気になるあの子はヤンキー(♂)だが、女装するとめっちゃタイプでグイグイくる!!!

可愛ければ、なんでもいい。男の娘でも☆
味噌村 幸太郎
味噌村 幸太郎

アイドル陥落

公開日時: 2022年8月20日(土) 14:00
文字数:1,345


 なんだかんだあったが、アイドル長浜 あすかの密着取材は無事に終わった。

 苦労人であることを売りにして書けば、同情した人々が興味を持ってくれるかもしれない。

 それに、俺が提案したトックトックの動画で、デジタルタトゥー……いや、バズる可能性を手にした3人は大はしゃぎ。

 ノリノリでアカウントを作っていた。


 事務所の窓から夕陽が差してきたころ、俺は長浜に別れを告げる。

「長浜。お前の芸能活動ってやつか? 大体把握できたつもりだ。納期は一週間なんだろ? 帰ってすぐに執筆に入りたい」

「フンッ! 精々がんばりなさいよね!」

 相変わらず、上から目線でムカつく。

「ああ……完成したら連絡する。じゃあな」

 そう言って、彼女に背を向けようとした瞬間だった。

「「新宮さん」」

 綺麗に揃えた二人の声。

 右子ちゃんと左子ちゃんだ。

「ん? どうした?」

「あの、今日は色々とありがとうございました」

「私たち自信がなかったので、新宮さんにアドバイスを頂けてすごく励みになりました」

 なんて健気な女の子達なんだ……。

 この子たちの方を小説にしてあげたい。

「いや、俺は特になにもしてないよ。右子ちゃんと左子ちゃんは、既にアイドルとしての素質があると思うぞ。磨けば光るさ」

 親指を立てて応援してやる。

「「新宮さん」」

 二人は胸の前で手を合わせて祈るように、はにかむ。

 フッ、アイドルを二人も惚れさせてしまったかな。

「じゃあ、俺はこれで」

 と改めて背を向け、立ち去ろうとする。振り返ることはなく、右手だけを挙げて。

 格好良く決まったな。と思った瞬間、襟元を背後から引っ張られる。

「ぐへっ!」

「ちょっとガチオタ待ちなさいよ!」

 喉を絞められ咳き込む俺を見ても、長浜 あすかは心配などしない。

 むしろ怒っているようにみえる。

「な、なんだ……長浜」

「あんたね! なんで右子と左子だけはちゃん付けなのよ! あんたはアタシのガチオタでしょ? 永遠にアタシを推しなさいよ! ファンならアタシにも……その……」

 怒ったかもと思えば、急に恥ずかしがり出した。身体をもじもじさせる。

「なにが言いたいんだ?」

「だ、だから……アタシのことも、あすかちゃんって言いなさいよ!」

「え……」

 予想外の言葉に絶句してしまう。

 ていうか、絶っ対に嫌だ。

 こいつをちゃん付けで呼ぶのは……。

 そもそも、メインヒロインであるアンナだって、ちゃん付けしてないのに。

 右子ちゃんと左子ちゃんは、控えめな女の子だから良いんだよ。


 困惑した俺はしばらく黙り込む。

「……」

「な、なによ! 早く言ってごらんなさい!」

「……あ、あ、あすか」

 嫌々彼女の名前を口から吐き出すと、結果的にだが、呼び捨てになってしまう。

 まるで親しい間柄のようだ。

「!?」

 だが、長浜じゃなかった……あすかの反応は意外にも悪くなかった。

 自分で命令したくせに顔を真っ赤にさせて、固まっている。

「あすか。これからはそう呼ばせてもらう。いいのか? これで」

「い、いいわよ! あ、あんたみたいなキモオタに下の名前を呼ばせてあげる……こ、ことを光栄に思いなさい……よね」

 あらあら、ツンデレ属性を所持していたのか。

「じゃあな。あすか、また連絡するよ」

「わ、わかったわよ! タク……ヒト」

 驚いた。俺にも下の名前で呼んでくれるとは。

 ん? こいつ、名前を間違えて覚えてるじゃねーか!

 やっぱ、可愛くねぇ!

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