気になるあの子はヤンキー(♂)だが、女装するとめっちゃタイプでグイグイくる!!!

可愛ければ、なんでもいい。男の娘でも☆
味噌村 幸太郎
味噌村 幸太郎

鳴らないベル

公開日時: 2021年7月8日(木) 13:03
更新日時: 2022年4月21日(木) 17:07
文字数:2,404


 結局、ミハイルからの着信は『あれから』一切なく、一週間が経った。

 正直いって気まずかった。

 なぜならば、今週の日曜日がスクリーングだからだ。

 一ツ橋高校で出会うことになる。

 その前に謝罪をするべきか? と、毎日スマホを見てはため息をつく。

 だが、「ミハイル」というアドレス帳をタップするほどの勇気は俺にはなかった。


 あの日……、もし俺がミハイルと付き合っていたら、どうなっていたんだろう?


 そればかりが、頭から離れない。

 ミハイルが去り際、『じゃあ生まれ変わったら、付き合ってくれよな☆』と言い残した。

 生まれ変わる? まさかフラれたことがショックで自殺……なわけないよな。

 こんな俺のために、自殺なんてするか?

 たかが、3回しか会ってない関係なのに。


 俺は自室で、編集部の白金から言われたラブコメの設定を考えていた。


 主人公は中二病満載のオタク。

 ヒロインはロシア人のハーフの金髪美少女。


「あれ?」

 書いていて思った……まんまミハイルがモデルじゃねーか!

 クソ……。


「おにーさま!」

 人がタイピングしているというのに、横乳を左腕にのせるんじゃありません!

「かなでか……」

「どうしたんですの? 最近、元気がないですわ。かなでで自家発電しすぎましたの?」

 相変わらずブッ飛んだ妹だ。

「な訳ないだろ……」

「本当に元気ないですわねぇ。ひょっとして……ミーシャちゃんとケンカでもしましたの?」

 ギクッ! こいつ、けっこう鋭いんだよな。


「べ、別に関係ないだろ!」

「怒るということは、ほぼ図星ですわよ、おにーさま♪」

「クッ!」

「かなでに相談しませんか?」

 目を輝かせて、モニターの前に顔を出す。

 こいつ、人の仕事を邪魔したいだけだろ。


「なぜ、かなでに話す必要性がある? メリットは?」

「メリットですかぁ? ミーシャちゃんの裏情報とか?」

「はぁ!?」

 なにこいつ。ミハイルん家にストーキングでもしているのか?


「ソースは?」

「もちろん、かなでちゃんですわ!」

 怪しすぎる。

「かなで……ハッキングとか好きなのか?」

「酷いですわ! ミーシャちゃんとおにーさまは、既におっ友達でございましょ?」

「ん? まあ……確かにそうだな」

「ならば、妹のかなでも、ミーシャちゃんとおっ友達ですわ♪」

「はぁ?」


「これを見るですわ!」

 かなでが差し出したのは、18歳未満禁止の男の娘エロゲーの自作スマホケース……。

 じゃなくて中身のスマホ。

 アドレス帳に見慣れた名前がある。

『♪ミーシャちゃん♪』



「おまっ! どこで手に入れたんだよ!」

「ミーシャちゃんが『パジャマパーティ』の時に、教えてくれたんですの♪」

「この前、ミハイルがうちに泊まったときか!?」

「ええ、おにーさまが寝てたので♪」

 なるほど、こいつ……やりおるわ。

 人が寝ている間に。


「で? それでお前とミハイルになんの関係がある?」

「かなでのおっ友達に追加されたから、毎日L●NEしてますわ」

「ま、マジか……」

 俺なんか、電話するのもメールするのもしんどいのに。


「ええ、あの日以来、毎日お互いの趣味を暴露しあっていますわよ♪」

「趣味って……かなでのか?」

「もちのロンですわ! かなでは、主に男の娘のエロゲや同人ですわね♪」

 俺の初めての友人に、なんつーもんを暴露してやがんだ、こいつ。


「肝心のミハイルの趣味は?」

「そうですわね……主にスタジオデブリのボニョや夢の国ランドのネッキーとか」

「フンッ、その情報ならすでに把握済みだ」

「ん~ 他にはおにーさまの趣味とか、聞かれたので、赤裸々に語ってあげましたわ♪」

「おまっ!? なにを話したんだ?」

 ガグブル……。


「そうですわねぇ……まあ、かなでのおっぱいをおかずに自家発電していることは、既にミーシャちゃんもご存じでしたし……」

 全くもってご存じじゃねぇ!

「あとは、確かおにーさまの女の子の好みとか?」

「はぁ? なんでそうなる?」

「かなでにも、わかりませんわ……それだけおにーさまのことを慕っていらっしゃるんですわ」

「なるほどな……で、俺の好みなんて存在するのか?」

 そうだ、俺に女の好みなんてない。


「答えるのに困りましたが、強いていうならアイドル声優の『YUIKA』ちゃんみたいな子が、好きと言っておきましたわ」

 ファッ!


「それからは、ミーシャちゃんとは毎日、電話で『YUIKA』ちゃんのミュージックビデオやダンス、出演しているアニメ、好むファッションやコスメなんかをずっと話していましたわ♪」

「へ、へぇ……」

 あのヤンキー少年が、ずいぶんとオタク落ちしましたね。


「ま、ケンカしても、時間がお二人の関係を治してくれますわよ♪」

「そんなもんか?」

「ええ、かなでも推しの男の娘やBLで腐女子さんたちとよくおケンカしますもの」

 それって友人関係に入るの? 臭そう。


「ほら、噂をすれば♪」

 机の上を指すかなで。

 スマホがブーッと揺れている。


 名前は『ミハイル』


 俺はすぐスワイプして電話に出た。

「もしもし、ミハイルか! 生きているのか!?」

『う、うるさいなぁ……生きているに決まってんだろ。一体どうしたの? タクト』

 いや逆に心配されちゃったよ。


「いや、あの……この前はだな……」

『なんだあれか、忘れてくれよ☆』

 忘れる? ウソォォォォォ!


「本当に忘れていいのか?」

『うん☆ それより、お前に会わせたいやつがいるんだ』

「は?」

『オレのいとこでさ。タクトのことを話したら、会いたいってうるさいんだよ』

「へ、へぇ……」

 なんか嫌な予感。


『ねぇ、土曜日空いてる?』

「スクリーングの前の日か……問題ない」

『じゃあ、土曜日な! またメールすっからさ☆』

 そう言うと、ミハイルは一方的に電話を切った。

「なんだったんだ……」

 視線を左にやれば、ニヤニヤ笑う妹のかなで。


「おにーさま、よかったですわね♪」

「かなで……お前、なにか企んでないか?」

「なんのことですの?」

 首をかしげてはいるが、口元がガバガバでゆるゆるだぞ!


 まあよしとしよう……。

 ミハイルから電話をかけてきてくれて、俺は心から安心していた。


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