気になるあの子はヤンキー(♂)だが、女装するとめっちゃタイプでグイグイくる!!!

可愛ければ、なんでもいい。男の娘でも☆
味噌村 幸太郎
味噌村 幸太郎

君は男の娘の涙を見る……

公開日時: 2022年5月31日(火) 14:46
文字数:2,148


 アンラッキー? なことに、俺はまたしても女物の下着を履くことになった。

 とりあえず、アンナが心配していたので、トイレからベッドに戻る。

 俺が「悪かったな、下着」と言うと、彼女は頬を赤らめて、視線を落とす。

「こ、今回だけだからね……帰ったら捨ててよね、絶対」

「了解した」

 絶対永久保存しとく。


 彼女は俺のことをすごく心配していたようで、とりあえず、尻はなにかぶつけたことにしておいた。

 そう説明すると安心して、またマッサージを続けたいと言われた。


 今度は仰向けに寝て、腕や脚を揉みほぐされる。

 手のひらのつぼや、指を一本ずつ関節ごとに優しく押してくれる。

「あぁ~」

 思わず、声がもれる。

 気持ち良すぎる。

「ふふ☆ タッくん気持ちいい?」

「アンナ、本当にうまいなぁ……」

 急に眠気が襲ってくる。

 ウトウトし始めること数分で、俺は寝落ちしてしまった。


 ~数時間後~


 スマホのアラームで目が覚める。

「しまった!」

 咄嗟に身を起すと、部屋には誰もいなかった。

 ベッドから立ち上がり、彼女の姿を探してみる。

 近くのローテーブルに一枚のメモが置いてあった。


 可愛らしいネッキーがプリントされたメモ紙。

『タッくんへ。気持ち良そうに寝ていたから、起さないでおくね。アンナは先に福岡に帰ってるよ☆ また取材しようね☆』


「そうか……悪い事したな」

 あれだけ長時間マッサージまでしてくれたというのに。

 別れも告げられなかったのか。


 ん? ということは、本体のミハイルはどこにいるんだ?

 スマホで現在の時刻を見れば、『7:32』

 朝食の時間だ。

 昨晩食べたレストランで、ビュッフェが用意されていると聞いた。

 この部屋にアンナがいないのなら、彼も今頃朝食を取りにいっているのだろう。


「俺もそろそろ飯を食いに行くか」

 と部屋を出る前に、尿意を感じた。

 トイレに向かう。


「ほわぁ~」

 あくびをしながら、ガチャンと扉を開く。


「あ」

 目の前にいたのは、ポニーテール姿のミハイル。

 便座に座っていた。

 俺と目が合うと、

「あぁ……」

 と嘆く。

 真っ青な顔で。


 俺も身動きが取れずにいた。

 ドアノブに手を回したまま、硬直している。

 当のミハイルと言えば。

 左手でトイレットペーパーを手に取り、右手で丸めている最中だった。

 いつも履いているショートパンツは、膝あたりまで降ろされている。

 もちろん、下着もだ。ライムグリーンのボクサーブリーフ。

 しかし、それよりも俺は、とあるものに釘付けになってしまう。


 それは彼の股間。

 一言で表現するならば、粉雪。

 草が一つも生えてない未開拓地。

 そこに真っ白な雪が積もり、キラキラと輝く。


 小さすぎる……手乗りぞうさん。

 15歳にしては、あまりにも矮小な短刀。

 か、カワイイ。


 気がつくとその言葉が、頭の中に浮かんだ。

 俺はノンケだし、バイセクシャルでもない。

 なのに、なんだ。この胸の高鳴りは……。


 こんなに小さくてパイテンなおてんてん、見たことないよ!

 可愛すぎる、ミハイルの!

 

 なにか似ている。

 はっ! わかった。

 博多銘菓の『白うさぎ』だ!


 紅白饅頭で、マシュマロと白あんで作られたうさぎの形の和菓子。

 もちろん、白い方だ。

 となればどこからか、聞こえてくる。

 あのCMの歌が。


『白うさぎ~ 白うさぎ~ あなたのお目めはなぜ青い~?』


 とここまでの体感時間、10分ぐらいなのだが。

 実際は、お互いに固まっていること、数秒に過ぎない。


 ミハイルは俺の顔を見て、咄嗟に太ももを内側に寄せ股間を隠す。

 驚きの表情から、顔を真っ赤にさせて、近くにあったものを俺目掛けて投げまくる。

「なに、開けたままにしてんだよ! 早く閉めろよ、タクトのバカバカッ!」

 石鹸や歯磨き、シャンプーのボトルなどが、次々と俺の顔面にブチ当たる。

 が、俺は未知の小動物を発見してしまったので、身動きが取れない。

「白うさぎ……」

「何言ってんだよ、バカッ! 早く出てけ!」

「ああ、すまん……白うさぎ」

 そう言って、トイレのドアを閉めた。


 閉めても未だに、扉の向こうからはミハイルの怒号がこちらにまで響き渡っている。

 しかし、彼の声が俺の耳に届いてくることはない。


「白うさぎ……白うさぎ」

 気がつけば、ずっと連呼していた。


 それからの意識は、ない。


 後々、ミハイルから聞いたが、俺の状態がおかしくて、ろくに歩けなかったらしい。

 朝食も彼に引っ張られて食べに行ったものの、ピクリとも動かないので、彼が献身的に介護したらしい。

「あーん」とスプーンを俺の口に寄せても。

「うさぎだぁ~ うさぎさん~」

 と笑っていたらしい。


 

 気がつくと、俺は福岡に帰っていた。

 心配したミハイルが自宅まで送ってくれたらしく。

 意識を取り戻したのは、次の日の朝だ。


 自室の学習デスクに紙袋が一つ置いてあった。

 博多銘菓『白うさぎ』


 妹のかなでが、俺に向かって訊ねる。

「おにーさま? やっと正気に戻りましたの?」

「はっ!? 俺は一体今までなにを……」

「ミーシャちゃんが心配してましたわよ。別府温泉に行ったのに、わざわざ博多銘菓の『白うさぎ』を買う買うっていう事を聞かなくて、困っていたらしいですわ」

「え、マジ?」

「はいですわ。帰って来てもずぅーっと、あれを食べてましたわね。普段食べないのに。5箱も食べてましたわ……」

「……」

 なんだか、急に胃が痛くなってきた。


 こうして俺の初めて旅行。

 そして、一ツ橋高校一年目の春学期は、無事に終業したのである。


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