気になるあの子はヤンキー(♂)だが、女装するとめっちゃタイプでグイグイくる!!!

可愛ければ、なんでもいい。男の娘でも☆
味噌村 幸太郎
味噌村 幸太郎

ブレブレ、アンナちゃん

公開日時: 2022年6月5日(日) 14:00
文字数:1,806


 ひなたと次の取材先を決めたは良いものの……。

 店に戻ると、アンナがニコッと微笑んで、俺を待っていた。


「タッくん。誰と電話かな?」

 声がめっちゃ冷たい。

 疑われているのは間違いない。

「はは、仕事だよ。小説の方……」

「ふーん。出版社の人じゃないよね? 誰?」

 ずいっと俺に小さな顔を近づける。

 いつもならキラキラと輝く美しい緑の瞳なのに、どす黒い闇を感じた。


「あ、あの…その……あれだ! 取材だよ」

 更に俺の顔を覗き込む。

 その距離、わずか一センチほど。

「アンナ以外で取材する必要ってあるのかな? ひょっとして、ひなたちゃん?」

 ぎゃあああ! エスパーかよ、こいつ。

 怖すぎ。


 ここは嘘をつくのをやめておこう。

「う、うむ。彼女もまたサブヒロインとして、ラブコメの取材対象の1人なんだ。どうしても協力してもらう必要があるんだ」

「へぇ……サブなんだ。メインはアンナなの?」

「も、もちろんだとも!」

「そっか。で、どこに行く気? まさか、またラブホじゃないよね?」

 脅しだ……誰か助けて。


 脇から大量の汗が吹き出す。

 生きた心地がしない。


 一連の会話を見ていたラーメン屋の大将が、割って入ってくる。


「なあ、ラブホにあの女子高生連れて行ったのかい? 琢人くん……おいちゃん怒るよ。アンナちゃんっていう本命がいるのにさ!」

 お前は入ってくんな! 更に話がこんがらがってくる。

 だが、アンナは冷静に対処する。

「大将さん。あの女子高生とタッくんはなんの関係もないの。ひなたちゃんっていうんだけど、悪質なストーカーでね。病的なまでの……。心を病んだあの子の妄想に、優しいタッくんが付き合ってあげているだけだよ☆」

 勝手に病人にされている!?

「そうか。あの子、元気そうに見えたけど、かわいそうな子なんだなぁ。若いのに……」

 酷すぎる。

 確かに、ひなたは度が過ぎる時もあるが。


 大将をなだめると、アンナは再度、俺を見つめて、こう言う。

「さ、ひなたちゃんとどこに行くか……教えて☆ 大丈夫、タッくんは浮気なんてしないって、信じているから☆ さぁ、教えて。教えるだけだよ☆」

「……」

 怖すぎる!

 これ、教えたらどうなるんだ? 流血沙汰にならないか?


「えっと……海の近くです…」

 間違ってはないだろう。

 この前、アンナと行った海ノ中道海浜公園の近くだからな。

 恐る恐るヒントを与えてみると、アンナの瞳に輝きが戻る。

「そっかぁ。海だね☆ 安心した☆」

 え、どう安心できたの?


   ※


 ラーメン屋を出て、博多駅に戻る。

 未だに花火大会帰りの客で溢れかえっていた。


 駅舎の中では、たくさんの駅員が立っていて、ホームまでの案内や規制などをしていた。

 アナウンスが流れてきて、列車に乗るのも人数制限しているのだとか。


 また帰るまで、時間がかかりそうだ。


「タッくん。遅くなっちゃうね」

「ああ。もう夜の11時近いのにな。家に帰ったら、12時回るかもな……」

 と、ここで、ふと気がつく。

 あれ? アンナっていつも取材する時、博多駅で待ち合わせしていたような。

 必ず別れる時は、改札口あたりで手を振っていたような。

 ていうか、行きの電車で初めて一緒に乗った気が……。


 だが、今はどうだ?

 ホームで一緒に並んで立ち、小倉行きの列車を待っている。


「なあ、アンナってどこに住んでいるんだ?」

「え? いつも言っているじゃん。アンナは遠い田舎の……はっ!?」

 俺に話を振られて、目を見開く。

「だって、いつも博多駅でお別れだったじゃないか? 家は反対方向じゃないのか?」

 そうツッコミを入れると、額から大量の汗を吹き出す。

「あ、あれだよ! 今はね。夏休みでしょ? だから、ミーシャちゃん家にお泊りしてるんだよ☆」

「なるほど……じゃあ、もういっそのこと、ヴィッキーちゃんとミハイルと三人で暮らせばいいじゃないか。遠方から来るのも大変だろうし、俺も女の子のアンナを1人で遅く帰すのは、良くないと思うんだ」

 ちょっと、意地悪してみる。

「た、タッくんは優しいね……でも、大丈夫。駅までミーシャちゃんが迎えに来てくれるし……」

 自分で自分を迎えに行くって、死ぬのか?


「そうか。まあ俺はいつでもアンナを送るつもりだから、その時は言ってくれ」

「う、うん☆ こういう時、男の子は頼りになるよね☆」

 お前も男だ。


 結局、一時間以上待って、列車が到着し、地元の真島駅に着いたのは、深夜の12時。

 俺だけ1人でホームに降り、自動ドアが閉まる。

 アンナは寂しそうに手を振っていた。


 もう席内にいるっていう設定の方が楽じゃないのか。


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