遠距離指示』で帰還指示を出しているのだが……まさかもう届かない場所まで進んだわけでもあるまいに、戻ってくる気配がない」


「何かあった、か?」


 蒼井の表情が引き締まる。


「どうだろうな。佐久間がいれば滅多なことはないと思うが」


 意外だな、と蒼井は眉を上げる。


「調子に乗りがちなタイプに見えたが、評価してるんだな、冬村さんは」


「当然だが、ゲームのスキルだけでメンバーを選んだわけではない。入念な下調べをした上でメンバーは決定された。あの男、佐久間は冷静だ。ひょっとしたら、私よりも」


「ふうん。なら、そのうち戻ってくるだろ。で? ……『本命』の方にはまだ指示を出してないのか?」


 その言葉に、冬村は口だけで微かに笑う。


「……君は恐ろしいな、蒼井」


「馬鹿にするな、一応大学出てるんだ……冗談はさておき、いくらなんでもゲーム得意な連中を集めるって馬鹿げた作戦に裏があることくらい、いい大人なんだから気付くぜ。あんたにとって重要なのは、不破エレミヤ、だろ?」


「そうだ」


 短く答える。


「その不破エレミヤを、手元から離すなんてな」


「大河虎太郎が一緒だからだ。彼は、言うなれば、私にとっての理想的な中間管理職だ」


「なるほど」


 言いえて妙だと思ったのか、蒼井は破顔する。


「確かに大河君は変わり者っぽいエレミヤ、アイリスともそれなりにうまくやりそうだな」


「ああ。その上で、言われなくともうまく私の意をくみ、慎重な判断をしてくれるだろう……正直なところ、元々は君をその立場に置くつもりだったのだが」


「俺をか? どうして予定を変えたんだよ、冬村さん」


「単純な話だ。君は、頭が切れすぎる。私の誤算だ」


 そう言ったところで、突如として目を鋭くした冬村は立ち上がる。


 蒼井が冬村の目線と同じ向きに構えるのもほぼ同時だ。


 それに少し遅れてから、まるで木から木へと飛び移るような起動で、凄まじい速度で影が二人の元まで迫ってくる。


「……有栖川。一人か?」


 姿を確認してから一瞬の間に目の前まで飛び込んできたアイリスに対して、一切動揺する様子を見せることなく静かに冬村は尋ねる。


「そうそう。あのですねー、ちょーっと不測の事態ってやつで、冬村さんに相談したくてー」


 息ひとつ切らせることなく、いつもの間延びした口調でアイリスが言う。






 報告を途中まで聞いた冬村は表情を変えることなく、


「少し待て」


 と、言ってこめかみに指を当てる。


「――よし、いい。それでは、行こう。歩きながら報告の続きを聞こう」


「えっ?」


 きょとんとしたアイリス。


「とりいそぎ指示は出した。全て話す許可を。佐久間と霜尾が戻ってくるかもしれない。蒼井、少し拠点を頼む」


「おいおい、冬村さん、あんたが直接行くつもりか? 俺が行くぜ」


「いや。私が直接判断したい。その二人が信用できるか否かを。信用できるなら、この拠点まで案内してじっくりと話を聞きたい。我々は、赤子のように何も知らない状態なのだから。情報は何よりも重要だ」


「あっ、わ、分かりましたー。じゃー案内しますね」


 途中の戦闘は任せてください、と両手の枝をぶんぶんと振るアイリスに冬村は、


「任せた」


 と、一言だけ。


「――冬村さん、あんた、一目でその二人が信用できるかどうか見抜けるのか?」


 もう歩き出した冬村に対して、その背中に蒼井が疑問を投げかける。


「無理だ。私はそこまでうぬぼれてはいない」


「だったら――」


「なに、大河の顔を見ればいい。彼ほどの『臆病者』がある程度心を許している様子なら、信用してもいいだろう。あの少年は顔に出やすいから、判断は容易だ」


「なるほどね」


 しっかり留守番しとくぜ、と言って蒼井は二人が消えるのを見送る。そうして、二人の姿が木々の狭間に消えていってから、


「はてさて。俺も、身の振り方を考えなきゃあな」


 己の手を見つめ、ゆっくりと拳をつくっていく。

 

 

『――全面的に許可する。全て説明してよし。そして向こうからも情報を得られるだけ得るように。今、私もそちらに向かっている』


 しばらくして、といっても思ったよりもずっと早く、頭の中にそんな声が届く。これは冬村の『遠距離指示』か。


「許可が出た」


 いきなり俺がそう報告すると、ユンユとソフィアはきょとんとした顔をする。何も起こっていないように見えるから、そりゃそうだろう。


「スキルだ。俺の上司はそういうスキルを持っているんだよ」


 全て説明してよし、との許可が出たので、正直に説明すると、


「ああ、なるほどね」


 ユンユは納得した顔をする。


 ということは、やはりスキルというものは俺たちだけが特別に持っているものじゃあなくて、この世界では普通にあるものなのか。


「でもあんまり聞いたことのないスキルよねえ」


 ソフィアが首を傾げると、


「確かに。ねえ、ひょっとしてあなたたちってマレビト?」


「……ええっと、マレビトって何?」


 だが、やはりと言うべきか、この質問自体が答えのようなものだったらしく、


「やっぱりマレビトね、ソフィア」


「ええ。それも、来たばっかりですわ、多分」


 少女二人は頷き合っている。


「あの……」


「ああ、ゴメンゴメン。マレビトっていうのはさ、別の世界からこっちに来た人たちのことさ」


 唐突なクリティカルヒットでこっちの思考が止まる。


「最初から恰好が妙だし、そうじゃないかと思っておりましたわ」


 うふふ、とソフィアは笑顔を浮かべる。


 この感じ……ひょっとしてマレビトっていうのは、珍しいものではない、のか?


「マレビトって、俺たち以外にもいるの?」


 直球で訊いてみる。


 いつの間にか、エレミヤも傍によって目を大きく見開いている。相当興味があるようだ。まあ、もともと研究員だったんだから、そりゃそうか。


「そりゃいるさ。ああ、でも、そうだね……珍しいのは珍しいよ。どのくらい珍しいかって言われると説明の仕方に困るけど、数年に一度は、新しいマレビトの話を聞くくらいさ」


「うーん」


 どう考えればいいんだ? まあ、判断は冬村に任せるか。ともかく、異世界からの来訪者について向こうが分かっているのは幸いだ。


「実はお察しのように俺たちはマレビトって奴で、おまけにこっちに来たばっかりで右も左も分からないんだ。基本の基本から教えてくれない?」


 これで、とりあえずは何とかなる。この世界の基本知識をまずは仕入れられるだけ仕入れよう。


「本当かい? 来たばっかりにしては、どうも隙がないように思えるけど」


 目つきの悪さのせいか、向こうが疑ってくるので、


「俺、レベル3」


 と説明すると向こうの二人は驚いた顔をした後で、ようやく納得してくれる。

 

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