気になるあの子はヤンキー(♂)だが、女装するとめっちゃタイプでグイグイくる!!!

可愛ければ、なんでもいい。男の娘でも☆
味噌村 幸太郎
味噌村 幸太郎

バカヤロー! サプライズってのはこうするんだよっ!

公開日時: 2022年1月12日(水) 19:04
文字数:3,138


 音楽の試験……というか、ただのカラオケ大会は無事に終了した。

 もちろん、宗像先生の言った曲の採点が「5点以上」はみんな余裕でクリア。

 全員がホッとしたのであった。


   ※


 帰りのホームルームがはじまる。


「えぇ~ 諸君! これにて本日の試験は終了だ! だが、再来週に二回目の試験が残っているからな。気を抜くなよ。んで、次回の体育の実技なんだが、前に三ツ橋から寄付してもらった体操服を持ってくるように!」

 いや、あれパクッたやつじゃねーか。


 それを聞いてなぜか隣りで喜ぶミハイル。

「そうだった☆ タクトの好きな服だもんな、ちゃんと着てくるよ☆」

 ええ……ブルマで学校に来るの?

 ちょっと、さすがにしんどい。

「それはやめておいた方が……」

「え、なんでぇ?」

 上目遣いして、緑の瞳を輝かせる。

「ま、まあ、ミハイルがいいなら良いんじゃないか?」

「うんうん☆」

 マジでいいの?

 もう人格が破綻してない……あなた。



 こうして、第一回目の期末試験は終わりを迎えるのであった。

 俺はテストの成績に自信があるのだが、ミハイルが心配だ。

 音楽の試験に関してはクリアしているけど、ペーパーテストの方がな。

 かなり苦戦していたように見える。


 試験を終えて、安心しきったのか、ミハイルは帰り道、歩きながらウトウトしていた。

 よっぽど疲れているんだな。

 帰りの電車内でも、俺の肩の上に寄っかかると、スゥスゥと寝息を立てていた。

 ふーむ、一体なんのバイトしてんだろうな。

 気にはなるが、本人が内緒にしてほしいみたいだし。

 ま、暖かく見守るとしよう。



 ~次の日~


 俺は毎々新聞へと来ていた。

 無給なんだけど、店長のこだわりで、仕事に使うバイクを洗車しないといけないからだ。

 店長曰く「日頃乗せてもらっているんだから、バイクちゃんにもご褒美をあげないと」らしい。

 別にペットじゃねーし、馬でもないのに……。

 だが、長年やっていることなので、文句一つ言わず、黙ってバイクちゃんをブラシで磨いていく。


「ほぉ~れ、ピカピカになったぞぉ~ また今週も頼むな」


 なんて愛着も湧いていたりする。自ずと名前もつけたりして。

 その名も『サイレント・ブラック』

 カッコイイ名前だ。バイクの色はブルーなんだけど……。

 ブラックの方が様になるだろ?


 その時だった。

 ズボンのポケットに入っていたスマホが鳴りだす。

 お決まりの可愛らしい歌声、アイドル声優のYUIKAちゃん。

 着信名は……ミハイルか。


「もしもし」

『あ、タクト! 今、仕事中?』

「ああ、もう少ししたら配達に出るけど……」

『仕事終わってからでいいから……今日会えない?』

「構わんが…」

『よかった☆ じゃあ、オレも仕事に戻るからまたあとでな!』 

 と言って、一方的に切られてしまった。

 電話の向こうで何やらガヤガヤとうるさかったな。

 仕事中だと言っていたので、職場か?

 まあ、とりあえず、俺も今から配達に行くか。


 彼に会えることが嬉しくて、俺は猛スピードでバイクを飛ばした。(もちろん法定速度で)


   ※


 夕陽が落ちだしたところ、俺はミハイルに言われて、彼の地元である席内に来た。

 メールでは、以前一緒に行ったことのあるスーパー、ダンリブで待ち合わせだという。

 なぜ、彼の自宅ではないのだろうか? と疑念を抱いたが、まあ行ってみるとするか。



 ダンリブに入って、しばらく店の中をウロチョロする。

「あいつはまだ来てないのか……」

 そう呟いた瞬間だった。

 背後から聞きなれた甲高い声が聞こえてくる。


「いらっしゃいませ! またのごりよーお待ちしておりますっ!」


 なんだ、このバカそうな店員は。

 振り返ると、そこには今まで見たこともないぐらいの美人店員が立っていた。


 タンクトップにショートパンツ。

 そのうえに『ダンリブ』とプリントされた青いエプロン。

 小さな頭を三角巾で覆っている。

 金色の髪は後ろで一つにまとめていた。

 時折、垣間見えるうなじに色気を感じた。


「み、ミハイル?」


 そう。あのヤンキーが甲斐甲斐しく働いていやがる。

 腰の曲がったおばあさんの客に丁寧に対応。


「あ、ばーちゃん。オレが荷物持つよ☆」

「すまんねぇ……あらぁ、ミーシャちゃんじゃない。ダンリブに就職したの?」

「ううん☆ 短期のバイトだよ☆」

 就職したら、この店潰れそう。

 だって客にタメ口じゃん。クレームの嵐で店長壊れそう。


 ミハイルはおばあさんのカートに乗っていたカゴを、軽々と持ち上げ、レジまで誘導する。

 レジ打ちさえしないが、カウンターの中で、他の女性店員と一緒に商品をスキャンしたり、ビニール袋に詰め込む。

 そして、客が去る際はしっかりとお辞儀をする。

 お客様が見えなくなるまでだ……。

 どこの老舗デパートだよ。


 ヤンキーのくせして、けっこう真面目なんだな……。

 俺がその姿に呆然としていると、彼がこちらに気がつく。


「あっ! タクト☆ 来てくれたんだ!」


 そう言って、レジカウンターから出てくる。

 太陽のような眩しい笑顔で手を振るというオプション付き。

 くっ……なんだか、仕事あがりの嫁を迎えに行っているような錯覚を覚えるぜ。

 しかもエプロン姿だもんな。

 制服フェチとしては、たまらねぇぜ……。


「ハァハァ……やっと会えたね☆」

 そう言って額の汗を拭う。

 顔をよく見れば、昨日より目の下のクマが酷くなっている。

「ああ。ミハイルのバイト先ってダンリブだったんだな」

「う、うん……短期だから今日までなんだ☆」

「へぇ」

「それで、その……」

 急に顔を赤らめてモジモジし出す。

 なんじゃ、聖水か?

 お花畑なら店にもあるだろうが。


「どうした?」

「これっ!」

 そう言ってエプロンのポケットから小さな箱を渡される。

 綺麗に包装されていて、リボンがついていた。

「ん、なんだこれ……」

「いいから受け取って、タクト!」

「はぁ……」

 とりあえず、言われるがまま、箱を受け取る。

 リボンの紐に何やらカードが挟まっていた。

 メッセージが添えられていて、

『タクト、18歳のお誕生日おめでとう☆』

 とある。


 あ……今日って俺の誕生日だったのか。

 万年ぼっちだったから、忘れてた。


「これ……もしかしてプレゼントか?」

「う、うん……」

 頬を赤くして、恥ずかしそうにしている。

「開けていいか?」

「いいよ…」

 リボンを外し、包装紙を丁寧に開けていく。

 箱を開けると中には、キラキラと輝く万年筆が入っていた。

 見るからに高そうだ。


「こんな高級なものを俺に?」

「うん……色々考えたけど、タクトは小説家だから。それがいるだろうって思ってさ」

 アナログゥ~!

 俺ってそんな文豪じゃねーよ。

 しかも今時ペンで書くやつなんているか?

 だが、こんな高級なもんをもらって、返すわけにも文句を言うわけにもいかんしな。

 実はパソコンでタイピングしているなんて、口が裂けてもいえないよ。


「ありがとな……ミハイル」

「ううん。タクトに初めてあげる誕生日プレゼントだから☆」

 やっと緊張がほどけて、優しい笑顔に戻る。

 ニカッと白い歯を見せて。

 クソがッ! 抱きしめてやりたいぜ!

 生まれてここまで想われたのは、お前だけだ。男だけど!


「そっか……大事に使わせてもらうよ」

 なんだか悪いことをした気分になる。

 ていうか、バイトを短期でする意味って……まさかっ!


「ミハイル。もしかして、このプレゼントのために、バイトをしたのか!?」

 思わず彼の細い肩をギュッと掴む。

 瞬間「キャッ」と可愛く声をあげる。

「う、うん……だって、ちゃんと自分で働いて、自分のお金でタクトに……プレゼントしたかったんだもん」

 そう言うと、今度はダンリブの床ちゃんがお友達に追加されてしまった。

 

 ヤバい。泣けてきた……。

 ミハイルママが俺のことを思って、夜なべしながら、試験勉強して、朝も早くからスーパーでバイトかよ!

 自分がちっぽけに感じる。


「タクト、その万年筆でたっくさん小説書いてくれよな☆」


 なんだろう……急にこのプレゼントが重たく感じてきた。




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