ヨハネと獣の黙示録

〜黙示録事件篇〜
上崎 司
上崎 司

第三の封印③

公開日時: 2020年11月8日(日) 17:00
文字数:2,542

「邪魔者は排除しました。次は貴方の番ですよ、黒城 弾」


「Guluaaaa!」


黒豹の秘宝獣は、猛スピードで次なる獲物、青いひな鳥を追い回す。


「ピイッ!? こっち来たぁッ!?」


「……ヒナコ、《火炎弾》だ」


「なぜにッ!? ええいヤケよッ!」


黒豹の秘宝獣は、炎の弾丸を正面から受けたが、漆黒のオーラが攻撃を打ち消した。


「全然効いてないじゃないッ!」


「……やはりそうか」


「無駄なのです。《ダーク・ダイブ・モード》と《ゲッコウ》によって、最大限硬化した今のダムドレオを倒せるのは、フェンネルの《バーストモード》くらいなのです」


乃呑のSランク秘宝獣、フェンネルの《バーストモード》には、全ての防御を貫通するという効果があった。


「どうすんのよ黒城ッ、ダムドレオを倒す方法はないのッ!?」


「……倒す方法はない。だが、別の方法ならある」


「どうすればいいのよッ!?」


「……ヒナコ、《神鳥の守護》だ」


「一度しか使えないわよッ!? 《神鳥の守護》ッ!」


「……これで終わりなのです。ダムドレオ、《レイジング・ファング》」


青いひな鳥の身体をバリアが包み込んだ。黒豹の秘宝獣の噛みつき攻撃は、障壁によって妨げられた。


「それで勝ったつもりですか、黒城 弾」


イヴはムッとした表情で、黒城を睨みつけた。


「たった一度攻撃を防いだところで、何の解決にもなっていないのですよ」


「……だが、《ダーク・ダイブ・モード》の効力により、ダムドレオの体は奪われる」


「でもさらに硬くなっちゃったわッ!? どうすんのよ黒城ッ!?」


「……ダムドレオに、ダメージを与える手段はない」


「諦めたようなのですね。ダムドレオ、トドメなのです」


黒豹の秘宝獣は、猛スピードで青いひな鳥に飛び掛かかった。


「……今だ、戻れ、ヒナコ」


攻撃の直前、青いひな鳥は白い球体となって秘宝へと戻ると、代わりに山羊の秘宝獣が現れた。


「……開宝、エスケープ・ゴート。《サクリファイス・エスケープ》」


黒豹の秘宝獣の攻撃は止まらない。山羊の秘宝獣は白い球体となって秘宝へと戻ると、今度は青いひな鳥が現れた。


「……ヒナコ、《神鳥の守護》」


「いきなりなにッ!? 《神鳥の守護》ッ!」


黒豹の秘宝獣の攻撃は、再び障壁に妨げられた。


「ニ回目のCIP効果……。いったい……!?」


一連の出来事に、イヴは動揺していた。


「……生徒会長が《ダーク・ダイブ・モード》を使ってくることは読めていた」


黒城は、一連の出来事の解説を始めた。


「……ヒナコが攻撃される直前、エスケープ・ゴートと入れ替えた。エスケープ・ゴートが攻撃される時、ヒナコに攻撃対象が移った。そしてヒナコのCIP効果、《神鳥の守護》を発動させた」


「《神鳥の守護》は、どんな攻撃も一度だけ無効にするバリア……。それが無限に繰り返される、という訳ですか」


「……そういう事だ。もっとも、こちらも攻撃できなくなってしまうが」


「ダムドレオの体力も減り続けますが、ゼロにはならないのです。つまりワタシと貴方の勝負は……」


「……引き分け、ということだ」


◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


「アタシたちの勝ちよッ! 知ってること、全部話しなさいッ!」


ジェスタークラウンは逃げられないように、紐で吊るし上げられていた。


「……わかったよ♪ 全てを話そう♪」


ジェスタークラウンは天井を仰ぎながら、回想を始めた。


それは雨の日の夜の事だった。いきなり会社をクビにされ、妻子も家を去ってしまい、ボクは人生の路頭を彷徨っていた。生きる意味すら失ったボクのもとに現れたのは、七代目サーカス団長、つまりはボクの恩人にあたる……、


「神について教えなさいよッ」


青いひな鳥は、ジェスタークラウンの回想に割って入った。


「せっかちだね♪ 仕方ないから、ピエロになった経緯は割愛するよ♪」


ジェスタークラウンは一呼吸おいて、今度は声のトーンを低くして語り始めた。


「この地下空間は、神が創り上げた場所さ。各フロアの台座には封印が施されていて、封印が解かれるたびに、神様に危険を知らせる仕掛けが為されていた。だからできれば戦いたくなかったんだよね♪」


「……ヒナコ、お前の早とちりだったな」


「黒城だってッ、最後の戦いとか盛り上がってたじゃないッ!」


「喧嘩は良くないよ♪」


「お前が言うな!」と同時に言われ、ピエロは再び話を続けた。


「神様に復讐を目論む、悪魔『リリス』。神様は『リリス』の魔の手から逃れるために、今も何処かに身を隠している。そこで『リリス』は、ここにスパイを送り込んできた。『パレット』という、能ある人狼をね……」


「それは違うわッ!」


「……ヒナコ?」


青いひな鳥は、それを強く否定した。


「あの子はとても優しい子よッ! そんなんじゃないッ!」


「そうだね。パレットは最初、一切良いことをしていなかった。だけど、キミたちと接していくことで、少しずつ変わっていったんだ」


思い返せば、パレットは第一の封印が終わるまで、一度も良いことをしていなかった。


「全ての封印が解かれてしまった以上、リリスが動くのも時間の問題だろうね」


「そのリリスという人物の目的は、何なのですか?」


イヴは、眠気まなこをこすりながらピエロに聞いた。


「それはわからない。神様はただ、リリスに命を狙われていると言っていた」


「神がどうなろうと、ワタシの知ったことではないのです」


イヴは長い黒髪をなびかせながら背を向けた。


「リリスは神様は炙り出すため、陽光町を焼き払おうとしている」


イヴは振り向いて、ピエロの言葉に耳を貸した。


「その話、本当なのですか?」


「リリスはおそらく、神様を殺すためなら手段を選ばないんだろうね」


「では、そのリリスという人物を倒せばいいのですね」


「確かにキミは強い。この町にいる誰よりも。けど、リリスの強さは次元が違う」


イヴは反抗的な眼差しでピエロを睨みつけた。だが、ピエロの方も本気で言っていることを察すると、イヴは背を向けた。


「今日の夜、陽光神社にある社の中に来てほしい。陽光公園の隠しエリア、『秘密基地エリア』がそこにある」


イヴは聞こえていたが、何も言わずに去ってしまった。


「困ったちゃんねッ」


ピエロは、エレベーターに乗った青いひな鳥と、黒城に言った。


「じゃあね、また『秘密基地エリア』で落ち合おう♪」


全ての封印は解かれてしまった。は近い……。

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