気になるあの子はヤンキー(♂)だが、女装するとめっちゃタイプでグイグイくる!!!

可愛ければ、なんでもいい。男の娘でも☆
味噌村 幸太郎
味噌村 幸太郎

その男の娘、殺し屋である

公開日時: 2022年6月13日(月) 14:00
文字数:1,848


 なんと、このマリンワールドで起きていた、ひなたの災難は全て、この目の前に立っているブロンドの美少女。

 アンナが犯人だったようだ。


 俺はあまりに酷い仕打ちに対し、ドン引きしていた。

 だが、当の本人は悪びれるわけでもなく。

「タッくん、今から水族館でも取材しよっか?」

 なんて笑っている。

「いや……ダメだろ。アンナ、今日ずっと俺達のこと、追っかけ回していたのか? しかも、ひなたに起きた不幸は全部……」

 言いかけた途中で、彼女の小さな指が俺の唇に触れる。

「違うよ☆ ひなたちゃんは日頃の行いが悪い子ちゃんだから、多分あんなことになったんだよ☆」

「えぇ……」

 あくまでも白を切るつもりか、この子。



「でもさ、ひなたちゃんって小説の世界ではサブヒロインなんだよね?」

 急に話題を変えてきやがった。

「まあな。だが、それと何の関係があるんだ……」

「アンナもね、一生懸命考えたんだよ?」

「なにをだ?」

「小説の世界☆ メインヒロインが居れば、あとのモブヒロインはきっと読者の人も。いらないなぁって思うんじゃないかってね……。だから、殺せばいいんだよ☆」

 なんてカワイイ顔して、恐ろしいことを言い出すんだ。この人。


「だ、誰を?」

「ひなたちゃんを殺すに決まってるじゃん☆」

 人差し指を立てて、まるで「今晩のおかずを決めたよ☆」ぐらいの軽い口調で、提案してきた。

 スナック感覚で殺人を考えるとか、怖すぎる。

「なにを言っているんだ? そんなことしたら、犯罪だろ……俺が逮捕されていいのか?」

 そう言うと、アンナは白い歯を見せて笑い出す。

「タッくんたら、そんなわけないじゃん! ははは、カワイイ~☆」

 え、今俺ってなんか愛らしいことしたかしら?

「どういうことだ……」

「作品の中で殺す、死なさせるってことだよ☆ さっき事故でプールに落ちたでしょ。溺死ってことにすればいいよ☆」

 良くない、全然よろしくない。


 仮にもラブコメで死人を出すとか、笑えないし、胸キュン要素は殺され、読者は胸が痛みだしちゃうよ。


「良くない! アンナ、俺はひなたを助けに行かないと!」

 さすがの俺も、溺れた彼女が心配だったので、かいじゅうアイランドに戻ろうと、アンナに背を向ける……とアンナが俺の肩に触れて。

「大丈夫だよ~ タッくんたら、優しいんだね。ひなたちゃんって、水泳部なんでしょ? じゃあ放って置いても全然OKだよ☆」

 悪魔のような囁き声が背後から聞こえてきた……。


「そういう問題じゃないだろ! アンナ、いい加減にしないと、今回は俺もちょっと怒っているぞ?」

 度が過ぎるカノジョには、ちょっとお説教しておかないとな。

 アンナは、初めて怒った俺の顔を見て、しゅんと落ち込んでしまう。

「タッくん……怒っちゃったの……」

 なんて瞳を潤わせ、上目遣いで顔色を伺ってくるので、俺の怒りは一瞬にして、冷めてしまう。

「あ、いや。怒ったというか、まあ……人間としてだな。やはり女の子は大事に扱わないと……」

「ぐすっ……ごめんなさい。タッくんのお友達を悪く言って……」

 いや、悪く言ったんじゃなくて、あきらかに殺しに来たんだろ。あんた。



 そんなことをしていると、誰か人影がこちらに寄って来る。

 びちゃん、びちゃんと……不気味な足音で。


「セ~ン~パ~イ。な~にやってんすか……。私を置いて、助けにも来ず、知らない女をナンパですかぁ~?」


 振り返ると、そこにはびしょ濡れになった女妖怪、雨女……ではなく。

 現役女子高生の赤坂 ひなたが立っていた。

 濡れて重たくなった前髪は、だらんと顔を隠すまで垂れている。

 そのせいで、彼女の瞳が確認できない。

 両腕はなぜか宙に上げて、力なく伸ばしている。

 まるで、ゾンビのようだ。


「ぎゃあああ!」


 俺はその姿を見て、思わず絶叫してしまった。


「センパイ……隣りのなんか、あざとい女……誰ですか?」

 凍りつきそうな冷え切った声で呟く。

「えっと、その……この子は……アンナちゃんです」

 なんとなく、紹介してみる。

 すると、ひなたは肩をブルブルと震わせて、手のひらを丸めて拳を作る。


「お前かぁ……お前があのクソチート女のアンナかぁあああ!?」


 殴りかかる彼女を俺は必死に抑えこむ。

「ひなた。すまん! 今回のことは俺が悪い!」

「センパイは悪くないでしょ! この女が犯人だぁ!」


 俺とひなたが揉み合っている姿を、ちょっと離れた所で、アンナはニコニコ笑って見ている。


「ほらぁ、言った通りじゃん。水泳部だから大丈夫だったね☆」

 その一言が更にひなたを興奮させてしまう。

「お前ぇ~ それでも人間かぁ!?」

 ひなたを落ち着かせるのに、30分間はかかった。


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