気になるあの子はヤンキー(♂)だが、女装するとめっちゃタイプでグイグイくる!!!

可愛ければ、なんでもいい。男の娘でも☆
味噌村 幸太郎
味噌村 幸太郎

オプションの説明はいらないから、早くしてくれ

公開日時: 2022年1月6日(木) 20:07
文字数:2,499

「ついたぁ!」

 15歳にもなる高校生の青年が、道の真ん中でぴょんぴょん飛び跳ねる。

 彼の名は、古賀 ミハイル。

 伝説のヤンキー、『それいけ! ダイコン号!』のひとりである。

 

 そんな半グレの男だが、可愛いものに目がない。

 今も大きな猫の写真がプリントされた看板の下で、踊るように喜んでいる。

 ジャンプしている際に、タンクトップがめくれあがり、ピンク色のナニかが見えそうになり、思わず目をそらす……。


 席内市に新しくオープンしたネコカフェ。

 その名も

『んにゃ!』

 席内店である。

 

 アホそうな店名だ。

 これが全国展開しているという時点で、日本は終わっているな。

 俺が呆れていると、ミハイルが興奮気味に腕を引っ張る。


「なぁなぁ、タクト! 早く入ろうよ☆」

 彼の目は一段とキラキラしている。

 宝石のように輝くエメラルドグリーンの瞳。

 俺としては、こっちの子猫を指名したいもんだ。


「そんな急がなくても……」

 俺がそう言いかけると、彼の小さな手が口を塞ぐ。

「ダメだゾ! 席内って新規開店すると、じーちゃん、ばーちゃん達がこぞって集まるんだからな!」

「んぐんぐ……」

 唇を開けないため、首を縦に動かしてみる。

 息はできないが、これはこれで心地よい。

 ミハイルの小さくて細い指が、俺の唇に触れている。

 彼の手からは、甘い石鹸の香りがした。

 ハァ~ 香しい。


「タクト、席内の店だから、ここはオレに任せておけって☆」

 そう言って親指を立てる。

 いや、あなただって、今日初めて来る店なんでしょ?

 地元は関係ないじゃん。

「ふごふご……」

 未だ、俺は彼の華奢な指と接吻中。

 せっかくだから、一瞬ぐらいペロッと舌を出して、食感を味わってもいいだろうか?


「よし。いい子いい子☆」

 ミハイルは満足そうに、俺の頭を撫でる。

 やっとのことで、口から手を離すと、今度は俺の手を握って、店の中に入っていく。


 店舗としては、かなり大きな敷地だ。

 席内市の顔と言ってもいい、ダンリブの目の前に開店した。

 旧三号線の道路をまたいで、交番の隣りにある。


 ネコカフェだが、それ以外にも猫の販売やいろんな商品を揃えている。


 自動ドアが開くと、「んにゃ~♪」と猫の鳴き声が……。


 通訳すると、「いらっしゃいませ」でいいんだろうか?

 参ったな。俺はこう見えて犬派なんだが……。


 そんな思惑とは裏腹に、隣りに立っているミハイルはテンション爆上がりだ。


「んにゃ! 許せない可愛さだな☆」

 身震いを起してまで、喜びをかみしめている。

「良かったな……」

 俺はちょっと引き気味。

 大の男がネコ語使うなんて……好きだ!

 ただ、やるならアンナモードの時でお願いします。

 以前のネコ耳メイドがいいです。



 俺が悶々としていると、店の中にいた若い女性店員が声をかけてくる。

 エプロンを首からかけていて、肉球のイラストがプリントされていた。


「いらっしゃいませにゃん! 初めてのお客様ですかにゃん?」

「あぁ!?」

 思わず、ブチギレてしまった。

 いや、ミハイルは可愛いから許せるんだけど、成人したお姉さんが言うのはしんどい。

 怒ってごめんなさい。

 冷静さを取り戻して、答え直す。


「そうです、二人です……」

「にゃーん♪ ありがとうございますにゃーん!」

 ブチ殺してぇ!

 この店の社員は、一体どんな教育してんだ。


「あ、これ。チケットをもらったんすけど」

 そう言って、毎々新聞の店長からもらったチケットを二枚取り出す。

「にゃ、にゃ! 株主様だったにゃんごねぇ~」

 日本語で話せよ、クソが。

 しかも、俺は株主じゃねぇ!

 もらいもんだよっ!


「いや、職場でもらっただけで……」

 俺がそう説明しようとするが、馬鹿なネコ店員は近くにあったマイクを片手にアナウンスを流す。


『株主様が来たにゃんよ~! みんなでおもてなしするにゃ~ん!』

 ファッ!?


 なにを言ってんだ、コイツ!

 俺がその店員を止めようとするが、時すでに遅し。


 どこから来たのか、俺たちの周りに気がつくと、同じくネコ語で話すおっさんやおばさんが集まってきた。


「んにゃ~ん!」

「にゃんにゃん♪」

「フゴロロロ……」


 全員、真面目に演じているけど、頭が白髪なんだよなぁ。

 そうか、地元住民の中年しか雇えなかったのか……。

 席内も高齢化社会だものね。


「アハハ! カワイイ~☆」

 ミハイルはそのおぞましい光景を見て、なんと喜んでいた。

 これが可愛いんか?

 ウソでしょ……。



    ※


 しばしの洗礼を受けた後、(おっさんとおばさんに囲まれて、ネコ語を連発された)俺とミハイルは、カウンターに連れてこられた。

 お姉さんが言うには、今回店長からもらったチケットで、1時間の利用が無料らしい。

 こんな店に金を使うのは、もってのほかだ。

 タダでよかった。


「んにゃ。にゃんこたちのおやつはどうするですかにゃん?」

「あぁ!?」

 いかんいかん、またキレてしまった。

 咳払いして、どういう事か聞いてみる。

「おやつってなんですか?」

「にゃんにゃんは、とっても繊細ですにゃん。シャイな子たちには、コレが一番仲良くなれるグッズにゃん!」

 喋ってて、疲れません?

 仕事のあと、絶対ロッカーとかブン殴ってるでしょ。

 俺だったらこんなクソみたいな職場は辞めますね。



「つまりオプションですか?」

「んにゃ~」

 ハイって言えよ、こいつ。

 グッと拳を作って、怒りを堪えていると、隣りに立っていたミハイルが俺の腕を掴む。

「なあタクトぉ。オレ、ネコたちにおやつあげてみたい~ ダメェ?」

 そう言って、下から俺を上目遣いする金髪の子猫ちゃん。

 ふぅ……。

 こんなことされたら、財布の紐も緩くなるってもんすよ。


「二人分お願いします」

「ありがとうございますにゃーん♪ お二つで1650円ですにゃんよ」

 たっか!

 人間様より、いいもん食ってんじゃねーか。

「あ、はい……」

 仕方なく、金を払う。

 チクショー! 今回のは『デート』じゃないからなぁ。

 あくまでダチとのお遊びだから、担当の白金は経費で落としてくんないよなぁ。

 痛い出費だ。


「それでは、お二人様ご入場~♪」

 カウンターに置いてあって、鈴を鳴らす。

 ていうか、今普通に喋ったぞ。

 すでに疲労がピークに達した俺に対し、ミハイルは太陽のような晴れ晴れとした笑顔でこう言った。


「ありがとな、タクト☆」

 ま、この可愛い笑顔を見れただけで、お釣りくるレベルか……。

 


 

 

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