私はエリート中のエリート。
生まれてこの方、挫折を味わったことも、魔法の扱い方に困ったこともない。
周りの人間は私のことをこう呼んで評価する。
「天才」、と。
もちろん、自分を天才だと思ったことはない。
そんなのは周りが勝手につける評価であって、戦闘に於いては何の役にも立たない。
生き残るためには何でもする。
幼い頃から、私はそう教えられてきた。
「戦争」に正義なんていうものは存在しない。
ましてや、“戦い”に手段を持ち込む必要などない。
『スケアクロウ』という暗部組織に所属していた師匠は、私に生きていくための術を教えてくれた。
私は戦争孤児だった。
親を殺され、焼き払われていく街の中で、私は行くあてもなく瓦礫の上を彷徨っていた。
奴隷商人に捕まり、他の多くの子供達と一緒に、政府が管理する孤児院に預けられたのは、確かまだ5歳にも満たない頃だった。
その当時のことを、私はよく覚えていない。
焦げるような炎の熱さや、刺さるような皮膚の痛みは、頭の片隅にまだ、うっすらと残っている。
ただ、母親の顔も、住んでいた家の間取りも、もうすっかり線を無くして、ぼんやりとした水彩画のような印象になってしまった。
滲んだ色は世界の輪郭を壊して、もう、元の形が何だったのかもわからないほど、全ての匂いや音が、記憶の果てに遠ざかっていた。
紐のちぎれたサンダルだけが、あの当時の中に残る唯一の“景色”だった。
私はまだ、煤まみれのこのサンドルを捨てきれずにいた。
大した思い出も、特別な感情もないけれど、…ただ、心のどこかでは——
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