気になるあの子はヤンキー(♂)だが、女装するとめっちゃタイプでグイグイくる!!!

可愛ければ、なんでもいい。男の娘でも☆
味噌村 幸太郎
味噌村 幸太郎

第二十六章 真夏の夜の部

策士、ミハイル

公開日時: 2022年4月7日(木) 14:33
文字数:3,318


 機嫌を少しなおしてくれたミハイルと、二人で混浴温泉へと向かう。

 大きな自動ドアが開くと、そこには別世界。

 温泉というよりは、ナイトプールに近い。


 外はもう真っ暗で、静かな別府の温泉街を一望できる展望スパが売りのようだ。

 上から下に向け、段が設けられていて、前に座っている人の背中を気にせず、夜景を楽しめる。

 どこからか、心地よい音楽が流れていて、水中は所々ライトラップされており、ランダムで光りの色が変わっていく。

 空を見上げれば、都会の博多とは違い、たくさんの星々が地図を描いている。

 なんて、きらびやかな世界なんだ。


 おまけに、左手には、高らかに立ち上る何本もの噴水が、踊るようにショーを繰り広げている。


 リキが言っていたことを思い出す。


『女ってのはさ。星空とか、夜景とか、非日常的な光景に弱いもんなのよ』


 確かに一理ある。


 これだけ、非日常的な光景を目の当たりにすれば、意中の女性を落とせそうな……妙な自信が湧いてくるってもんだ。

 その証拠に、辺りを見れば……。



「なぁ、いいじゃん」

「も~う、部屋まで待てないのぉ~」


 水着とはいえ、彼女の胸をまさぐる彼氏さん。

 だが、その彼女も笑っていて、抵抗しようとはしていない。

 

 そんなカップルばかりが、スパを貸し切り状態。


 クソがっ!?

 どこか、他でやれや!


 俺が歯を食いしばって、拳に力を入れていると、柔らかい指が力んだ腕をほぐす。

「タクト? どうしたの?」

 隣りに立っているこいつ。ミハイルは確かにカワイイ。

 だが、男の子なんだ!

「いや……ちょっとな」

「しょーせつのことでも、考えてたの?」

 下から上目遣いで、俺の顔色を伺う。

 腰をかがめているせいか、胸の谷間が露わになる。

 もう少しでトップが見えそうだ。


 クッ! だから、男モードのミハイルは苦手なんだ。

 防御力がなさすぎなんだよ。


「ま、まあな。この旅行も舞台として、いいかもな……。だが、今夜は取材対象が不在だからな」

 つい、ぼやいてしまう。

 そうだ。女装しているアンナとなら、デート気分を味わえたかもしれない。

「そ、そっかぁ……そうなんだ。ふーん、タクトって今、そんなこと考えてたんだ☆」

 なぜか一人、嬉しそうに頷くミハイル。

 あ、本人が目の前にいるのを忘れてた。


   ※


 俺とミハイルはさっそく、展望スパに入ってみる。

 水温は、思った以上に暖かい。というか、熱いぐらいだ。

 ちゃんと温泉なんだなと感じる。


 プールと同様、けっこう水深があったので、今度は溺れないように、俺はミハイルをおんぶしてあげた。


「うわぁ、キレイだなぁ☆ タクト!」

「あぁ、確かにこいつは、なかなか拝めないもんだな」


 思えば、一ツ橋高校に入学して色々なことがあった。

 ぼっちだった俺が、今では……後ろで、はしゃいでるコイツがいるからな。

 何もかもが、一変してしまった。

 生徒の中にはうるさいやつらもいる。だが、悪くない。


 と、人が感傷に浸っているのも束の間、俺の背中に柔肌がプニプニと当たってくる。

 ないはずの胸がなぜか気持ち良い。

 絶壁最高!


「タクト! あれ、なんていう星かな?」

 かなり興奮しているようで、グリグリと胸を頭にこすりつけてくる。

「あれか。オリオン座だな」

「すごいすごい!」

 俺も股間がすごいことになってるよ。


   ※


 少しのぼせた俺たちは、一度、スパから出た。

 事前にミハイルが用意してくれていた飲み物で、喉を潤そうと。


 スパの周りには、ビーチチェアがあったので、そこで寝そべって、乾杯することにした。


 俺はアイスコーヒー、ミハイルはいちごミルク。

「じゃ、タクト。かんぱ~い☆」

「ああ。乾杯」

 少しぬるくなってはいたが、火照った身体にはちょうど良い。

 一気にがぶがぶ飲んでしまった。


「んぐっ、んぐっ……ぷはっあ! ハァハァ……おいし☆」

 相変わらず、いやらしい飲み方するな、この人。


「でも、オレたち。本当にここまでやってこれたんだよね?」

 嬉しそうに瞳を輝かせる。

「ん、なんのことだ?」

「一ツ橋高校でちゃんと単位取れたこと☆」

「ああ……」

 天才の俺には、超普通というか論外な授業やレポートに試験だったが、おバカなミハイルには、かなり頑張ったということか。

「タクトのおかげだよ☆」

 はにかんで見せるその笑顔に、思わず、ドキッとしてしまう。


「いや、俺は別に。なにもしてないさ……」

 動揺を隠すように視線をそらす。

「そんなことないよ! タクトがいてくれたから、スクリーングもちゃんと来れたし、テストも頑張れたもん☆ ありがとなっ☆」

「う、うむ。まあ、来期も一緒に頑張るか……」

 男同士だってのに、なんだか小っ恥ずかしい。

 視線を戻すと、ミハイルは満面の笑顔でこう言う。

「ところでさ、リキのこと。いつから、マブダチになったの?」

 笑ってはいるが、声が冷えきっている。

 ヤベッ、まだ誤解されているよ。


「あ、あれはだな……」

 必死に弁解しようとするが、グイッとミハイルの小さな顔が近づいて来る。

 笑顔で。

「ねぇ。『スキ』ってどういうこと?」

 目が笑ってない。狂気だ。

「それは……俺に向けられたものではないんだ。実はここだけの話だが、リキは今片思いしているんだ」

「タクトに?」

 いつもはキラキラと輝いて、魅力的なグリーンアイズだが、今はとても暗く感じる。

 まるでブラックホール。恐怖でしかない。


「ミハイル、あのな……ちゃんと話を聞いてたか? リキは俺が好きなんじゃない。同じクラスメイトの女子に恋をしている」

 そこでようやく、彼の瞳が輝きを取り戻す。

「えぇ!? リキが女の子を好きになったの!?」

 めっちゃ驚いている。

 あいつだって、見た目おっさんだけど、俺たちと同じティーンエージャーなんだぞ。


 誤解が解けた瞬間、身を乗り出して、質問攻めが始まる。

「だれだれ!? リキが好きになった女の子って? オレが知っている子?」

 こいつって、けっこう恋バナ好きというか、意地悪いな。

「ほれ。あれを見てみろ」


 とある二人の男女を指差して見せる。


 少し離れたスパで、噴水ショーを楽しむハゲと、競泳水着を着た女子。


「あ、ひょっとして……ほのかが好きなの!?」

 ミハイルも予想外の相手に驚きを隠せないようだ。

「そういうことだ。アレのなにがいいのか、わからんが。俺に相談されてな……腐女子の攻略方法なんざ、俺は……」

 言いかけている最中で、ミハイルが俺の肩を掴んで、叫ぶ。

「さいっこうじゃん!」

「は?」

「あの二人、絶対くっつけようよ☆」

 めっちゃ楽しそう。拳を作って、ガッツポーズ決めちゃってさ。

 まだ、ほのかという、生態をちゃんと把握できてないのに。

「なんで、お前が乗り気なんだ。ミハイル?」

 ちょっと、冷めた目で彼を見つめる。

「だってさ。ちょー、おもしれぇじゃん☆ オレも応援してるよ、リキのこと☆ で、いつ告白すんの?」

 こいつ……人の恋愛だからって、楽しんでんな。


「さあな、今夜かもしれんし、明日かもしれんし、一生わからないな」

「ダメだゾ、タクト! マブダチの恋愛なんだから、ちゃんと本気になって、応援してあげなきゃ!」

 あんた、さっきまで、そのマブダチのことで怒ってたじゃん。

「いや、こればっかりは、本人たちの意思というか、相性の問題だろ……」

「ダメダメ! 力づくでもいいから、リキがほのかと結ばれないと、な☆」

 それって、犯罪だろ。

「あのな……」

 俺たちが、他人の恋バナで言い合っていると……。


 ドーンッ! と凄まじい轟音が鳴り響く。


 色とりどりの花火が、一斉に打ち上げられていく。


「すごい! 花火だ☆」

「そういえば、そうだったな」


 ドンッ! ドンッ! と次々に、大きな花火で夜空が明るく照らされていく。


 花火なんて、小学生の時以来だな。

 身体にまで響き渡るこの音さえ、心地よい。

「いいもんだな、たまには、旅行ってのも……」

 ふと、隣りのミハイルに話しかけてみたが、花火の音で聞こえてないようだ。


 彼と言えば、なにか考えごとをしているようで。

 小さな唇に人差し指を当てて、ブツブツと独り言を漏らしていた。


 途切れ途切れでしか、聞こえてこなかったが、なにやら変なことを口にしている。


「ふふっ、ほのか……と、リキをくっつけて……タクトの周りの……女たちは……全員消えて……」


 ファッ!?


 俺の視線に気がついた彼は、ニコッと笑って見せる。


「楽しいな、タクト。旅行ってさ☆」

「う、うん……とても」


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