「それにしても、何の収穫も無しなんて……」
パレットはガックリと肩を落として、身を翻した。
「待ってッ、部屋の奥にもう一つ扉があるわッ」
青いひな鳥は、虹色の宝箱から飛び出て、パタパタと飛びながら言った。
「ヒナコ、もう回復したのか……?」
「数分休めば余裕よッ」
(そういえば、ピーちゃんは何の秘宝獣なのかしら?)
青いひな鳥が言っていた、部屋の奥の扉。パレットはその先に、何かを感じていた。
(地面が崩落していて向こう側へ渡る手段が……。いや、何か方法があるはず)
パレットは軍事用ポーチから、もう一度ワイヤーを取り出した。
「ピーちゃん、一つお願いしてもいいかしら?」
「どうしたのッ?」
「ピーちゃんのクチバシでワイヤーを咥えて、壁スレスレを飛行することってできる?」
「それくらいなら出来なくないけどッ、どうするつもりッ?」
「あたしが壁を蹴りながら走るわ。そうすれば対岸に辿りつけるでしょ?」
常人では到底できそうにないが、軍で鍛えられたパレットは、足腰には自信があった。
「……わかったわッ、絶対に振り落とされないでねッ」
青いひな鳥はワイヤーを咥え、上空に飛行した。
パレットは手の甲にワイヤーを巻いて、拳でぎゅっと握った。
「こっちは準備OKよ!」
「じゃあいくわよッ! せーのッ」
「とぉりゃぁぁぁぁ!」
パレットは側壁を蹴りながら数十メートルも走った。少しでも足を止めれば、即座に奈落の底へと真っ逆さまである。
「ぜぇ……、ぜぇ……、何とかたどり着けた……」
パレットは対岸にある扉の前でグッタリと横たわっていた。
(二人には悪いけど、これであたしの一人勝ちよ!)
「よっ……と。ありがと、バジル!」
「Hou、Hou」
白いフクロウの足に掴まり、乃呑は容易く対岸に辿りついた。
(えっ……?)
「黒城ッ、アンタも行くわよッ」
「……やれやれ」
青いひな鳥の足に掴まり、黒城も難なく対岸へ渡った。
(えええっ……!?)
「ちょっとピーちゃん、運べるなら先に言いなさいよ!」
「あらッ、面白そうだったからついねッ」
パレットは、再三に渡って思い知らされた。
郷に入っては郷に従え、ということを。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「扉、開けるわよ?」
「……ああ」
パレットは扉を押し開けた。扉の先は、天井から床まで黄金一色の空間が広がっていた。
その部屋の中央には台座があり、黒色の手のひらサイズの宝箱が置かれていた。
「また罠かしらッ」
「……どうだろうな」
黒城と青いひな鳥が躊躇している間に、パレットは台座に置かれていた『秘宝』を自身の軍事用ポーチの中に入れた。
「ふふん、この戦利品はあたしがいただくわ!」
「私は秘宝獣揃ってるから文句ないけど、黒城たちは?」
乃呑が聞くと、黒城は黙って頷いた。
「じゃあ決まりだね。」
結果、黒色の宝箱はパレットが手にすることとなった。
「ついにあたしも、『秘宝』を手に入れたわ!」
黒城はポチっと、壁にあったボタンを押した。
「ちょっと黒城、それ何のボタン!?」
「……エレベーターだ」
「エレベーター?」
チーンという音と共に、黄金の部屋の壁が開いた。本当にエレベーターのようだ。
「苦労して辿りついたわりには、帰りはあっさりしてるのね……」
「パレットさん、ちょっとタイム!」
パレットが地上行きのボタンを押そうとした時、乃呑は待ったをかけた。
「どうしたの?」
「さっき、私がここに来た理由、話したよね?」
「子どもたちが心配してたからでしょ?」
「それもだけど、もっと大事なこと。個人的な話になるけど……」
乃呑は、口どもりながらも、真剣な目をしていった。
「パレットさんが家を飛び出していった時、チラッと顔が見えたんだ。その眼が、昔の私と同じ眼をしていた。誰も信じない、信じられるのは自分だけ。そんな眼……」
乃呑は、エレベーターという密室の中、自分の過去について語り始めた。
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