気になるあの子はヤンキー(♂)だが、女装するとめっちゃタイプでグイグイくる!!!

可愛ければ、なんでもいい。男の娘でも☆
味噌村 幸太郎
味噌村 幸太郎

モデルは人それぞれ

公開日時: 2022年1月19日(水) 13:32
文字数:3,052


 一ツ橋高校の玄関に着くと、俺とミハイルは今日の予定表を手に取る。

 今回のスクリーングは、前回のようにペーパーテストと体育の実技があるだけだ。

 この前、宗像先生に言われた通り、運動会で借りパクした三ツ橋高校の体操服を持参している。

 罪深い学生だよな、俺たちって。

 前に三ツ橋の生徒の福間 相馬が言ってたが、「一ツ橋は三ツ橋の恥さらし」ってのを最近、よく痛感する。

 まあ元凶は全部、宗像先生なんだけどね……。


 

 ミハイルが上靴に履き替えながら、こう言う。

「タクトッ! オレ、今日ちゃんとブルマ履いてきたから、楽しみにしてろよ☆」

 ファッ!?

「えっ……」

 言われて、彼の下半身を見るが、いつも通りのショーパンにしか見えない。

「あ、ズボンの中に履いてるんだ☆ ねーちゃんが小学校の時はそうしてたって言ってたからさ☆」

「ええ……」

 困惑する俺氏。

 やってること、マジで女子なんだけど。

 どうせ同じ更衣室で着替えるのだから、生着替えを見せろよ。

 もったいぶりやがって……。

 だが、パンツじゃないから恥ずかしくないもんっ! て、いくらでも眺めても良いという結論に至るな。

 うむ。確かに体育は楽しみにしてるよ、ミハイルくん。



   ※


 階段をあがり、事務所を抜けて曲がるとすぐに1-1の教室がある。

 と言っても、これは全日制のクラスだから、俺たち通信制は基本バラバラのホームルームなんだけどね。


 教室の扉の前に一人の男が立っていた。

 あまり見たことのない生徒だ。

 廊下から教室の中をチラチラ見ては、サッと頭を隠し、また中を覗く。とても挙動不審だ。

 カメラでパシャパシャと誰かを撮っている。息を荒くして。

 変態だ……。


 よし、通報しよう。

 そう思った時だった。

 ミハイルが、なにを思ったのか、その男に声をかける。


「あーっ! お前はトマトじゃん!」

「えっ?」

 振り返る豚が一匹。

「あ、これは良いところに、DO先生がいた! そして、いつぞやのミハイルくんも」

 ニコッと笑ってみせるが、とても気持ちの悪い青年だ。

 こいつが20代前半とか、しんどい。

 びしゃびしゃに濡れたTシャツからは、黒い乳首が透けて見える。胸毛もおまけつき。

 額には、萌え絵のバンダナを巻いていた。


 俺の公認イラストレーター、トマトさんだ。


「トマトさん? なんでここにいるんですか?」

 不法侵入だろ。

「あ、いや……これは取材ですよ。決してJKを盗撮してたわけでは……」

 しどろもどろになっている。

 ますます怪しい。

「取材?」

「ええ、白金さんに以前、提案されたじゃないですか。可愛い女の子の絵を上手く描けるため、一ツ橋高校へ取材にいけって……」

「ああ。そう言えば、あのバカそんなこと言ってましたね。でも、トマトさんはまだ編入できないでしょ? 少なとも秋期からじゃないと」

 俺たちが今受けているスクリーングが夏期。春から夏まで。

 その次が秋期で、秋から次の年度末まで。

 


「それならば、大丈夫です。白金さんが一ツ橋高校に許可をとってもらって、今日は一日体験入学ということになってます」

「なるほど……」

「ハハハ、トマトはじゃあオレとタクトの後輩になるんだな☆」

 いや、そうかもしれないけど、年上だから敬ってあげてね。


「良きの良きですよ、ミハイル先輩。実は取材の予定が早められたのは、DO先生の短編が人気爆発して、単行本の表紙と挿絵のために、モデルさんを撮りに来たんです」

「そういうことだったんですか。俺の作品のために申し訳ないっす」

「いえいえ、僕みたいな童貞が生のJKを見れる機会は、そうそうないですからねぇ~」

 キモッ。

 てか、相手に許可取ってないで、取材とか犯罪だろ……。

 責めて教室に入って、生徒と話したりすればいいじゃないか。



「モデルってまさか……タクトの小説のヒロイン?」

 上目遣いで頬を赤らめる当のご本人。

「そうですよ。僕は基本男キャラしか描けないので……設定では、ヒロインは、ヤンキーでデートする時だけ、主人公好みになる美人さんだとか?」

 目の前で褒めちぎられる。もちろん、ミハイルの顔はどんどん真っ赤になる。

 爆発しそうだ。

「うう……そう、なんだ……主人公好みの美人かぁ」

 照れてやがる。



 そうこうしていると、背後から足音が近づいて来る。


「おはにょ~♪」

「よう、ミハイルにタクオじゃねーか」


 赤髪のギャル、花鶴 ここあと、老け顔のハゲ、千鳥 力だ。

 相変わらず、花鶴はパンツが丸見えの超絶ミニスカを履いている。

 もちろん、千鳥もいつもと変わらず、ピカピカのハゲチュウだ。


「おう、お前ら。今日は早いな」

 いつも重役出勤で、授業終わりに出席カードを教師からパクるバカ共だ。

 試験だからか?

「まあな、俺もここあも単位は欲しいし。てか、後ろのおっさん誰?」

 千鳥がビシッと指をさす。

 年上だってわかってんのに、失礼だとは思わないの?


「あ、あの……ぼ、僕は……」

 指を突きつられて、固まるトマトさん。

 どうやら、ヤンキーで柄の悪い千鳥にビビっているようだ。

 確かに、こいつらは見た目こそ、悪ぶってはいるが、根は良いヤツというか、ただのバカだから。

 怖がるような人間ではない。

 ここは、俺がフォローしておくか。


「トマトさん。こいつは俺の同級生で千鳥っていうんです。見た目はこんなんすけど、別に悪いヤツじゃないですよ」

 俺がそう言うと、千鳥が背中をバシバシと叩いて来る。

「んだよっ! そんな紹介あっか、タクオのダチか。なら、俺のダチだな」

 いや、なんでそうなるの?



「おい、トマト? 大丈夫か? なぁ、タクト。トマトの様子がおかしいぞ」

 ミハイルが俺の袖をクイッと掴む。

「ん?」

 振り返ると、彼の言う通り、トマトさんは顔を真っ青にして、震えている。

 膝をがくがく揺らせて、目を見開き、あるところを凝視していた。

 その視線を追うと、二つの長い脚。

 というか、パンツ。

 花鶴 ここあのだ。


「どしたん? おっさん、なんかウケるっしょ。あーしの顔に何かついてるん?」

 いや、顔見てないよ。あなたの股間見てるだけ。

「ハァハァ……」

 息を荒くし、ギャルのパンティーを眺める。

「ちょっと、トマトさん?」

 試しに俺が彼の肩を揺らすが、反応はない。

 返ってきたのは、べっちゃりと生暖かい汗だけ……。

 きっつ。



「き、決めたぞ!」

 急に大声で叫ぶトマトさん。

 その野太い声が、廊下に響き渡る。

 大量の唾を床に吐き出して……。


「あ、あの……あなたのお名前を聞かせてくださいっ!」

 飛び掛かるように花鶴との距離を詰める。

 彼女の胸の前で、拳を作り、鼻息を漏らす。

 その姿は、発情したオス豚である。


「え? あーしのこと? 花鶴 ここあだけど。おっさんは?」

「ぼ、僕は、筑前 聖書ちくぜん バイブルです! 聖書バイブルって言ってください!」

「ウケる~ なにその名前、じゃあ今度からバイブって呼んであげるっしょ♪」

「それでいいです! 嬉しいです!」

 よくねぇ! 神に謝れ!

 ていうか、聖書ってペンネームじゃないの? トマトが本名の方が良かったかも……。


「ところで、ここあさん。僕の絵のモデルになってくれませんか? あなたが、DO先生の小説に出てくるヒロインにぴったりです!」

「あぁっ!?」

 思わずブチギレてしまった。

 こんなどビッチと、あの天使アンナを一緒にしてほしくない。

 

「DO先生って……オタッキーのことっしょ? ダチなんだから、もちろんオッケーっしょ♪」

「や、ヤタッーーー!」

 ウソォ……嫌だわ。

 俺の単行本の表紙が、アンナが、こんなビッチに変換されるなんて……。


 ふと、気になって隣りのミハイルに目をやる。

「……グスンッ」

「泣いてんのか? ミハイル……」

「違うもん! 泣いてなんかないもんっ!」

 て言いながら、鼻をすすってやがる。


 かわいそうに……。

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