気になるあの子はヤンキー(♂)だが、女装するとめっちゃタイプでグイグイくる!!!

可愛ければ、なんでもいい。男の娘でも☆
味噌村 幸太郎
味噌村 幸太郎

夕陽の決闘

公開日時: 2021年7月6日(火) 15:24
更新日時: 2022年8月31日(水) 11:48
文字数:3,645


 俺は、担当編集兼、ロリババア兼、アホの白金しろがね 日葵ひまりから一目散で逃げてきた。


「あの女のことだ……絶対にミハイルのことを知れば、きっと……」


 こういうのだ。


『取材に使えるじゃないですか!!!』


 そんなのは、まっぴらごめんだ。

 この天才でライトノベル作家である新宮 琢人の初ジャンル、ラブコメ作品において、まさかヒロインが男の子なんて……。

 母さんや妹のかなでが、絶対にホモォォォォォ光線を浴びせてくるに違いない。


 博多社から出て、天神の渡辺通りを急いで歩く。


 あてもなく、近くのファッションビル『博多マルコ』に入った。

 地下一階に入り、喫茶店でアイスコーヒーを頼む。

 キンキンに冷えたグラスを受け取ると、おひとり様専用の席につく。


 慌ててズボンのポケットからスマホを取り出す。

 不在着信の通知がたかが数分というのに31件……。

 ストーカーかよ。

 しかも全部ミハイル。


 ブルルル……。


 恐怖を覚えるのも束の間、すぐに次の着信がなった。


「もしもし……」

『おっせーぞ、タクト!』

 めっさキレてはるよ……。

「すまん……仕事でアホな女と話していた」

 ちな、白金のことである。

『お、おんなぁ!?』

 そんなに驚かなくても……なんか涙出そう。俺にとって、レアイベントなのでしょうか?


「ああ、言っただろ? 俺は作家だ。ただの編集部の人間。しかもババアだ」

『そっか……おばあちゃんなのか☆』

 アラサーを高齢者扱いしちゃいけません!


「ところで要件はなんだ? ミハイル」

『あ、あのさ……今日の夜、真島駅で会えない?』

「ん? 夕刊配達が18時ごろに終わる。それからなら構わんが」

 そんなに巨乳JC、かなでが気になるのかな?

 お年頃だし、きっと今まで妹のかなでで、自家発電していたのかもしれん……。

 かなでよ、喜べ。変態なお前にも、ついにモテ期が来たぞ!


『そっか☆ じゃあよるの7時に真島駅で待ち合わせな!』

「了解した」


 アイスコーヒーをガブ飲みすると、ため息をもらす。

 俺はなぜ、こんなにもミハイルの存在を隠し通すのか……。


 しかし、普段着信履歴なんて、買い物とかで母さんやかなでからあるぐらいだ。

 不在着信31件は恐怖を覚えはしたが、なぜか嬉しかった。

 それがミハイルだからなのか……それはわからない。

 ただ、胸の高鳴りが抑えられなかった。

 今も同様だ。


 俺は博多マルコの地下から天神地下街に降り、地下街で見かけたパン屋に入ると、メロンパンとクロワッサンを買った。

 電車に乗って、先ほど購入したパンを頬張りながら、地元の真島駅へと向かう。


 自宅に着くと、すぐに夕刊配達に向かった。

 ここまでの体感時間、5分もない。

 それぐらい急いでいた。いや、待ち遠しかったのだ。

 ミハイルに会える喜びを。


 帰宅すると汗臭くなった身体をシャワーで洗い流し、『タケノブルー』のTシャツとジーンズを着用した。

 スマホに目をやると時刻は『18:50』

 俺は走って家を出る。


 商店街を走り抜けることで、せっかく流した汗がもう滲み出る。


 真島駅につくと、駅前のコンビニ『真島マート』の前で、一人の少年が立っていた。


 その子は、金髪で色白で寂しそうに地面を見つめている。

 服装はヘソだしのチビTと、ダメージデニムのショーパン。

 裾が破れている加工のためか、もう少しで彼のおパンティーが見えそうだ。

 と、いかんいかん。

 あいつは男であり、名は古賀 ミハイル。


「あっ、タクト! おーい☆」

 俺を見つけるやいなや、右手を大きく振るミハイル。

 そんなにぼっちがさびしかったのか! クッ、俺がぼっちの楽しみを教えてやるぜ!


「はぁはぁ……すまない。待たせか? ミハイル」

「ううん、全然! たった一時間ぐらい☆」

 えええ! やめてぇ~ サラッと怖いこといわないで!

「そ、そんなに待たせたか……すまん」

「気にすんなよ! 暇だから早くついただけだし☆」

 そんなに暇なら勉強しろよ!


「そうか。で、要件ってなんだ?」

「えっと……ここじゃ人が多いから、どっか静かなところがいいな……」

 なぜ顔を赤らめる! そしてまたコンビニ前の『ゆか』ちゃんがお友達に追加されたぞ。

 しかも静かなところって……ラブホ!?

 なわけないか。



「なら、近くに真島公園がある。そこでいいか?」

「うん☆ 公園大好き!」

 おんめーはガキか!


 真島公園、幼い頃から俺はここでよく遊んでいた。

 大きくて長い滑り台、ブランコ、シーソー、たいがいの遊具はここにくれば、間に合う。

 だが……、俺は小学高学年の時ぐらいから、足を運ぶのを止めた。

 なぜならば、ぼっちだったし、いじめられて不登校になったのでな。



 夕陽で薄く赤く染まった公園は、どこかロマンティックだ。

 公園の中央に大きなため池があり、鯉やカモなどが生息している。

 池の前のベンチにミハイルを座らせた。

 俺も隣りに腰を下ろす。


「で、要件ってのは?」

「あ、あのさ……タクトってさ……」

 なにをモジモジしている? 聖水か?

 臭くて汚くて虫がいっぱい集まるトイレなら、公園の奥にあるぞ?


「俺がどうした?」

「タクトって……カノジョとかいるのか!?」

 ファッ! それを俺に聞く?

 なにこれ? いじめなの?

 かっぺムカつく。


「それが要件か?」

 俺は少し苛立ちを覚えていた。

 声のトーンが上がるのが、自分でもわかる。

「お、怒らなくてもいいじゃん……ただ、知りたくて」

 そんなにオタクやぼっちの生態が知りたいのか?

 興味本位で近づくと、お前もぼっちの仲間入りだぞ。


「はぁ……いいか、ミハイル。俺は生まれてこの方、恋人なんていたことない」

「そ、そっか! そうだよな! タクトにカノジョなんているわけないもんな☆」

 ミハイルさん、人の不幸がそんなにおもしろいですか?

 あなたが女みたいな顔してなければ、腹パンしたい。


「じゃあ、かなでちゃんとかは……好きじゃないの?」

「ハァ!? ミハイル、あいつを女として見たことなんて一度もないぞ?」

「そ、そっか……良かったぁ……。なあ、タクト」

 瞳を揺らしながら、顔を寄せるミハイル。

 夕陽のせいか、ミハイルのほおは赤く染まる。

 

「オレのお願い……聞いてくれるか?」

 きた。きっとアレだ。


『おまえの妹に告白していいか?』

 だろ……。

 フッ、かなで。お前に拒否権はない。

 俺が代わりに受諾しておいてやる。


「構わんぞ?」

 なぜかニヤニヤが止まらない俺。


「オレの……一生のお願いだ! 真剣に聞いてくれ! タクト!」

 妙にマジな顔つきだ。

「わ、わかった。しかと聞くぞ」

 ミハイルは深く息を吸い込む。

 一瞬瞼を閉じて、覚悟を決めたようだった。

 パッと目を見開くと、小さな唇が動く。


「あのな……オレと付き合ってくれ」

 聞き間違えか? 誰と誰が付き合うんだ……。

「ん? 妹のかなでとだろ?」

「違う!!!」

 めっさキレてはる。


「じゃあミハイルは、誰と付き合いたいんだ?」

「タクトに決まってるだろ!」



「……」

 パニックパニック! 俺が大パニック!

「ミハイル、お前……俺を茶化してないか?」

 一応、確認をとる。

「ちゃかしてなんかない! 俺はタクトが世界で一番だいすきなんだよ!!!」

 

 

 新宮 琢人、生まれて早17年……まさか初めてのラブイベントが男の子とか……。

 いや、ないわ~


 俺は曲がったことが大嫌いだ。

 物事を白黒ハッキリさせないと、気が済まない。

 確かに古賀 ミハイルは、俺が見てきたどの『女の子』よりも可愛いし、美人の部類だ。

 だが、彼女じゃなくて彼だ。

 限りなく、グレーゾーンに近い。

 俺はそんな存在を、受け止められることはできない。

 性格が故に。


「ミハイル……すまない。それは無理な願いだ」

「そ、そんな!?」

 涙がすっと落ちる。

 それを見て、俺は胸に何千本ものナイフが、胸に刺さるような激痛を感じた。


「なんでだよ! オレのこと……『カワイイ』って言ってくれたじゃん!」

 ボカボカと俺の胸を拳で叩くミハイル。

「確かにそれは事実だ」

「なら……いいじゃん……」

 崩れ落ちるように泣きじゃくる。


「悪い、俺は物事を白黒ハッキリさせないとダメな存在なんだ。だから……男のお前とは恋愛関係にはなれない」

「ひどいよ! オレの気持ち、ちゃんと伝えたのに……」

 ミハイルは力なく立ち上がる。


「おい、どこにいく。ミハイル?」

「帰る……」

 肩を落としながら、その場を去ろうとする。

「待て。送るぞ」

「いらない! でも……最後にもう1つだけ、聞いていい?」

 振り返るミハイルの顔は、涙でいっぱいだったが、その姿さえも美しく、絵になる。


「どうした? なんでも言ってみろ」

 それが精いっぱいの罪滅ぼしだと感じた。


「オレが女だったら……付き合ってた?」

 反応に困った。だが仮定の話だし、確かに彼が女だったらなにも問題はない。

 俺の性格がすでに正解を出している。


「ああ、ミハイルが女だったのなら、絶対に付き合っている」

「そっか……じゃあ生まれ変わったら、付き合ってくれよな☆」

 一瞬、泣き顔が笑顔に変わった。

 だが、すぐに顔をしわくちゃにして、泣きながら走り去っていく。


「ミハイル……」

 本当にこれでよかったのか? 俺とミハイルとの関係は今日で終わりなのか?

 なんでこんなにも胸が痛いんだ。


 俺は深夜まで、公園のベンチで彼の着信を期待していたが、ベルは一度もならなかった。

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