気になるあの子はヤンキー(♂)だが、女装するとめっちゃタイプでグイグイくる!!!

可愛ければ、なんでもいい。男の娘でも☆
味噌村 幸太郎
味噌村 幸太郎

カンコって10回言ってみろや!

公開日時: 2022年1月19日(水) 18:34
文字数:3,731



 夜臼先輩が日焼け止めクリームを塗ってくれたことで、俺たちは紫外線を気にせず、外のテニスコートに移動できた。


 今回、武道館利用の件で全日制コースの立場がかなり上だと再認識できた。

 確かにバスケットボールの試合は武道館でしか出来ないのだから、仕方ないのだけども、

いきなり変更とか……確かに夜臼先輩が怒るのもよくわかる。


 まあ結局あれだろう。

 毎日通学して、学費も高い全日制の三ツ橋生徒はお得意様で、たまにしか学校に来ない俺たちは、二の次ってやつだ。

 部活なんて趣味レベルだろうし、なにをそんなにやる気がマンマンになるのだろうか?

 きっと彼らは己の性欲を、全て運動の汗によって発散しているのでは……。


 そう思っていると、コートのフェンスに大きな横断幕が見えた。


『祝 三ツ橋高校テニス部全国優勝おめでとう!』

『本校卒業生、丸井くんプロデビューおめでとう!』

『丸井くん、グランドスラム達成おめでとう!』



「え……丸井くんって誰?」

 三ツ橋高校からそんな名選手を送り出したってのか。

 そう言えば、前に噂で聞いたな。

 部活に力を入れてるって……。

 だが、そこまですごいプレイヤーを生み出す学校だったとは。


 

 テニスコートで一人ポカーンと口を開けていた。

 すると、誰かが俺の袖を掴む。

 隣りを見ると、ブルマ姿の天使……いや、ミハイルが頬を膨らませていた。


「なぁ、タクト。なにやってんの? もう体育の授業始まるゾ!」

「おお……悪い悪い」



   ※


 急遽変更した授業なので、わかりきっていたことだが、もちろん今日の体育はテニス……の練習である。


 宗像先生が素振りを簡単に説明し、その後は各生徒がコンビを組んでバラバラに散る。

 二つしかコートがないので、実質的にダブルスで4人ずつしか試合ができない。


 その間、俺たちは隅で体操座りして、他の生徒の試合をただ傍観するのみ。

 お世辞にも上手いとはいえず、サーブすらろくに打てない生徒も多い。


 みんなヘラヘラ笑いながら、「やっだぁ」とか「うてねぇ、ウケるわ」とか、真剣にやってない。


 指導役である宗像先生と言えば、審判台に座って、ハイボールを飲んでいる。


「ふぅ~ こんな真夏の日曜日ときたら、酒でも飲んでないと教師なんてやってられないからなぁ」

 もう教師をやめてください。

 これ以上、被害者を増やさないでください。



 それにしても、暑い。

 宗像先生じゃないが、確かに喉が渇く。

 俺も冷たいアイスコーヒーでも飲みたいもんだぜ……。


 突如、隣りのコートから歓声が上がる。

 振り返ると、一人の女子生徒に目が行く。

 みんな宗像先生の指示通り、体操服を着用しているのに、その生徒だけはピンクのシャツとスコートを履いていて、軽快な音でボールを弾き返している。

 様になっているなと思った。


 俺はその子のテニスが上手いから、みんな騒いでるのだろうと思っていたが、それは違った。

 なぜならば、みんなスマホを片手に、その女子生徒の下半身ばかり狙って盗撮していたからだ。

 

「おふぅ、あすかたんの見せパンゲットなり~!」

「あすかちゃん、カワイイよぉ~ スコート姿の下半身~ 胸~」

「推しの汗を飲みたい……」


 なんだ、変態ばかりじゃないか。


 あすか? 誰だっけ?

 どこかで聞いたような名前だったな……うーん、あ、自称芸能人の長浜 あすかさんか。

 存在が空気すぎて、忘れていた。


 俺の認知度とは差があるようで、フェンスの裏にある部室から何十人も三ツ橋の男たちがギャーギャー騒いで、長浜を眺めている。

 練習なんかそっちのけで。


「なあ、あの子。可愛くね? なんだっけ、テレビで見たことあるような……」

「アレじゃん、深夜のローカルに出てるあすかちゃん」

「ああ。だからか。見たことあるなって思ってたんだよ。俺、この前あの子のグラビアでつかっ……」


 そんなことを大声で叫ぶなっ!

 どこか隠れてヒソヒソやれ、生々しいんじゃ!


 しかし、まあなんだかんだ福岡市民から愛されているんだな、長浜のやつ。

 こりゃ、芸能人として化けるかもしらん。

 俺も作家として負けてらんねぇわ。


 そう意気込んで拳を作る。

 すると、誰かが俺の肩に触れた。


「タクト☆ オレと組もうぜ」

 見上げると、ブルマ姿のミハイルきゅん。

 ニッコニコ笑って、ラケットを二つも抱えてやがる。

「ああ、構わんが俺は上手くないぞ?」

「いいよいいよ☆ オレだってルールとか全然わかんないし☆」

 なら、なぜ俺を誘った?



   ※


 俺とミハイルがテニスコートに入る。

 相手チームは、日田兄弟の片割れとなぜか体験入学中のトマトさん。

 トマトさんの汗はいつも以上にダラダラと流れており、もう少し脱水症状を起して倒れそう……。


 試合が始まりはするが、案の定、トマトさんが暑さにやられて、退場。

 残った日田も一人じゃ試合が続行できないから、困っている。


「参ったな……。日田っ! もう試合棄権するか?」

 どうせ単位はもらえるんだから、やめればいいんだよ。

 こんな授業に意味はないのだから。

「しかし……それでは、筑前殿の無念を晴らすことができませぬ」

 いや、ただの運動不足で倒れただけやん。


 参ったなと困っていたその時だった。

 

「おいおい、見ろよ。一ツ橋の奴ら試合もろくにできないぜ」

「テニスなんてやらせる意味ないんだよ、バカなヤンキーとキモいオタクしかいない高校だろ。邪魔だから早く終わらせろよって感じじゃね? 俺らも練習したいのにさ」

「でもさ、あすかちゃんとテニスするなら俺も一ツ橋に編入してみたいわ。一日だけな」


「「「ハハハッ」」」


 言わせておけば……。

 確かにトマトさんは、犯罪者予備軍に近いキモオタだが、そこまで言われる筋合いはない。

 ミハイルや花鶴、千鳥だってバカだけど、こいつらも学費を納めてんだ。

 授業を受ける権利はしっかりとあるはずだ!


 腹が立った俺は、フェンス外で笑っていた三ツ橋の生徒たちを睨みつける。

 それに気がついた相手生徒たちが、嘲笑う。


「よぉ、あのオタク。こっち睨んでね?」

「マジかよ。しかも、オタクの隣りに立ってるやつ。男のくせして、細い体つきでナヨくね? あんなやつ俺が試合したら、一発で倒せるわ」

 ミハイルのことを言っているのか?

「それに見ろよ。男なのに、女子のブルマ着てるぞ。あいつ……おかしくね?」

 あ、それは本当におかしいと思います。

 僕の趣味に、彼が付き合ってくれているだけなので、責めないであげてください。



 一連のヤジを聞いていた宗像先生が、審判台から叫んだ。


「おぉい! お前らっ! 聞こえてるぞ! 文句があるなら、うちのエース、新宮と試合しろ! 勝ったら何でもしてやる、ご褒美がないとなぁ」


 おいおい、勝手になに煽ってんの?

 しかも、俺はエースじゃないって。


 それを聞いた三ツ橋生徒たちが、騒ぎ出す。

「よぉ、褒美だって。どうする?」

「あすかちゃんと写真とか握手とか、できるならやってもいいかもな」

「俺は勝ったら、この昨日『使用した』右手で握手してもらう」

 福岡って本当に変態が多いですね。

 どっかの調べで、ピンク系の犯罪率が全国でワースト1だって聞いたことあります。



 宗像先生の思いつきで、無惨にも日田は強制退場され、代わりにヤジを飛ばしていた三ツ橋高校から何人もテニスコートに入場する。

 だが、入ってきたのは男だけだ。

 どうやら、芸能人の長浜 あすかにしか興味がないらしい。



「タクト、このボールってどこに投げたらいいの?」

 上目遣いで、目を輝かせるミハイル。

「ああ、とりあえず、相手のコートにこのラケットでボールを打てばいい」

「線がいっぱいあるじゃん。どこの線に向けたらいいの?」

「俺も詳しくはルールは知らん。まあゲームとかで見るのは、だいたい相手選手のラインに向かって打つよな」

「わかった☆ じゃあ、このボールを相手のヤツに飛ばせばいいんだな☆」

「そうだけど……」


 俺はこの時、彼に軽く返事してしまったことを、後々後悔する。


 なぜならば、その後が地獄だったから。

『相手に向けてボールをラケットで打つ』という俺の指示を忠実に守ったミハイル。

 忘れていたんだ、俺は。

 彼の華奢な体つきと女みたいなルックスに反して、その力はプロレスラー並みの破壊力を持っていたことを……。


 

 審判の宗像先生が、笛を鳴らす。


 相手選手はニヤニヤ笑いながら、ラケットを構えていた。

 女みたいな見た目のミハイルだから、余裕で勝てると思っていたのだろう。

 だが、その予想は大きく裏切られる。


 ミハイルがサーブを打つと、風を切ってボールは一瞬で、相手選手を襲う。

 直撃したのは、股間だった。


「うぐっ……」


 泡を吐いて、その男の子は倒れてしまった。

 コンビを組んでいた隣りの選手は、ミハイルの豪速球を見て、震えあがっていた。


「チッ、倒れたのか。おい、次のやつ、入れ。お前ら一ツ橋にケンカ売ったんだ。全員、新宮と試合しろ」

 宗像先生はそう吐き捨てて、新しいハイボールをプシュッと開ける。


「勝った勝った☆ やったよ、タクト☆」

 その場で飛び跳ねて、天使のような優しい笑顔を見せてくれるミハイル。

 対して、担架で運ばれる『玉』を潰された男子。

「……」

 俺は同じ男として、涙を流した。


 震えあがる三ツ橋高校の生徒たちを見て、宗像先生が怒鳴り散らす。


「早くせんか! 授業が終わるまでお前ら全員帰るなよ!」


 そうして、健康な男子たちの股間が、次々と砕け散っていくのであった。

 全てミハイルの手により……。




  

読み終わったら、ポイントを付けましょう!

ツイート