「邪魔者は排除しました。次は貴方の番ですよ、黒城 弾」
「Guluaaaa!」
黒豹の秘宝獣は、猛スピードで次なる獲物、青いひな鳥を追い回す。
「ピイッ!? こっち来たぁッ!?」
「……ヒナコ、《火炎弾》だ」
「なぜにッ!? ええいヤケよッ!」
黒豹の秘宝獣は、炎の弾丸を正面から受けたが、漆黒のオーラが攻撃を打ち消した。
「全然効いてないじゃないッ!」
「……やはりそうか」
「無駄なのです。《ダーク・ダイブ・モード》と《ゲッコウ》によって、最大限硬化した今のダムドレオを倒せるのは、フェンネルの《バーストモード》くらいなのです」
乃呑のSランク秘宝獣、フェンネルの《バーストモード》には、全ての防御を貫通するという効果があった。
「どうすんのよ黒城ッ、ダムドレオを倒す方法はないのッ!?」
「……倒す方法はない。だが、別の方法ならある」
「どうすればいいのよッ!?」
「……ヒナコ、《神鳥の守護》だ」
「一度しか使えないわよッ!? 《神鳥の守護》ッ!」
「……これで終わりなのです。ダムドレオ、《レイジング・ファング》」
青いひな鳥の身体をバリアが包み込んだ。黒豹の秘宝獣の噛みつき攻撃は、障壁によって妨げられた。
「それで勝ったつもりですか、黒城 弾」
イヴはムッとした表情で、黒城を睨みつけた。
「たった一度攻撃を防いだところで、何の解決にもなっていないのですよ」
「……だが、《ダーク・ダイブ・モード》の効力により、ダムドレオの体は奪われる」
「でもさらに硬くなっちゃったわッ!? どうすんのよ黒城ッ!?」
「……ダムドレオに、ダメージを与える手段はない」
「諦めたようなのですね。ダムドレオ、トドメなのです」
黒豹の秘宝獣は、猛スピードで青いひな鳥に飛び掛かかった。
「……今だ、戻れ、ヒナコ」
攻撃の直前、青いひな鳥は白い球体となって秘宝へと戻ると、代わりに山羊の秘宝獣が現れた。
「……開宝、エスケープ・ゴート。《サクリファイス・エスケープ》」
黒豹の秘宝獣の攻撃は止まらない。山羊の秘宝獣は白い球体となって秘宝へと戻ると、今度は青いひな鳥が現れた。
「……ヒナコ、《神鳥の守護》」
「いきなりなにッ!? 《神鳥の守護》ッ!」
黒豹の秘宝獣の攻撃は、再び障壁に妨げられた。
「ニ回目のCIP効果……。いったい……!?」
一連の出来事に、イヴは動揺していた。
「……生徒会長が《ダーク・ダイブ・モード》を使ってくることは読めていた」
黒城は、一連の出来事の解説を始めた。
「……ヒナコが攻撃される直前、エスケープ・ゴートと入れ替えた。エスケープ・ゴートが攻撃される時、ヒナコに攻撃対象が移った。そしてヒナコのCIP効果、《神鳥の守護》を発動させた」
「《神鳥の守護》は、どんな攻撃も一度だけ無効にするバリア……。それが無限に繰り返される、という訳ですか」
「……そういう事だ。もっとも、こちらも攻撃できなくなってしまうが」
「ダムドレオの体力も減り続けますが、ゼロにはならないのです。つまりワタシと貴方の勝負は……」
「……引き分け、ということだ」
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「アタシたちの勝ちよッ! 知ってること、全部話しなさいッ!」
ジェスタークラウンは逃げられないように、紐で吊るし上げられていた。
「……わかったよ♪ 全てを話そう♪」
ジェスタークラウンは天井を仰ぎながら、回想を始めた。
それは雨の日の夜の事だった。いきなり会社をクビにされ、妻子も家を去ってしまい、ボクは人生の路頭を彷徨っていた。生きる意味すら失ったボクのもとに現れたのは、七代目サーカス団長、つまりはボクの恩人にあたる……、
「神について教えなさいよッ」
青いひな鳥は、ジェスタークラウンの回想に割って入った。
「せっかちだね♪ 仕方ないから、ピエロになった経緯は割愛するよ♪」
ジェスタークラウンは一呼吸おいて、今度は声のトーンを低くして語り始めた。
「この地下空間は、神が創り上げた場所さ。各フロアの台座には封印が施されていて、封印が解かれるたびに、神様に危険を知らせる仕掛けが為されていた。だからできれば戦いたくなかったんだよね♪」
「……ヒナコ、お前の早とちりだったな」
「黒城だってッ、最後の戦いとか盛り上がってたじゃないッ!」
「喧嘩は良くないよ♪」
「お前が言うな!」と同時に言われ、ピエロは再び話を続けた。
「神様に復讐を目論む、悪魔『リリス』。神様は『リリス』の魔の手から逃れるために、今も何処かに身を隠している。そこで『リリス』は、ここにスパイを送り込んできた。『パレット』という、能ある人狼をね……」
「それは違うわッ!」
「……ヒナコ?」
青いひな鳥は、それを強く否定した。
「あの子はとても優しい子よッ! そんなんじゃないッ!」
「そうだね。パレットは最初、一切良いことをしていなかった。だけど、キミたちと接していくことで、少しずつ変わっていったんだ」
思い返せば、パレットは第一の封印が終わるまで、一度も良いことをしていなかった。
「全ての封印が解かれてしまった以上、リリスが動くのも時間の問題だろうね」
「そのリリスという人物の目的は、何なのですか?」
イヴは、眠気まなこをこすりながらピエロに聞いた。
「それはわからない。神様はただ、リリスに命を狙われていると言っていた」
「神がどうなろうと、ワタシの知ったことではないのです」
イヴは長い黒髪をなびかせながら背を向けた。
「リリスは神様は炙り出すため、陽光町を焼き払おうとしている」
イヴは振り向いて、ピエロの言葉に耳を貸した。
「その話、本当なのですか?」
「リリスはおそらく、神様を殺すためなら手段を選ばないんだろうね」
「では、そのリリスという人物を倒せばいいのですね」
「確かにキミは強い。この町にいる誰よりも。けど、リリスの強さは次元が違う」
イヴは反抗的な眼差しでピエロを睨みつけた。だが、ピエロの方も本気で言っていることを察すると、イヴは背を向けた。
「今日の夜、陽光神社にある社の中に来てほしい。陽光公園の隠しエリア、『秘密基地エリア』がそこにある」
イヴは聞こえていたが、何も言わずに去ってしまった。
「困ったちゃんねッ」
ピエロは、エレベーターに乗った青いひな鳥と、黒城に言った。
「じゃあね、また『秘密基地エリア』で落ち合おう♪」
全ての封印は解かれてしまった。は近い……。
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