気になるあの子はヤンキー(♂)だが、女装するとめっちゃタイプでグイグイくる!!!

可愛ければ、なんでもいい。男の娘でも☆
味噌村 幸太郎
味噌村 幸太郎

真打の登場

公開日時: 2022年4月28日(木) 16:27
文字数:3,522


 先ほどのリキとの『ドッキング』疑惑で、俺は日田の兄弟ともう仲良くできないかもしれない。

 まあ、いつか誤解は解けるだろう……知らんけど。


 攻め役を演じてしまったリキ本人は、なんのことか、さっぱりらしく。

「変な奴ら」と首を傾げていた。

 俺は受けの人だとは思われたくないので、リキに「話の続きはホテルの部屋で聞くから」と先に露天風呂から出た。

 というか、逃げたんだけど。


   ※


 浴衣姿になると、俺は更衣室を出て元の道を辿る。

 エレベーターを使って、二階に降り、ゲームセンターと売店が見えたところで、スマホのベルが鳴る。

 アイドル声優の『YUIKA』ちゃんの可愛らしい歌声……耳の穴から身体癒されるぅ~

 じゃなかったと、着信名を確認すると、古賀 アンナ。


「ん!?」


 思わず、スマホの画面を二度見してしまった。

 だって今、俺たちがいるのは、福岡県から遠く離れた街、大分県別府だ。

 古賀 ミハイルがここにいるのは、わかる。

 だが、アンナはこの場にいない設定のはずだ。設定上。

 

 とりあえず、電話に出てみる。

「もしもし?」

『あっ、タッくん☆ アンナだよ、久しぶり~☆』

 偉くテンションが高いな。

「ああ、久しぶりだな。どうした? 取材の件か?」

『うん☆ 取材しよ! 今から……』

「は? アンナ、悪いが俺は今、別府に来ていて……』

 言いかけている途中で、眼前がブラックアウトする。

 そして、少し冷たくて柔らかい感触を感じた。

 甘い石鹸の香り……。


「だーれだっ!?」


 今日日、やらない行為だな。


「まさか……アンナか」

「せーいっかい☆」

 俺が当てたご褒美に、視界が解放される。

 瞼をこすってみる。

 そこには、正真正銘の金髪美少女が立っていた。


 長い金色の美しい髪を、肩から揺らせて。

 頭には大きなピンクのリボンのカチューシャ。

 上から真っ白なノースリーブのブラウス。

 パールバックルベルトがついたミニ丈のフレアスカート。

 白くて透き通るような細い脚を拝める。

 足もとは、温泉には似合わないガーリーなデザインのリボンサンダル。


 間違いない。

 こんな天使はこの世に一人しか存在しない。

 俺の大事な取材対象、アンナだ。(♂)


「タッくん☆ 来ちゃった!」

「は……?」

 ちょっと、軽く脳内がパニックを起しているのだが?

 なぜ、一ツ橋高校の卒業旅行にアンナが参加しているのだ……。

 いや確かに、ミハイルが一緒なのはわかっている。

 彼女がこの学校の情報を知っていると言うのは、解せん。


「タッくん、ここで取材していこ☆」

「ちょ、ちょっと待て! アンナ、どうして、ここにいるんだ?」

 ここは設定を守らないと今後、おかしくなる。

「え……?」

 額から滝のような汗を吹き出す。

「だって、ここは別府だ。同級生のミハイルは来ているが、何故、部外者のアンナがホテルにいる?」

 そうじゃなきゃ、アンナちゃんストーカー説。

「そ、それはね……そう! ヴィッキーちゃんに教えてもらったからだよ☆ だから、ミーシャちゃんと一緒に来たの! ば、バスは別だったけどね……」

 なんと苦しい言い訳だ。

「なるほどな。だが、今もう夜の9時だぞ? アンナ、今日はどこに泊まるんだ?」

「ミーシャちゃんと同じ部屋だよ☆」

 ファッ!?


 全て、謎は解けたぞ!

 松乃井ホテルに着いた時、俺が宗像先生に、ミハイルの部屋を訊ねたら……。

『ああん? 古賀のことか。あいつは家族と一緒に泊まるって言うから、事前に部屋を決めておいたぞ』

 と語っていた。

 そして、登校時、異常に大きなリュックサックの中身は、この為だったのか!?



「ふむ……了解した。じゃあ取材と行くか」

「うん☆ タッくん、イルミネーションに観に行こうよ!」

「ああ」


 まったく、困った取材相手だな。


   ※


 俺とアンナは仲良く、ホテルのバスに乗り、長い坂道を下っていく。

 外はもう真っ暗だが一際目立つ、煌びやかなイルミネーションが見えてきた。

 松乃井ホテルの道路沿いに、キラキラと輝くライトアップされた美しい木々。

 それに光りのトンネルや、お姫様が乗っていそうなかぼちゃの馬車。

 可愛らしいクマさんやウサギさんがお出迎え。


 色とりどりの鮮やかなイルミネーションが作りだしたこの場所は、まるで別世界。

 日本ではない、ファンタジーの世界に迷い込んでしまう錯覚を覚える。


 バスから降りると、アンナが俺の手を引っ張って、駆け寄る。

「タッくん、見て見てぇ! すごく、キレイだよ~☆」

「あ、ああ。確かに壮観だな……」

 俺はイルミネーションよりも、その灯りに負けないぐらいに輝いている彼女のグリーンアイズに見惚れていた。

 なんだか、変な気持ちになってきた。


 リキが言っていたように、女が非日常的な光景に弱いってやつは、本当のことなのかもしれない……。

 今日はホテルも背後にある。

 あれ、俺ってば、今宵、童貞を捨てられるフラグ立っちゃった?

 いや……無理だって。相手は男だよ。


 煩悩を振り払うために、頭を左右にブンブンと強く振り回す。


「タッくん? どうしたの? 調子悪い?」

「いや、別府にまで、アンナと一緒に来れて……感激していたんだよ」

「そっかぁ☆ アンナも同じ気持ちだよ☆」

 小悪魔的な笑顔を魅せてくる。

 イケるの? 『いいよ』って合図出してるんの?

 ど、ど、どうしよう……『大事なもの』も用意してないし……。



 俺は一人頭を抱え、脳内で理性と野生が壮絶な戦いを繰り広げる。

 その場で、ジタバタしていると、誰かが俺たちに声をかけてきた。


「お~う、琢人じゃねーか!」


 光りのトンネルの奥に、かぼちゃの馬車の前で、一人の男が見えた。

 長テーブルの上には、大きなクーラーボックスが何個も置いてある。

 そして、テーブル下に白いのれんがかかっている。


『美味しくて冷たいアイス販売中♪ トッピング豊富♪ お肌にも優しいオーガニック』


 そんな健康的な文言とは、似合わない販売員がテーブルの後ろに立っている。

 ストライプに刈り上げた坊主頭に、両腕に龍と虎のタトゥー。

 間違いない。見た目シャブ中の売人。善良な福岡市民の夜臼先輩だ。


「わぁ、アイスだって! 美味しそう☆ タッくん、一緒に食べようよ☆」

「え、ちょっ……」

 アンナに手を引っ張られて、光りのトンネルを通り抜ける。


 その先で、夜臼先輩は、怪しく微笑んでいる。

 可愛らしいアイスのプリントされたエプロンをかけているのだが、余計に誤解されやすい。

 

 だが、俺は戸惑っていた。

 それは、今隣りにいるのが、古賀 アンナだからだ。

 ミハイルを知っている人物に出会えば、女装しているとはいえ、正体がバレるのではないか……。

 それだけは、避けたい。

 彼女を傷つけたくないから。


「ヘッヘヘヘ……琢人も隅におけねぇじゃねーか? 童貞だと思ってたけど、こんなカワイイ彼女がいるんなんてよ、ウッヒヒヒ!」

 笑い方が怖い!

 俺の心配は必要なかったようだ。

「カワイイだなんて~☆ うれしい~」

 恥ずかしがる女装少年。

「あ、いや。彼女ではないですよ……」

 一応、弁解しておく。


「はぁ? 琢人……おめぇ、女の子に恥をかかせる気か! 俺りゃあ、そういう中途半端な野郎が大嫌いなんだよ!」

 珍しく怒られちゃったよ。

「す、すみません。今、まだ彼氏彼女未満みたいな関係でして……」

「ほーう。そうかぁ……なら、好都合だべ!」

「え?」

「俺りゃあのアイスを食ってきな! この一つのアイスを二人で仲良くイルミネーション見ながら食えば……ヒッヒヒ。飛ぶぜ? 天国へな」

 ドヤ顔してるけど、ただのお節介なおじさんじゃん。


 夜臼先輩を見ても物怖じせず、アンナは注文を始める。

「えっと、アンナはチョコアイスが好きだけど、タッくんはバニラが好きだから……」

「アンナちゃんって言うのか? ヒッヒヒ……カワイイ顔して、経験済みなのか。こりゃあ、売人の血が騒ぐってもんだ」

 アイスのね。

「俺りゃあ、琢人のダチでよ。夜臼 太一ってんだ。よろしくな、アンナちゃん。ウッヒヒヒ」

 なんで一々、この人の喋り方って誤解を招くのだろう。

「あ、古賀 アンナって言います。ミーシャちゃんのいとこです☆」

「ほぅ、ミハイルの親戚か。なら、サービスだぜぇ。チョコとバニラを一つのコーンにダブルでいいかぁ? ヘッヘヘヘ、これなら、仲良く食べれるぜぇ?」

「じゃあ、それでお願いします☆ 夜臼先輩☆」

「ウッヒヒヒ、琢人。いい子じゃねーか」

 あんたもいい人だね。


「あとよ、新作も売ってんだぜ? ヘッヘヘヘ……乾燥させた『野菜』だぁ、ウッヒヒヒ!」

 そう言って、テーブルの下から出したのは、確かに乾燥野菜のニンジン、オクラ、レンコン、トマトなどなど。

「野菜本来の甘みだからよぉ、太りにくいし、健康的でよぉ。お肌にもいいんだぜぇ~ 今なら安くしてやるよぉ~ 末端価格にして100グラム88円だぜ、ヘッヘヘヘ!」

 正当な価格では?

「お肌にいいんですかぁ☆ じゃあ、おみやげに1キロください☆」

 交渉成立しちゃった、合法的に。


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