ヨハネと獣の黙示録

〜黙示録事件篇〜
上崎 司
上崎 司

アポカリプス③

公開日時: 2020年11月10日(火) 17:00
文字数:1,724

「おのれ、裏切ったか、パレット!」


「ふふん、モニターに夢中になってる隙に、爆弾の投下装置は壊しておいたわ!」


神父は緋色のローブの下から、一丁のリボルバー式拳銃を取り出した。パレットも同時に、自身の拳銃『ベレッタ92』をレッグホルスターから取り出した。


「パレット。今ここでお前を殺すのは簡単だが、最後にチャンスをやろう」


神父はそう言って、拳銃に一発の実弾を入れた。


「早撃ち対決だ。互いに背を向けたまま十カウントを数えながら歩く。そしてカウントが十になった時、振り向きざまに発砲する」


「……断るという選択肢は無いようね」


神父の仲間である緋色のローブの人物が、パレットに銃口を向けていた。


「では我から先に、背を向こう」


神父は何の躊躇もなく、パレットに背を向けた。そして、パレットも背を向けた。


「我がカウントを数えよう。一、ニ、三……」


(今、ここで振り向いて発砲すれば、確実に射殺できる……)


この世界に来る以前のパレットなら、あるいはそうしていたかもしれない。


「四、五、六……」


(もう目的は果たした。悔いはないはずなのに……)


パレットは悔しそうに唇を噛んだ。


「七、八、九……」


(どうしてみんな、助けにくるのよ……!)


パレットは九のカウントで、大きく振り向いて銃口を構えた。そして……、


「十!」


神父が振り向いて発砲した時には、パレットは発砲を終えていた。二つの銃声が、艦内に響き渡り、床に大量の血がこぼれ落ちた。


◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


「……どうして黒城を艦尾に先に向かわせたのです、菜の花 乃呑」


「だって、敵の大将を倒すのだけはやたら得意でしょ? あいつ」


黒城と青いひな鳥は、モニタールームとは逆の艦尾に向かっていた。


青いひな鳥がリードしながら、奥へ奥へと進んでいく。


ついにラスボスが姿を現した。艦尾には、紅緋色のローブを着た女性が待っていた。


「……あいつがこの教団のリーダーか。いくぞ、ヒナコ」


しかし、青いひな鳥はその場を動こうとしなかった。


「黒城ッ。悪いけどアタシはッ、最初からこっち側なのよッ」


「ふふ。諜報活動ご苦労様、ピーちゃん」


「なん……だと……」


青いひな鳥は、紅緋色のローブの内側から狂信者のカードを抜き取り、咥えていた。


◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇


「無事か、パレット……!」


ヴァルカンがモニタールームの扉を開けると、そこには血まみれな状態の左腕を抑えているパレットと、無傷の神父がいた。


「ごめん、捕まっちゃった……」


「パレットォォォッ!!」


「おっと、そこを動くと命はないぞ?」


神父はヴァルカンに拳銃を向けた。他にも数名の緋色のローブの人物が拳銃を構えており、状況は最悪だった。


「弱くなったな、パレットよ。拳銃の腕が落ちたのではないか?」


「くっ……」


パレットの拳銃の腕は、決して落ちてなどいなかった。だが、陽光町の人々と関わることで、人を撃てなくなってしまったのだ。


神父はパレットの軍事用ポーチを開け、無色透明の宝箱を取り出した。


「この『秘宝』というものが原因か?」


「それに触れるな!」


そう叫んだのは、銃口に囲われたヴァルカンだった。


「随分と必死だな。さしずめ、開けてはならない『パンドラの箱』と言ったところか?」


神父は余裕の笑みを浮かべて、緋色のローブの中から、何かのプレートを取り出した。


(何あれ……動物の化石……?)


「貴様、何をするつもりだ!?」


「くくく……。『秘宝』という物は、こうやって使うのだ!!」


神父は声高らかに叫ぶと、何かの化石を『秘宝』の中へ入れた。


しかし数秒が経過しても、何の変化も起こらない。


(何をやっているの? 『秘宝』は動物を『昇華』させる道具のはず。化石なんて入れても何も起きるわけないのに)


ところが、『秘宝』は急にカタカタと動き始めた。パレットは叫んだ。


「どうして!? 『秘宝』は時の加速装置じゃなかったの!?」


「違うな、『秘宝』は時を逆行させる力も込められているのだ!」


無色透明の宝箱は漆黒に変化し、死神の紋章が浮かび上がった。


そして『秘宝』の中から、二億五千年前に滅びた海洋生物、アノマロカリスが、死神のような姿となって蘇った。名前の由来はおそらく、旧聖約書の最終戦争、アポカリプス。


【Sランク秘宝獣―アポカロカリス―】

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