気になるあの子はヤンキー(♂)だが、女装するとめっちゃタイプでグイグイくる!!!

可愛ければ、なんでもいい。男の娘でも☆
味噌村 幸太郎
味噌村 幸太郎

契約 ハンコはなしで

公開日時: 2021年7月14日(水) 15:00
更新日時: 2022年4月27日(水) 15:12
文字数:2,499


 俺とアンナは、夕暮れまでカナルシティのいろんな店を楽しんだ。

 普段行かないようなアクセサリーショップや雑貨屋、あと夢の国ストア……。


 個人的には、この店が一番つらかった……。


 アンナが「あれ見て! ネッキーだよ☆」と大興奮。

 俺は終始、温度差を感じながら、彼女の買い物に付き合っていた。


 時が流れるのは早く、スマホを見れば『17:22』


 一応、女の子の設定なので、そろそろ帰さねばな。

 そういえば、年齢はいくつなんだ?


「ところでアンナ、お前は今年いくつなんだ?」

 ネッキーの特大ぬいぐるみを抱えているアンナ。

「アンナ? 今年で16歳だよ? まだ15歳☆」

 そこは設定変換せんのかい!


「なるほどな……ならば、そろそろ帰らないか? 親御さんも心配されているだろうし」

「アンナ、親いないよ? ミーシャちゃんと同じで死んじゃった……」

 そこも設定は一緒かよ! 2回も気をつかわせるんじゃないよ、ったく。

「それは済まないことを聞いてしまったな……」

 これも二度目だけどな。

「ううん、私にはミーシャちゃんがいるから」

 それって自分がお友達ってことだよ? 悲しくない?


「だが、もう夕方だ。博多駅まで送るよ」

「イヤァッ!」

 彼女の叫び声が行き交う人々の足を止める。


「アンナ? またいつか会おう。それじゃダメか?」

「イヤイヤ、絶っ対にイヤ!」

 ダダこねているよ、中身15歳のあんちゃんだろ?

 めんどくせっ。


「じゃあ、最後にアンナの願いを一つだけ聞く。それでどうだ?」

「ホント!? なら……最後にあの川を見たい!」

 アンナが指差したのはカナルシティの目の前にある大きな川。

 『博多川』である。

 

「博多川か……別に構わんが?」

「やった☆」

 そんなにでかい川が珍しいか?



 カナルシティの裏口を出るとすぐに横断歩道があり、2分ほどで川辺につく。


 長い川に沿って、ベンチが複数、横並びしている。

 俺とアンナと、ネッキーは『二人と一匹』で座った。


「ねぇ、タクトくんってカノジョとかいないの?」

 知っているくせに! 

「俺は生まれてこの方、女と付き合ったことなんぞない」

 事実上の童貞発言である。


「そっかぁ……あのね、ミーシャちゃんから聞いたんだけど、タクトくんって小説家なの?」

 ソースはお前な!

「ま、まあ、そうだ。売れないライトノベル作家だ」

「ふぅん。今はどんな作品を書いているの?」

 う! それ聞いちゃう?


「今は……はじめてのジャンルに手を出している」

「なぁに?」

 とぼけた顔で食い気味に、身体を寄せるアンナ。

 や、やめて! 博多川の対岸ってラブホ街なのよ!

 このまま、お持ち帰りしたくなるからさ!


「ラ、ラブコメだ! それも王道のな」

「そうなんだぁ……ミーシャちゃんとタクトくんって仲いいの?」

 自分で自分のこと聞いてどうすんの?

「まあいいな」

「そっか☆ よかったぁ☆」

 嬉しそうに笑いやがって! そのための女装じゃないだろな!


「ねぇ、タクトくんってさ。どうして、ミーシャちゃんと同じ高校に入学したの?」

「そ、それは……」


 俺のクソ編集、白金 日葵に言われたからだ。


『業務連絡です。取材してきてください!』


「取材だ……。ラブコメを書くためには、小説を書くには、『リアルな記憶が残らない』と俺は書けない作家なんだ」

「……」

 なぜか肩を落とすアンナ。

 そこ、俺がやるところだからね? 

 俺だって、なにが悲しくて年下のやつらと勉強してんだって話だよ。

 しかも王道どころから、邪道なデートしちゃってるからね。


「ねぇ、タッくん……」

「へ?」

 今、こいつ、あだ名っぽいこと言ったよな?


「アンナ……じゃ、ダメ?」

 胸元で祈るように手を合わせるアンナ。

 これは反則的だ。

 女の成せる所業である。


「なにがだ?」

「アンナで取材しちゃダメ?」

「なっ!?」

 血迷ったか。古賀 ミハイル。

 クソッ、俺が小説家だということを見こしてのプランなのだろうな。


「アンナも、まだ誰とも付き合ったことないの……」

 童貞と訳してもいいですか?


「タッくんなら……タクトくんさえ良ければ、アンナを使って!」

 使ってって……あーた。違う意味に聞こえるよ?

 しかし、その表情、真剣。ものすごくイケメン。イケメンすぐる。


「つまり、アンナの言いたいことを要約すれば、俺とお前が恋愛関係に至るということか?」

 俺がそう言うと、彼女の顔はボンッと音を立てるかのごとく、真っ赤にさせる。

「付き合うんじゃなくて……その……あくまでも取材、だよ?」

 おい、なにをモゾモゾとしている。

 自分の言っていることが、わかっているのか?


「取材費はどうすればいい? 金額は?」

「そんなのいらない!」

 恥ずかしがったと思えば、激怒。女子かよ。


「ならば、アンナに対する報酬は?」

「いらない……」

 また床じゃなかった、コンクリートが友達になっているぞ。

「ダメだ。取材対象にはしっかりと報酬を与えるべきだ」

「そんなん、いらんもん!」

 はじめて聞いたわ、お前の博多弁。


「いいか、アンナ? 俺は物事を白黒ハッキリさせないと気が済まないんだ。わかるか?」

「じゃ、じゃあ……もし取材が終わって、アンナのことを気に入ったら『ホントのカノジョ』にして」

「……」


 なにこれ? 俺ってばハメられた?

 マウントとられまくりじゃん。


「分かった」

「約束だよ☆」

 俺とアンナは、小指同士で契約を交わした。


 夕陽が彼女の瞳を鮮やかにさせる。

 その瞳は気のせいか、潤って見えた。


 これで、よかったのだろうか?

 俺は確かにミハイルをフッてしまった。

 だが、なぜアンナとはこんなにも簡単に、契約を結んでしまったのか?

 疑似恋愛とはいえ、男だとわかっているのに……。



「あ、タッくんってL●NEやってる?」

 切り替えはやっ!

「いや、やらん。既読スルーとかいう、いじめが横行しているツールの一つだろ?」

 イジメ、ダメ、ゼッタイ!


「アンナは既読スルーとか、絶対にしないよ!」

「ふむ……しかし連絡先がサーバーと同期されれば、知り合いなどにバレると聞くが?」

 そんなことになれば、変態母さんとバカ妹の繋がりが、俺にまで繋がっちまうぜ。

 

「設定で、アンナとだけ、L●NEできるようにしてあげる!」

 なにそれ? ちょっと怖い。

「まあ、構わんが……」

「これも取材のうちだよ☆」

 笑顔が可愛いけど、めっさ怖い!


 取材って、危険がいっぱい!


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