ヨハネと獣の黙示録

〜黙示録事件篇〜
上崎 司
上崎 司

第一の封印①

公開日時: 2020年9月25日(金) 12:00
文字数:1,672

私立陽光中学校。閉められていた裏門を華麗に飛び越え、パレットは敷地内に潜入した。明かり一つない真っ暗な校舎は不気味な雰囲気を醸し出している。


(警備員は二人……。騒ぎになったら面倒ね)


警備員が懐中電灯を照らし巡回している。パレットは息を潜め、校庭の探索を始めた。


(地下にいけそうな場所となると、おおよその見当はつく。何かでカモフラージュして、その下に階段を埋めるか、あるいは校舎の中に地下室があるか……)


パレットは足音を立てないように慎重に歩く。本校舎と別棟の間にある中庭で、パレットは足を止めた。芝生の下の土を手で叩き、固さを確認する。


(掘り返された形跡はなし……。ハズレね)


パレットは中庭をひとしきり調べたが、何も見つからなかった。警備の眼を避けながら、本校舎へと向かっていく。パレットは本校舎の鍵穴にピンセットを差し込み、器用に鍵を外した。


(この程度の警備なら、簡単に潜り抜けられる)


パレットは咄嗟にレッグホルスターから拳銃を抜き、いきなり後ろを振り向いた。


(今、どこからか鋭い『殺気』を感じたような……。気のせい?)


パレットは拳銃をレッグホルスターに収容し、周りに誰もいないのを確認し、ゆっくりと本校舎の扉を開けて侵入した。パレットはもう一度後ろを振り向いた。


別棟の屋上の上空には、漆真っ暗な中に、黄色の満月が浮かんでいた。


校舎内には、懐中電灯を持った警備員が眠そうに非常口の前に立っていた。


(校舎の警備は一人だけみたいね。だったら……)


パレットは軍事用ポーチからスタンガンを取り出した。懐中電灯で照らされないところまで忍び寄り、そこからは一気に距離を詰めた。


「んっ、なんだね君は……、うっ……」


スタンガンの高電圧の電流を浴びて、警備員のおじさんは気絶した。


パレットはピッキングで非常口のドアを開けようとしたが、ある違和感に気づいた。


(開いてる……? 誰かが開けたの?)


パレットは疑問を残しながらも、非常口のドアを開けた。


ドアの先は上へと続く階段と下へと続く階段があり、下への階段には立ち入り禁止を示す黄色いテープが巻かれていた。


パレットはそれを無視して、地下へと続く階段へと歩み始めた。


◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


永遠に続いているのではないかと思うほど長い階段を、パレットは左手で壁を伝いながら一段ずつ踏みしめていく。先の見えない恐怖に襲われ、疑心暗鬼が増幅する。


(この階段、いったいどこまで続いているの……?)


パレットはスカートの後ろの軍事用ポーチの中に手を入れて、探っている。


(一旦引き返すか……。いえ、ここまで来たからには、もう少し進んでみましょう)


パレットはポーチの中から、予備の銃弾を取り出した。それを階段の下へと落とす。


ほんの微かではあるが、パレットは反響音から弾丸が地に着いた音を聞き取った。


(大丈夫、この階段は永遠に続いている訳じゃない……)


パレットは再び階段を降り始めた。それからしばらく降りると、白い光の筋が見えた。


白い光の先からは、はっきりと足場を確認することができた。


パレットは階段を降りきると、小さなフロアへと出た。


そこには、壁にもたれるように休憩している、ここの学校の制服を着た、黒髪の少年がいた。


(あいつは確か、公園の湖に飛び込んでいた……)


「あらッ、アンタもここの調査に来たのッ?」


黒髪の少年のズボンのチェーンに付けられた虹色の宝箱から、青いひな鳥がひょこっと顔を出して言った。


「……まぁそんなところよ」


(先客がいるなんて、想定外の事態ね……。今、ここで消しておくべきか……)


パレットは太もものレッグホルスターに、静かに手を伸ばす。


「じゃあアンタも仲間ねッ! アタシはピーちゃんッ。コイツは下っ端の黒城よッ!」


「そっ。ピーちゃんと、下っ端の黒城ね。あたしはパレットよ」


「……待て、俺は下っ端じゃ……」


「パレットちゃんねッ、先に進みましょッ!」


黒城は何か言おうとしたが、青いひな鳥に阻まれた。


こうしてパレット、青いひな鳥、そして下っ端の黒城は、さらに奥へと進んでいった。


ここは陽光中学校地下。


『第一の封印』へと続く道。

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