気になるあの子はヤンキー(♂)だが、女装するとめっちゃタイプでグイグイくる!!!

可愛ければ、なんでもいい。男の娘でも☆
味噌村 幸太郎
味噌村 幸太郎

第十九章 謝罪と贖罪と……食材?

謝罪するときはだいたい許してくれない

公開日時: 2021年11月26日(金) 15:27
文字数:2,546

 ゴールデンウィークも最後の日となった。

 全然休めない大型連休は人生で初めてだ。

 今日だってアンナのために、ミハイルの自宅に足を運ぶというわけのわからないイベントが予定されている。

 


 ため息を漏らしながら、スニーカーにかかとを入れ込む。

 膝に手をついて、立ち上がろうとしたその時だった。

 俺のすぐ後ろ、つまり二階へあがる階段からドタバタと足音が聞こえてくる。

 こんなに騒がしくする人間は一人しかいない。


「おにーさまぁ!」


 やはり妹のかなでか……。

 めんどくさいこと言ってきてそうで嫌だなぁ。


「どうした、かなで?」

「忘れ物ですわ♪」

 乱れた息を整えながら、笑うかなで。

 胸元が開いたワンピースを着ていて、汗だくのおっぱいが今日も無駄にデカくてきもい。

 息が荒いせいか、巨乳がブルブルと震えていた。


「忘れ物?」

「はい、アンナちゃんのことで謝罪に行かれるのですよね?」

 こいつと彼女、いや彼とは情報がダダ漏れのようだな。

「そうだが」

「では、女の子を黙ってお泊りさせた罰として、菓子折りの一つぐらい持っていくのが礼儀ですわ」

 女ではないけどね。

「悪いが用意してないぞ? それに俺も最近、金遣いが荒くてな……そんな余裕はないよ」

「ご安心くださいませ。そう思ってこのかなでが用意しておきましたわ!」

 

 かなではそう言うと、一つの紙袋を差し出した。

 白い袋から何かを取り出す。

 そこには目を覆いたくなるような品物が……。

 かなでの手の上にある四角形の箱。

 箱に罪はない。

 あるとすれば、それを包んでいる紙だ。


 ピンク色の下地にデカデカと童顔のロリッ子が苦悶の顔で、膨らんだ股間を手で見えないように隠している。

 商品名、博多名物『男の娘のバナナ』


 俺は急に気分が悪くなってきた。

 

「はぁ……かなで。お前、これどこで買ってきたんだよ?」

 こんな卑猥なお土産が博多の名物入りしていたのが驚きだよ。

「え、普通に近所のスーパー、ニコニコデイで売ってましたわよ♪」

 ウソをつけ!

 そんなテナント、ニコニコデイが許すわけないだろう。

 もうニコニコできなくて、ギンギンじゃないか。


「これを俺が、アンナの親族に持っていくのか……」

 鬼のヴィッキーちゃんだぞ。絶対キレること間違いないだろう。

 謝罪する前に殴られそう。


「ええ? これ、真島に工場があって、ご近所のおばさんたちの間でも評判なんですよ?」

 マジかよ、俺の故郷もう終わったな。

 開いた口が塞がらない。

 その間もかなでは卑猥な土産を片手に、説明を続ける。

「柔らか~いスポンジケーキに、ドロッとした白濁液……じゃなかった甘いホイップクリームが入っていて最高なんですのよ」

 それ…本当にホイップクリームだろうな?

 工場見学行ったら、別の物が注入されていそうだ。

 俺は食わないでおこう。


「わ、わかったよ。とりあえず、頂いておく」

 俺は渋々、かなでが用意した菓子折りを手に取った。

「ハイ、ではお気をつけて♪」

「いってきます……」


 なんだか、いつもより足どりが重く感じるよ……。



    ※


 俺はJRで小倉行きの列車に乗り込み、ミハイルの住む席内駅で降りた。

 席内駅のロータリーに出るとタクシー乗り場の前で、壁にもたれる見慣れた少年が立っていた。

 ブロンドの長い髪を首元でくくって、エメラルドグリーンの瞳を潤せて地面を眺めている。

 どこか寂しそうに感じる様子だ。

 ワインレッドのタンクトップに、白のショートパンツ。

 透き通るような白い素肌が強調されたファッションだ。


 美しい……俺は言葉を失い、見とれてしまった。


 隣りに立っている俺に、なぜか気がつかない彼。

 唇をとんがらせ、アスファルトの小石を蹴る。

 それをいいことに俺はじっと見つめ続けた。


 数秒の間だったが、体感では1時間ぐらい見ていたように思える。


 まだこの瞬間を味わっていたいと思う俺の気持ちを、風が邪魔する。

 ビュッと強い春風が舞うと、ロータリーの周辺にある木々が踊りだす。

 まだ幼い若葉が一枚、俺の足元に落ちた。


 すると彼が俺に気づく。


「あ、タクト! もう来てたんだ☆」

 さっきまでの寂しげな顔が一変し、太陽のような明るい顔になる。

 俺に飛びつくように距離を詰め、手のひらを握った。

「お、おう……コミケ以来だな」

「うん、楽しかったよな! コミケ」

 目を細めて嬉しそうに微笑む。

 彼の白くて小さな指が、俺の右手を暖かく包んでいる。

 キラキラとした大きな瞳で上目遣い。それにやけに今日はスキンシップが激しい。

 アンナの時はまた違う魅力だ。

 俺は心臓が破裂しそうなぐらいドキドキしていた。

 鼓動が早い。


「じゃあ、さっそくオレん家に行こうぜ☆」

「ああ……」

 積極的な彼に俺は圧倒されていた。

 手を握られたまま、席内の商店街を歩く。

 いつものミハイルなら男装時はもっとこうツンツンしたり、恥ずかしがっていることが多いのだが……。

 どうも調子が狂うな。

 この前のアンナとのデートで俺が「彼氏命令だ」なんて言ったせいかな?

 いや、思い過ごしだろう。

 


 そしてしばらく商店街を歩くこと数分で、目的地に着く。

 パティスリー、KOGA。

 彼の姉が経営するスイーツショップ。

 以前、遊びに来た時はたくさんの花々や可愛らしい大きなくまのぬいぐるみがあったのだが。

 今日はシャッターが閉まっている。

 

 張り紙があってきれいな文字でこう書いてあった。

『ゴールデンウィーク中は昼から飲酒しているので連絡は取れません。ご迷惑をおかけします』

 丁寧にアル中宣言していて、すがすがしいほどにバカだ。


「今日は休みなんだな?」

「うん☆ ねーちゃん、いつもオレのために頑張っているからな。連休ぐらいは休ませてあげないと☆」

 いや、あなたのお姉さまって平日もがぶがぶお酒を楽しんでいらっしゃいますよね?

 肝臓の休日がないじゃないですか……。


 

 俺が呆然と突っ立っていると、なにやら空から重たい威圧感が。

 この感覚……ヤツか!?

 見上げると、二階の窓からブラジャー姿の痴女が俺を睨みつけていた。

 右手にはウイスキーの瓶、左手にはストロング缶。

 

「おぉい、早くあがってこいよ……コノヤロー!!!」

 やはり不安は的中した。

 しっかり出来上がっている。これは謝罪どころじゃないだろう。

 ただ説教されるだけだな、きっと。

「う、ういっす……」

 俺がブルっていると隣りにはニコニコ笑う天使の姿が。

「ねーちゃん、タクトが来て嬉しそうだな☆」

 いや、ただ酒に溺れてるだけでしょ?

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