全員、服装が変わっている。
有栖川愛はそのまま、あの実況動画の時の『アイリス』の恰好になっているし、佐久間は軍服。霜尾は、あれは、確か、ギリースーツってやつだ。エレミヤは研究員そのものの白衣姿。蒼井は真っ黒い道着だ。あの道着だけは分かる。『メガファイ2』における蒼井の使用キャラであり、彼の代名詞にもなっている拳法使い『ロン』と同じ服装だ。
そして、肝心の俺の服装はと確かめてみると、真っ黒い薄い薄く軽い鎧――いわゆる軽装鎧の上にロープを羽織っている。腰には長剣。間違いない、これは俺の『ブラックナイト』でのアバターの姿だ。
「まずは全員、自分のステータスを確認しろ」
冬村の指示が出る。
ステータス?
「これまでの報告では、レベルとスキルの概念があることが判明している。ステータスによってそれが確認できるはずだ」
にしたって、どうやればいいんだ? とりあえず、思い浮かべてみるか。ステータス。
そう心で唱えた瞬間に、頭の中に情報が浮かび上がってくる。
大河虎太郎 レベル:1
所持スキル:・協力要請 レベル1
説明:対象と同意の上で、対象の持っているものと同じスキルを1つ使用可能になる。
・??? レベル1
説明:このスキルは封印されている。
なんじゃ、こりゃ。特に???って。
見回すと、俺以外も全員、戸惑った顔をしている。そりゃそうだ。そもそも、頭の中に情報が勝手に浮かぶこの感覚自体が超気持ち悪い。
「確認したか? 武器を持っているものは構えて周囲を警戒して待機」
冬村の指示に、俺は剣を抜く。重さをほとんど感じることなく、長剣が鞘から抜ける。おまけに、真剣なんて触ったこともないのに、奇妙なくらいに手に馴染む。
同じように武器を構えたのは佐久間と霜尾だ。佐久間は、あれは、アサルトライフルってやつか? 霜尾は、長い銃身とスコープが特徴的なスナイパーライフルだ。
「……ふむ、なるほど。全員、情報共有の確認はしたか? していないなら、今すぐ行え。仲間の情報が知りたい、と思えばそれでいい」
言われた通り、そう思ってみると、
『周囲の仲間と情報共有しますか? 情報共有を行うと、お互いのステータスを確認することができます』
うわ、出た。選択肢も一緒に出てきた。「はい」と「いいえ」だ。もちろん、命令通りに「はい」を選ぶ。
瞬間、次々に情報が浮かび上がってくる。
アイリス レベル:1
所持スキル:・パリイ レベル1
説明:敵の攻撃をタイミングよく受け流すことでダメージを受けない。
・致命の一撃 レベル1
説明:相手の隙を見つけ攻撃することで、一撃で敵を倒す。
一定以上の実力差がある場合には不可能。
不破エレミヤ レベル1
所持スキル:・分析 レベル1
説明:触れたオブジェクトの性質等を分析することができる。
成功率はスキルレベルと分析難易度に依存。
・最適構成 レベル1
説明:構成する際に補正がつく。
補正値はスキルレベルに依存。
霜尾平次 レベル1
所持スキル:・銃器召喚 レベル1
説明:銃器を召喚することができる。
召喚できる銃器の量・種類はスキルレベルに依存。
・リロード レベル1
説明:リロードをする都度、銃弾が補充される。
佐久間陣 レベル1
所持スキル:・銃器召喚 レベル1
説明:銃器を召喚することができる。
召喚できる銃器の量・種類はスキルレベルに依存。
・リロード レベル1
説明:リロードをする都度、銃弾が補充される。
蒼井三蔵 レベル1
所持スキル:・ガード レベル1
説明:攻撃をガードすることでダメージを減らすことができる。
軽減量はスキルレベルに依存。
・鉄拳 レベル1
説明:素手攻撃に補正がつく。
補正値はスキルレベルに依存。
冬村軍司 レベル1
所持スキル:・ナビゲート レベル1
説明:クエストの目的地の方向が分かる。
・遠距離指示 レベル1
説明:離れている仲間に指示を伝えることができる。一方通行。
可能距離はスキルレベルに依存。
「はあー……」
一気に頭に流れてくる情報に、思わず声が漏れる。
「アイリスちゃんのは、あれだろ。『ゴースト』シリーズからのものだろ」
銃を構えて周囲をちらちら見ながら、佐久間が慣れ慣れしい口調で言う。
「でしょーね、やっぱり。ほら、あの死にゲー最高難易度を一回も死なずにクリアに挑戦! っていうのがあたしの出世作だしねー。あれで超ファン増えたしー」
舌足らずで間延びした、あの実況動画のアイリスそのものの喋り方で有栖川――いや、アイリスが答える。
ゴーストシリーズというのは、これまで四作が出ている作りこまれた高難易度が売りのアクションRPGシリーズで、アイリスがそれを得意にしていることは俺も知っている。確かにあのゲームで最高難易度でプレイすると、こちらの攻撃はほとんどダメージが通らず向こうの攻撃を受けると一撃死が当然になってしまうので、攻撃を全て受け流して隙を窺いながら致命の一撃で一撃必殺を繰り返すしかない、というのがお約束だった。
「やはり得意としているゲーム由来のスキルが多いようだが、よく分からないスキルもあるな」
冬村は呟いて、不破、そして俺を順に見る。
「不破博士の――いや失礼、不破の最適構成は、そもそも構成の意味が分からないし、大河の???に至っては――」
「……まあ、はい」
としか、答えられない。
「あとは、あれだね、俺と霜尾君、だっけ、スキルが一緒ってのが面白いね。召喚できる銃の種類は違うみたいだけどさあ」
佐久間が今度は慣れ慣れしい口調のままで霜尾に語り掛ける。霜尾はスナイパーライフルを構えたままで、目を下に伏せて反応しない。
「しかし、やはり報告通りか……。君たちは実際に銃を構えた経験はないはずだ。なのに、まるで歴戦の兵士のように銃を扱えている」
冬村がそんな二人の姿を見て呟く。
「どうやら、これまでの向こうの世界での経験や技術の差はそこまでこちらの世界では影響しないらしい――どう思う、不破?」
白衣姿の不破は、それには答えず、周囲の木や、地面の石、草など、あらゆる部分を撫でている。眼を爛々と輝かせて。
「ねえねえー、大河君、さっきからずっと黙ってるじゃん、どしたのー、緊張してる?」
と、アイリスが突然話しかけてくる。肘でつつきながら。
「あ、いや」
突然のことに驚いて反応できないでいると、
「――来るぜ」
突然、蒼井が口を開く。平静な口調の端的なその言葉に、
「全員戦闘準備。直接戦闘に自信のない者は回避と防御に専念」
冬村がそう指示を出す。
全員が身構え直す。
俺も、自分でも不思議なくらいに落ち着いて、剣を構える。
そうして感じる。確かに、来る。右前方、木々の間を縫うようにして、何かが近付いてきている。気配を感じる。すぐに気配だけではなくて音、そして姿まで見える。
敵だ。直感的に判断する。
やってきたのは三匹の、狼と犬の中間のような獣だ。牙を剥き、よだれをまき散らしながら俺たちに殺到してくる。
戦闘が開始される。
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