気になるあの子はヤンキー(♂)だが、女装するとめっちゃタイプでグイグイくる!!!

可愛ければ、なんでもいい。男の娘でも☆
味噌村 幸太郎
味噌村 幸太郎

にんにくは必須

公開日時: 2021年7月24日(土) 17:00
文字数:2,429

「ヘイ! ラーメン、バリカタお待ち!」

 俺とアンナはカウンターの席に座り、仲良く横並びしていた。

 スマホを見れば時刻は『15:02』。

 ちょうどお昼の賑わいが済んだ時間だ。

 店内は俺とアンナしかいなかった。


 大将はなんだか嬉しそうに俺たちを見つめる。


「うわぁ! 美味しそう!」

 手を叩いて喜ぶアンナ。

 目をキラキラと輝かせて子供のようだ。

 まあ15歳だから子供っちゃ子供だよな。

「だろ?」

 俺が作ったわけでもないのに、なぜか店を紹介した俺が自慢げに語る。


「「いただきまーす」」

 声を揃えて、いざ実食!


 アンナはショルダーバッグからシュシュを取り出すと、長い髪を首元で一つに結った。

 ラーメンを食べる態勢、万全だな。


「スルスル……んぐっんぐっ……ゴックン! はぁはぁ……おいし☆」

 相変わらずのいやらしい租借音だな。

 それを初めて見た大将も思わず、生唾を飲む。

 アンナを見る目がいやらしい。


「うまそうに食べるねぇ、アンナちゃん」

 美味しいという基準間違えてません? 大将。


「だって美味しいんですもん。アンナ、美味しいものを食べているときが一番幸せ☆」

 そう言って頬をさする。

 よっぽど気に入ったようだ。よかったね、大将。


「嬉しいこと言っちゃってくれるねぇ。んなら、餃子を焼いてあげるよ」

「え、いいですよ……」

「気にすんな、アンナちゃん。うちの店初めてだろ? なら餃子も食べていってほしいんだよ。これはおいちゃんからのプレゼント」

 そう言って勝手に餃子を焼きだす大将。

 

 なんか勝手に話が盛り上がっているな。

 俺はそんな中、無言でラーメンをすする。


「ん?」


 あることに気がついた。

 ちょい待て。

 昨日、ひなたと来た時、俺は金払って餃子注文したぞ?

 女のひなたは有料で、男のアンナは無料ってか。

 というか、長年通っている俺ですらそんなサービス受けたことねーぞ!

 

 俺はむしゃくしゃして、カウンターの上に置いてあった小さな容器を手に取る。

 生おろしにんにくがたくさん詰められているものだ。

 やはりラーメンにはこれがなきゃな!

 躊躇なくにんにくをどんぶりの中にぶち込む。

 それに気がついたアンナが口を開いた。


「ねぇ、タッくん。それってなあに?」

「これか? にんにくだよ」

「にんにく?」

「ああ、これを入れると入れないとでは、ラーメンの味が『ダンチ』だ」

 思わずキメ顔してみる。


「へぇ……」

 アンナは咥え箸しながら俺がラーメンをうまそうにすするところを見つめる。

「タッくん、アンナにも入れてみて」

「マジか?」

 俺は驚きを隠せなかった。

 なぜならば、今のアンナは女の設定だからだ。

 昨晩、正真正銘の女性、ひなたが「にんにくは臭うから」と嫌がっていた。

 口臭を気にしてのことだ。

 なのに、アンナは平然とそれを俺に頼んだのだ。


「だって、美味しくなるんでしょ?」

 キョトンとした顔で首をかしげる。

「そ、それはそうだが、にんにくを入れるとだな……口が臭くなるからな」

 俺が言いづらそうに答えると、アンナは高笑いした。

「アハハハ!」

「な、なにがおかしいんだ?」

「だって……そんなのどんな料理だって同じでしょ?」

「え?」

「カレーだってそうだし、チャーハンとか、パスタとか、いろんな料理に使われているし、にんにくが入っていた方がおいしいよ?」

「それはそうだが……」

 清々しいほどに嬉しい回答だった。

 男の俺からしたらな。


「ひょっとして、昨日のひなたちゃんはにんにくを気にしてたの?」

 うっ、鋭い。

 ひなたの話題になると目が怖いんだよ、アンナさん。

「ま、まあ……」

 さっきお風呂入ったばっかなのに、またわき汗が噴き出てきたよ。


「ねぇ、タッくん」

「ん?」

「アンナと……ひなたちゃんを一緒にしないで」

 箸を止めて、俺に身体の向きを変える。

 すると俺の手を優しく両手で握った。

「あのね、アンナはタッくんが好きなものは全部好き☆ それにタッくんと同じ目線で、なるべく同じ気持ちでいたいの……だから他の女の子とは違うよ」

 瞳は少し潤っていた。

 涙を堪えているようにも見える。

 よっぽど、昨晩のひなたの件が悲しかったのだろうか?

 罪悪感で胸が押し潰れそうだった。


「そうか……じゃあ、にんにくはいっぱい入れてもいいのか?」

「もちろん☆ アンナ、美味しいものは絶対にためらわないよ!」

 その自信に満ち溢れた顔、素敵です。

 というか、たまにイケメン面になるんだよな。


 俺は要望通り、アンナのラーメンにたっぷりにんにくを入れてあげた。

 それをアンナは「まじぇまじぇ」する。

 へぇ、やるじゃん。


「うう……いい彼女を連れてきたじゃねーか、琢人くん」

 気がつくと大将は厨房の中で泣きながら、餃子を焼いていた。


「た、大将?」

「あの年がら年中、映画バカの琢人くんが……こんな美人で優しい女の子と付き合うなんて…おいちゃんも泣いちゃうよ」

 サラッと酷いこというなよ!

 俺が可哀そうなやつに聞こえるじゃねーか。


「大将さんたら、彼女……だなんて☆ アンナとタッくんはまだそんな仲じゃないのに……」

 いいながらめっさ嬉しそうやん。

 両手で顔をおさえて、左右にブンブン頭を振るアンナさん。

 ご乱心! アンナ様がご乱心じゃあ!


「っしゃあ! 替え玉もサービスばい!」

「そんな、悪いですよ」

 ていうか、昨日は?

 昨晩のもサービスにしとけよ、大将。

 アンナってズルくね?


「いや、あの根暗オタクの琢人くんがこんないい子を連れてきたんだ。今日はお祝いだよ!」

 てめぇ、俺をどんな人間として認識してたんだよ! ぶち殺すぞ!

「良かったね、タッくん☆」

 なにが?


 ねぇ、俺の存在ってここまで悲しい存在だったの?

 まあアンナが嬉しそうにラーメンを食べているから、お釣りが返ってくるレベルなんだが。

 俺たちはその後、腹いっぱいラーメンと餃子を楽しんだ。


 なぜだろう、ひなたと食べた時より、すごく楽しく美味しく感じた。

 ひなたといた時は気ばかり使っていた気がする。

 でも男のアンナといるときは息がぴったりというか、話があうんだよな。

 多少、俺に合わせてくれるんだろうが。


 でも、アンナの致命傷なところは怒ると鬼になる……ところだな。

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