気になるあの子はヤンキー(♂)だが、女装するとめっちゃタイプでグイグイくる!!!

可愛ければ、なんでもいい。男の娘でも☆
味噌村 幸太郎
味噌村 幸太郎

小説に取材は必要ですよ

公開日時: 2022年1月9日(日) 19:13
文字数:2,637


 例の募金騒動を終えると、俺と白金は天神にある博多社のビルで、次作に向けて打ち合わせを始めた。


「DOセンセイ。それにしても……さっきの女先生への発言は酷すぎですよ」

「なにが酷いんだ? 俺は正論を言ってやっただけだ」

「はぁ……じゃあ原稿を見せてください」

「じゃあ……とはなんだ? おまえが呼び出したくせに、この天才の原稿を提出されることを、光栄に思え!」

「はいはい、じゃあ天才センセイのアイデアをもらいましょうか」

 鼻をほじりながら、話すな!


 俺はリュックサックから、原稿を取り出し、机の上に置く。

 それを白金が「では、拝読させていただきます」と一礼してから、目をやる。

 


 今回のは初めての短編だ。

 原作については俺の発案でほぼストーリーを決めていたのだが、今回は編集の白金から宿題が出た。

 その理由は俺の作品の発行部数が関係していた。

 現在の『DO・助兵衛』作品が単行本にされたのは、残念なことに3冊のみだ。



 処女作。『ヤクザの華』は一冊目こそ、「ライトノベルなのに大人向け」とか「残虐な描写がたまらない」とか、一定数の評価は得られた。

 売り上げも好調だった。

 これは古くからの俺のファンがライトノベルユーザーへの布教が入ってたらしい。

 一巻こそ売れ行きや評判は上々だったのだが、そうはうまくいかない。


 大半のライトノベル読者は二巻で

「つまらない」

「萌えない」

「可愛い女の子がいない」

 など、文句を垂れる始末。

 ネットでもレビューが大荒れ。星がゼロに等しかった。


 三巻でそのクレームを白金が考慮し、「女キャラ出しましょうよ」との強引なテコ入れを行った。

 当然、ヤクザな主人公なわけだから、女も極道なわけだ。

 萌える要素なんて、これっぽちもないに決まっているだろう。

 そして、打ち切り……。



 見かねた編集の白金が「次は、流行りの異世界でやっちゃいましょう!」との提案を元に、今回初のファンタジーを書いてきた。

 自信作だ。

 あの白金も俺の原稿を読みながら、目を光らせている。

 そうかそうか、おもしろすぎるんだな。

 出版決定、重版決定だ。

 夢の印税生活、ヒャッハー!


 だが、俺の予想と反して、原稿を読む白金の顔はどんどん険しくなっていく。


「……」

 読み終えると、眉間にしわを寄せて、こめかみに手をあてる。

 どうやら、なにか言葉に詰まっているようだ。

「今回のはすごいだろ。壮大なファンタジー長編になるぞ」

 俺は胸を張って笑みを浮かべる。

「チッ、クソみえてぇだな……」

「は?」

「クソですよ、キングオブウンコ、ウンコオブジエンド」

 てめぇは、何回クソを連呼するんだ!

 俺の小説は肉便器じゃねー!

「そ、そんなはずは……俺は確かにお前が言った通り、王道の異世界ものを書いてきたぞ!」

「コレがですか?」

 原稿をゴミのように雑に扱う白金。

 酷い! 俺が徹夜で書いた小説を……。


「ちょっと、私が読んでみていいですか?」

「おうとも!」

 すると、白金は小学生が授業参観で「未来の私へ」みたいなキモい喋り方で読み始めた。


 タイトル

『中年ヤクザ。抗争中におっ死んだけど、異世界に転生してユニークスキル違法薬物を使い、世界をハッピーにするぜ!』


 俺の名前は、中毒組の若頭、とらじろう。

 確か、抗争中に俺は……。

 目の前は、真っ白な雲が一面に広がっていた。

 ここは天国か? 


「とらじろう。中毒組のとらじろうよ……」

 一筋の光りと共に、美しい女神が現れた。

「なんだってんだ? ここは……あんたは誰だ?」

「私はこの世界の神です。シャブ中で死んだあなたを召喚したのです」

「ウソだろ……俺は鉄砲の弾食らっておっ死んだんじゃ……」

「いえ、ただのオーバードーズです」

 我ながら、幸せな死に方したんだな。


「そんな、クズのあなたにチャンスをあげます」

「は?」

「この世界を救ってください」

 

 女神が言うには、この世界を魔王から救ってほしいのだとか。

 俺がこの異世界で生きていくため、チートスキルをくれるという。

 だから、俺は現世でも役立ったものを、女神に頼んだ。


 異世界に舞い降りた俺は、まず国王をシャブで操り、城内を違法薬物(ユニークスキル)で腐らせて、マインドコントロールしてやった。

 全兵をシャブ中にして、泡吹きながら魔王軍にカチコミ入れてやるのさ!



「てめぇが魔王組の組長か!?」

 聖剣ドスカリバーを構え、俺は魔王に奇襲をかける。

「人間の分際で……このわしに」

 魔王が毒の息を吐く。

 だが、そんなことに臆する俺じゃない。

 シャブが常に体内に入っているから、いつでもハイなのさ。


「なっ! わしの毒がきかぬだと! 貴様、まさか女神の聖水を……」

「そんなもん使ってねーさ。俺は転生スキルをシャブ漬けにしているのさ! だから毒なんてハイにもらないぜ!」

 魔王は腹を切り裂さかれると、膝をつく。

「このわしが……お前ごときに……」

「ガタガタうるせぇ! お前もシャブを食らえ!」

 

 引き裂いた腹のなかに、真っ白い粉をぶち込んでやった。

 

 一分後……。


「……うわぁい♪ ここはどこ?」

 どうやら、幼児退行しちまったらしいな。

 いきなり末期になるとは、ハッピーな奴だぜ。

「フッ、天国だ!」


 シャブ漬けになった異世界は、違法薬物でみんなハッピーな気持ちになれましたとさ。

 

 了



 読み終えると白金はため息をつく。

「はぁ……」

「泣けるな、ラスト」

 この一か月、慣れない異世界アニメを見て勉強したからな。

 感動もののファンタジー巨編だ。


「バカですか? これのどこが異世界ものなんですか?」

「は? 俺はちゃんと王道にしたぞ? 冒頭で主人公を死なせて、女神からスキルをもらって、魔王を倒し、異世界を救ったじゃないか」


「こんの……アホぉぉぉ!」


 キンキン声が窓ガラスを激しく震わせる。

 思わず、俺は耳を塞ぐ。

 周りにいた編集部の社員たちも同様だ。


「うるさいぞ、貴様!」

「なんで転生するのに、死に方がオーバードーズなんですか!? こんな転生するやつは一般人じゃないでしょ! しかも女神もなんで与えるスキルは違法薬物なんですか? こんなのみんなが憧れるチートスキルじゃないですよっ! このヤクザなら現世でもやれたことでしょ? 読者は非日常的なファンタジーライフを求めているのに、アングラすぎるんですよ! 最後なんて、『違法薬物でみんなハッピーな気持ちになれましたとさ』って、この世界の住人がオーバードーズで全員死んでるでしょうがっ! バッドエンドすぎます!」

「バッドエンドもあれだ。今流行りの『ざまぁ』とか言う王道だろ?」

「邪道! 意味わかってないでしょ、DOセンセイは!」

「「……」」


 そして、俺の原稿はゴミ箱行きになるのだった……。


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