気になるあの子はヤンキー(♂)だが、女装するとめっちゃタイプでグイグイくる!!!

可愛ければ、なんでもいい。男の娘でも☆
味噌村 幸太郎
味噌村 幸太郎

先生から君へ

公開日時: 2022年6月26日(日) 14:00
文字数:1,811


 俺は宗像先生の初恋の話を聞いて、正直驚いていた。

 こんな無茶苦茶な人間にも、そういう大切な人がいるのだと……。


「なあ、新宮。お前、わかっているのか? 残された時間のこと」

「え、どういうことですか?」

「お前は、確かに今期一番頑張った生徒として、私は評価している。しかし、同時にそれだけの時間を消費してしまったということだ。卒業までのタイムリミットは着実に近づいている。今こうしている時も、一秒一分、常に失くしているんだ。10代の学生生活は退屈に感じるだろう。勉学なんて正直、どうでもいい。問題はお前が卒業までに、ちゃんと『次』を考えることが重要だ」

「つぎ、ですか?」

「うん。進路のことだ。もうお前は今年の半分を使ってしまったよな? 古賀との出会い、他にも色んな友人、異性……たくさんの人々と交流することで、人間として成長しているだろう。しかし、この時間は有限だ。あと2年半しかない。それにうちの高校は、離脱率が高い。お前はストレートで卒業できるタイプだが、退学する者も多い……で、課題だ」

 あれ、だいぶ前にも、こんな展開があったような。

「なんですか?」

「それは卒業するまでに、夢を抱くことだ!」

 なにそれ、おいしいの?


「夢ですか……この俺が、ゆめ?」

 ふと考えてみる。が、なにも思い浮かばない。

 今の生活に意外と満足しているからだ。

 小説は書籍化成功したし、仕事は新聞配達があるし、ダチのミハイルも出来たし、映画も楽しいし……。

 俺はそれら頭に浮かんだことを、先生に説明し、今の生活で満足していると伝えると……。 

「バカモン! 小説だって売れなきゃ食ってけないだろ? それに新聞配達はもう終わりに近いだろう。今やデジタル社会だ。紙の時代はいずれ失くなっていくと思う。例えば、卒業して就職するだとか、大学や専門学校に進学したりとか……」

「ああ、そっち系ですか」

 もう一度、将来を、最高の自分を、理想像を考えてみた。



『タクト~☆ こっちこっち!』

『おはよ、タッくん☆ ご飯出来たよ? 一緒に食べよ☆』

 二階建ての一軒家の門前に俺が立っている。

 左にはショーパン姿のミハイル。

 右にはフリルワンピース姿のアンナ。

 二人が俺を囲んで笑っている。

 犬も一匹、猫も一匹……の隣りには、ベビーカーが一つ。赤ん坊がおしゃぶりを咥えている。

 幸せそうな家庭だ。

『タクト! どこ見てんだよ! あんまりそういうことすると怒るゾ!』

『もう~ タッくん、大好き☆ チュッ!』

 


「……オーマイガッ!」

 恥ずかしすぎて、思わず叫んでしまった。

 その声に驚いた宗像先生がキレる。

「な、なんだ。急にやかましいな!」

「すみません。想像したものがちょっと……あまりにエグいものだったので」

 なんで俺の夢にミハイルとアンナが関わっているんだよ。

 しかも子供までいるとか……俺どうしたんだ?

 思い出しただけで、顔が熱くなる。


「ほう、どうやらその反応。お前にもちゃんと夢があるようだな。それが何かは聞かないでおこう」

 俺の表情から何かを感づいたのか、先生は怪しく微笑む。

「ちゃ、茶化さないでください!」

 見透かされているようで、語気が強まる。

「なら一つだけアドバイスしてもいいか?」

 俺が逃げられないように両肩を強く掴み、じっと目を見つめる。

 その瞳は真剣そのものだ。

「な、なんでしょう?」

「新宮、私の過去の話は聞いたよな? だったら、可愛い生徒のお前には、同じ後悔をして欲しくはない。だから、言わせてくれ。自分の想いは相手が隣りにいるうちに、しっかりと伝えて欲しい! それが相手が拒絶しようともだ。例え、それでお前が傷つくとしても恐れるな。勇気を持て! 相手が大事なら。今の生活を当たり前だと思うな。相手が一緒にいてくれるなら……ちゃんと想いは伝えるべきだ」

 先生の目にはうっすらと涙が浮かぶ。

 俺は彼女の熱意に満ちた言葉が、深く胸に突き刺さった。

「わ、わかりました……必ず卒業するまで、俺の中で答えを出してみます」

 そう言うと、先生はニッコリと笑って、俺を強く抱きしめる。

「良い子だ! 私はこのために教師をやっているんだ……」

「先生……」


 傷のなめ合いだと思った。

 でも、宗像先生の優しさはしっかりと伝わった。

 ならば、俺もそれに応えたい。

 そう思えた。


 だから、俺のあいつへの想い。

 どうするか、しっかりと真剣に考えていくつもりだ。

 この心の中についた小さな火は、今にも風に吹かれて、消えてしまいそうだが。

 なかなかにしぶとい、ろうそくが根元にあるのかもしれない。


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