浄玻璃

探偵ヒツギシリーズ
maka
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エピローグ

公開日時: 2020年9月1日(火) 18:21
文字数:1,376

さて、ここまで書いてきたが、最近こちらの執筆にかまけてばかりで久しくお菓子を作っていなかった。そろそろ私に届いた手紙についてきた優秀な探偵に、好物のアップルパイでも作ってやろうかと思う。

リビングのソファに寝転がり、頭には読みかけの本を乗せて、スウスウと寝息を立てている探偵に声をかけてみたのだが、軽く手を上げるだけでまたすぐに眠りについてしまった。

 

近くのテーブルには、大量にまとめられた書類がある。内容は数週間前に起こった、“まるで小説のような事件”の記録をまとめたものだ。探偵は、デジタルに疎い変わりに、事件を紙に記録する癖がある。今回は、割と盗み見てしまったな。探偵視点の小説は"久しぶり"だ。それでも、探偵の感情については、助手が若干手を加えたような部分はあるのだが、それは小説を面白くするスパイスとでも思ってもらいたい。

 

ここは、後日談、所謂エピローグの書き込み欄だ。あの後起こったことについてででも書こうとも思ったが、残された鏡宮一家は廉獄の罪を公表し、贖罪をしたことや、蓮と一緒に林を待つ燕が、廉に別れを告げようとしたら、出会った頃にした仮初めの猛アプローチを今度は廉から受けて、結局まだ一緒にいるなどと言うことは、それぞれ書いたらこの小説が分厚くなってしまうので割愛させて頂こう。

 

しかし、これだけは探偵の個人情報に関わるので言っておきたい。私はこれまで顔の隠した小説家として、それなりに長い期間、それなりに売れてきたつもりだ。自分の単行本に“現在自分の住んでいる住所”を書くなどと言うことはしたことが無い。ファンレターは編集者に届くようにしている。あの時は否定したら、ややこしいことになってしまうと思ったから、嘘をついた。

 

探偵と出会って、事件に巻き込まれ一緒に解決していくうちに、私は、この探偵をモデルにした小説を書きたいと思ったのだ。お互いの名前を変えて、少しずつフィクションも加えて。どうせこの探偵は、私が小説家と知っていても私の作品を全てチェックするはずもないし、探偵の交遊関係が少ないのをいいことに、容姿端麗や頭脳明晰ともてはやしていたら、その探偵の数少ない友人が私の大ファンだったのだが。

自分の好きな小説の探偵が、自分の友人そっくりであることと、自分の友人である探偵が、最近助手を雇い始めたなどと言うことが重なり、初めて自分が日辻ミキとバレてしまった時は相当焦った。幸い、友人は私のことを秘密にしてくれているし、探偵には言っていない。小説内でこんなに優秀だ格好いいだと言っていたら、少し恥ずかしいだろう。

 

鏡島は、インターネット環境はしっかりしていた。あの島にいるままでも社長として会社を回すためであると言っていたが、それを蓮は使ったのかもしれない。ミステリー小説家を島に誘ったら、もれなく優秀な探偵もついてくると考えたら、数ある小説家の中で私を選んだのも納得がいく。ただこれには、私の小説内の探偵が実在する人物であることと、探偵の住所と調べ上げる技術が必要であるのだが。聡明な女性が生まれる胡何家なら訳ないのだろう。あの子が、何を思って“子供のままの振り“をしていたかはわからないが、私の知るところではない。

 

そろそろ、この話も閉めようか。三文字のタイトルも考えなくてはならない。窓から抜ける風が、探偵の書いた事件録を揺らしていた。


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