気になるあの子はヤンキー(♂)だが、女装するとめっちゃタイプでグイグイくる!!!

可愛ければ、なんでもいい。男の娘でも☆
味噌村 幸太郎
味噌村 幸太郎

推しにリプ送りすぎるとブロックされるよ☆

公開日時: 2022年8月29日(月) 14:00
文字数:1,383


 背後から聞こえてくる川のせせらぎ。

 その音はとても心地よい。

 感じる、感じるぞ。マイナスイオンを……。

 だが、今日はいらん!


「……おい、白金。もう始まって1時間は経ってないか?」

「え、そうでしたったけ? おっかしーなぁ。ツボッターでちゃんと告知したんですけどねぇ……ははは」

 と笑ってごまかす。


 俺は今カナルシティのど真ん中、サンプラザステージにいる。

 長テーブルの上に大量のラノベとコミックを載せて、ポツンと一人座っている。

 左手には大きな立て看板が設置されて。

『DO・助兵衛先生。サイン会はこちら!』

 と、ド派手な案内まで用意してあるが……。

 肝心の客。いや、俺のファンが誰一人として現れない。


 おかしい。予約段階で売れに売れたのではなかったのか?

 カワイイ博多っ子の現役女子高生が押し寄せてくるはずなのに。

 時折、ステージを通り過ぎるカップルが「なにあれ?」「知らね」と指をさしてくる。

 どんな放置プレイなんだよ!

 クソがっ!


 隣りに立っている白金が、スマホを取り出して何やら確認している。

「あれぇ? 確かに編集部の公式ツボッターで今日のこと宣伝……あ」

「どうした? 何か問題でもあったか?」

 俺がそう尋ねると、白金の額から大量の汗を吹き出す。

「あ、あのぉ……すいません。DOセンセイ、日にち間違って告知してました。てへっ♪」

 なんて自身で軽く頭をポカンと叩き、舌を出して見せる白金。

「……おい」

「だ、大丈夫ですよぉ~ 13日を23日に間違えたぐらいですからぁ! い、今からツボッターで宣伝しますんでぇ。すぐにファンが買いに来ますってば!」

 こんのクソポンコツ編集がっ!


   ※


 白金のバカっぷりは今に始まったわけではない。

 仕方ない……と俺もスマホを取り出し、YUIKAちゃんの公式ツボッターを見る。

「おお。更新してるな。今日もカワイイではないか。YUIKAちゃんしか、勝たんな」

 俺がその可愛さに見とれていたら、白金が「トイレに行って来る」と小走りで去っていった。

 サイン会は始まって既に3時間が経とうとしていた。

 そりゃ、行きたくもなるわな。


 いい加減、座り疲れた。

 さっさと終わらないかな。この放置プレイ。

 ツボッターでYUIKAちゃんの可愛すぎるライブ写真をリツイートしまくり、愛情たっぷりのリプを大量に送信っと。


『YUIKAちゃんの犬になりたいです』

『転生するなら、あなたの衣装になりたいです』

『僕が作家として売れたら、直ぐに結婚しましょう』


 と、ラブメッセージを高速で打ち込む。

 そんなリプを1分間に30回は送ったか。


「ふぅ……」

 本日の推し仕事終業っと。

 スマホをテーブルに置いて、背伸びをする。

「ふあ~あ!」

 バカみたいな声であくびも出てしまう。

 その時だった。

 YUIKAちゃんみたいな可愛らしい声が聞こえてきた。

「あの、サイン会ってここでいいですか?」

「へ?」

 視線を上にあげると、そこには一人の天使が立っていた。


 チェック柄のミニのワンピースを着た美少女。色は秋を先取りしたベージュ。

 胸元には、ビジュー付きの大きなリボン。

 エナメル製のローファーを履いて、ニコニコ笑っている。

 金色の長い髪を輝かせて。


「タッくん……あ、違うね。先生、サイン下さい☆」

「アンナ」

 その姿に俺は驚いていた。

 つい先ほど、白金がツボッターで日付を修正したばかりだというのに。

「スマホ見てたら、サイン会が今日だって知ったから。来ちゃった☆」

 早すぎて怖っ。

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