気になるあの子はヤンキー(♂)だが、女装するとめっちゃタイプでグイグイくる!!!

可愛ければ、なんでもいい。男の娘でも☆
味噌村 幸太郎
味噌村 幸太郎

待ち合わせはいつもの場所で (挿絵あり)

公開日時: 2021年7月9日(金) 13:55
更新日時: 2022年4月22日(金) 18:07
文字数:3,303


 ミハイルは俺に告白したあと、フラれたショッックから落ち込んでいた……と、思っていた。

 どうやら、一週間の音沙汰なしは、妹のかなでと裏でなにやら、コソコソと連絡をとりあっていたらしい。

 詳しい経緯については、またかなでから事情聴取するとして……果たして、あの変態妹が俺の問いに正常に答えられるだろうか。


 例の電話、(土曜日に会う約束)以来、またピタッとミハイルからの連絡がとまった。

 あいつのことだ……またなにか、良からぬことでも考えているに違いない。

 知らんけど。


 

 数日後、金曜日の夜のことだった。

 スマホのアラームが鳴る。着信名はミハイル。

「もしもし」

『あ、オレだけど☆』

 でしょうね。


「明日のことか?」

『うん☆ 博多駅のしろだぶしのぞうに朝の10時な☆』

「え? ぞう?」

『じゃあ明日な☆』


 ブツッと一方的な切り方が耳障りだった。

 しろだぶしのぞう?

 ……あ、『黒田節の像』のことか。

 バカだから困るわ~ ないわ~

 

 まったくミハイルのやつときたら、必要事項以外は、愛想のないやつだ……。

 と、思っても、別に俺とヤンキーのあいつとでは、交わす言葉なぞないがな。



 翌日、俺は『世界のタケちゃん』のギャグ(キマネチ)がおしゃれな『タケノブルー』のTシャツとジーンズを着て、真島駅まで向かった。

 もちろん、いつもの小説専用ノートPCが収納されたリュックサックを背負っている。

 

 駅のホームに立ち、スマホに目をやると『8:58』

 

 約束の時刻よりも、一時間も前に列車に乗った。

 フッ、今度こそ、俺が先に待ち合わせ場所につくだろう。


 思えば、博多駅なんぞ映画を見に行くこと以外、なにもなかったな。

 しかしなぜ待ち合わせ場所が、わざわざ遠方の博多なんだ?

 俺が住んでいる真島駅からも30分ほどだ。

 ミハイルが住んでいる席内駅から、したら40分もかかる。

 都会に興味でもあんのかな?



 列車に揺られること数十分、車掌の声が車内に響き渡る。


『次は博多~ 博多~ 博多駅です』


 列車内の人々は大概この駅で全員おりる。

 福岡市に住んでいる住民は、博多駅に必ずと言ってなにかを求める。


 それは博多が福岡市において『入口』や『玄関』ともいえる都市部だからだろう。

 仕事にいく人もいれば、勉学や娯楽、出会い、買い物、その他多種多様なもの、目的が全て揃うのが博多という街だ。


 福岡ビギナーの方々には、ぜひとも博多駅に観光にいくべきだ。

 一日あっても遊び足りないぐらいの複合商業施設なのだから!

 

 まあ人間嫌いな俺からしたら、『今』の博多駅は好きではないが。

 むかしのきったねー頃の、博多駅の方がなにかといいな。

 綺麗な建物に建て替えれば、おのずと人も入れ替わる。

 慣れしたんだ人や店も全て消え失せるのだ。


 

 と、個人的な想いにふけるのはさておき、博多駅の改札口を降りれば、西側が表口と思ってもよい、『博多口』が見える。

 そして、反対の東側には裏口と思ってもよい、『筑紫口』がある。


 ミハイルが指定したのは、主に待ち合わせ場所として多用される、一番わかりやすい『博多口』だ。

 博多口から出れば、広々としたロータリーやイベント、テレビなんかもよく取材に来る賑やかな場所だ。


 駅舎から博多口に足を進める、季節は春から初夏にむけて日差しが強くなってきている。

 だが、いい天気だ。

 こんな日に友人と博多駅を悪くないと思えるのは、相手がミハイルだからだろうか?


 しかし、ミハイルのやつ。

 いとこなんて、俺に会わせてどうする気だ?

 まさかとは思うが、いとこと一緒に俺をボコボコにしちまう気か……告白をフッた怨恨で。

 いや、笑えない。


 そうこうしているうちに、博多駅のマスコットといえる『黒田節の像』こと、『母里ぼり太兵衛たへえ』様とご対面。

 俺にはようとわからん存在だが、盃と槍を持つ粋なおっさんだということは理解している。


 『彼』の足元には一人の少年が立っていた。

 迷彩柄のショートパンツに、胸元ザックリ開いたタンクトップ。

 金色の髪を首元で束ねている。

 緩やかな風と共に、左右に垂らした前髪がゆれる。

 地面を寂しそうに見つめている。

 まるで、迷子のように心細い顔をしていた。


「ミハイル」

 俺が声をかけると、彼はエメラルドグリーンの瞳を見開いて、口元を緩める。

 はにかんだ顔がとても愛らしい。

「タクト~☆」

 そげん大声をださんでもよか!


「お前、また早くついたのか?」

 スマホの画面を見れば『9:22』

「え? 遅刻したら悪りぃからさ……ちょっと早く来ちゃった☆」

 来ちゃった☆ じゃねー!

「どれぐらい前からだ?」

「えっと、家を出たのが朝の6時前ぐらい……だから、着いたのは6時半ぐらい☆」

「はぁ!?」

 俺がまだ朝刊配達しているころじゃねーか!


「す、すまない……以後気をつける」

 いや気をつけるって……もう俺ではキャパオーバーだがな。

「いいって☆ 待つの楽しいし」

 え? ストーカーですか? 帰ってもいいですか?

 ちょうど、交番が『黒田節の像』の近くにありますけど?


「ところでミハイル。お前のいとこってのは?」

「あ……あいつ、もうすぐ着くらしいんだ。ちょっと田舎のやつでさ」

「ほう」

「だから……方向音痴なんだ。オレがちょっと迎えにいってくるからさ。タクトはここで待っててくれよ!」

「へ?」

「すぐ呼んでくっから☆」

 ええ!? 俺ってば放置?

 めっさ笑顔で走り去るミハイル。

 いったい、どういうことだってばよ!?



 ~1時間後~


「おっせぇぇぇぇぇ!」

 どんだけ待たせるんだよ、ミハイル!

 聖水か? それとも、お前が方向音痴で迷子になったのか? 夢の国の『ネッキー』の着ぐるみにでも会えたか?


「はぁ……」

 スマホを取り出し、初めて俺からミハイルに電話をかけた。


『トゥルルル……おかけの電話番号は……』


「出ないな」

 数回電話したが、一向に出る気配がない。

「どういうことだ?」


 ピコン! と通知音が鳴る。

 ミハイルからのメールだ。


『タクト、わりぃ! オレ、ねーちゃんの手伝いしないといけなくなった。また今度な☆』 

「はぁぁぁぁぁ!?」

 おめーが呼び出しといて、そりゃねーぜ!

 かっぺムカつく、ぶちムカつく。

 怒りを通り越して、呆れかえっていた。

 ため息をつき、「せっかくだし映画でも見るか」とポジティブな考えにシフトチェンジする。


「アホらし」

 そう捨て台詞を吐いて、その場を立ち去ろうとした、その時だった。


「あ、あの……」


 とてもか細い声だった。

 聞き取りにくく、ひそひそ声のよう。


「え?」

「あ、あの……わたし……」


 その子は、こちらと地面をチラチラと交互に上下して見つめている。

 どうやらかなり緊張? それとも怖がっているような仕草がうかがえる。


「タクトさん……ですよね?」


 目の前には妖精、天使、女神……どの言葉でも表現が足りなぐらいの美人が立っていた。

 胸元に大きなリボンをつけて、フリルのワンピースをまとった女の子。

 カチューシャにも、同系色のリボンがついている。

 美しい金色の髪を、肩から流すようにおろしていた。

 時折、風でフワッと揺れる。

「キャッ」とスカートの裾を手で必死に押さえる姿は、とても女の子らしい仕草だ。

 

「あの……ミーシャちゃんから呼ばれてきました」

「え!?」


「わたしじゃ……ダメですか?」




 脅えた表情が、また男心をくすぐる。

 守ってあげたい、この子を!


「ダメですか?」

 全然!

「いや、ミハイルはどうした?」

「ミーシャちゃんは……おうちのことで帰ったみたいですよ☆」


 初めて見る笑顔だ。

 エメラルドグリーンの瞳がとても美しい。

 フリルのワンピースは可愛らしいが、丈が膝上とけっこうミニだ。

 色白の美脚が大いに楽しめるからして、男の俺からしたらなんてご褒美だ。

 この子を見ているだけで、数時間は待ちぼうけしてもいい。


「は、はじめまして。わ、わたしは古賀 アンナです☆」

「アンナか、認識した。俺は……」


 ていうか、アンナちゃん?

 お前、ミハイルだろ!

 一体どうなってんの?

 まさか死んで転生してきちゃったの?


「俺は新宮 琢人だ。よろしく」

 手を差し出すと、彼女が白く細い手で俺を包み込む。

「はい☆ タクトさん、今日は一日、よろしくお願いします☆」

「了解した」


 って……なに了解しちゃってんの俺!

 ど、どうしよ~ なにこれ~

 

「ま、まかせろ。博多のことなら、どんとこいだ!」

「嬉しいです☆」


 ひょえ~ もう俺は知らん!


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