ヨハネと獣の黙示録

〜黙示録事件篇〜
上崎 司
上崎 司

第一の封印⑤

公開日時: 2020年9月29日(火) 12:00
文字数:1,554

「それにしても、何の収穫も無しなんて……」


パレットはガックリと肩を落として、身を翻した。


「待ってッ、部屋の奥にもう一つ扉があるわッ」


青いひな鳥は、虹色の宝箱から飛び出て、パタパタと飛びながら言った。


「ヒナコ、もう回復したのか……?」


「数分休めば余裕よッ」


(そういえば、ピーちゃんは何の秘宝獣なのかしら?)


青いひな鳥が言っていた、部屋の奥の扉。パレットはその先に、何かを感じていた。


(地面が崩落していて向こう側へ渡る手段が……。いや、何か方法があるはず)


パレットは軍事用ポーチから、もう一度ワイヤーを取り出した。


「ピーちゃん、一つお願いしてもいいかしら?」


「どうしたのッ?」


「ピーちゃんのクチバシでワイヤーを咥えて、壁スレスレを飛行することってできる?」


「それくらいなら出来なくないけどッ、どうするつもりッ?」


「あたしが壁を蹴りながら走るわ。そうすれば対岸に辿りつけるでしょ?」


常人では到底できそうにないが、軍で鍛えられたパレットは、足腰には自信があった。


「……わかったわッ、絶対に振り落とされないでねッ」


青いひな鳥はワイヤーを咥え、上空に飛行した。


パレットは手の甲にワイヤーを巻いて、拳でぎゅっと握った。


「こっちは準備OKよ!」


「じゃあいくわよッ! せーのッ」


「とぉりゃぁぁぁぁ!」


パレットは側壁を蹴りながら数十メートルも走った。少しでも足を止めれば、即座に奈落の底へと真っ逆さまである。


「ぜぇ……、ぜぇ……、何とかたどり着けた……」


パレットは対岸にある扉の前でグッタリと横たわっていた。


(二人には悪いけど、これであたしの一人勝ちよ!)


「よっ……と。ありがと、バジル!」


「Hou、Hou」


白いフクロウの足に掴まり、乃呑は容易く対岸に辿りついた。


(えっ……?)


「黒城ッ、アンタも行くわよッ」


「……やれやれ」


青いひな鳥の足に掴まり、黒城も難なく対岸へ渡った。


(えええっ……!?)


「ちょっとピーちゃん、運べるなら先に言いなさいよ!」


「あらッ、面白そうだったからついねッ」


パレットは、再三に渡って思い知らされた。


郷に入っては郷に従え、ということを。


◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


「扉、開けるわよ?」


「……ああ」


パレットは扉を押し開けた。扉の先は、天井から床まで黄金一色の空間が広がっていた。


その部屋の中央には台座があり、黒色の手のひらサイズの宝箱が置かれていた。


「また罠かしらッ」


「……どうだろうな」


黒城と青いひな鳥が躊躇している間に、パレットは台座に置かれていた『秘宝』を自身の軍事用ポーチの中に入れた。


「ふふん、この戦利品はあたしがいただくわ!」


「私は秘宝獣揃ってるから文句ないけど、黒城たちは?」


乃呑が聞くと、黒城は黙って頷いた。


「じゃあ決まりだね。」


結果、黒色の宝箱はパレットが手にすることとなった。


「ついにあたしも、『秘宝』を手に入れたわ!」


黒城はポチっと、壁にあったボタンを押した。


「ちょっと黒城、それ何のボタン!?」


「……エレベーターだ」


「エレベーター?」


チーンという音と共に、黄金の部屋の壁が開いた。本当にエレベーターのようだ。


「苦労して辿りついたわりには、帰りはあっさりしてるのね……」


「パレットさん、ちょっとタイム!」


パレットが地上行きのボタンを押そうとした時、乃呑は待ったをかけた。


「どうしたの?」


「さっき、私がここに来た理由、話したよね?」


「子どもたちが心配してたからでしょ?」


「それもだけど、もっと大事なこと。個人的な話になるけど……」


乃呑は、口どもりながらも、真剣な目をしていった。


「パレットさんが家を飛び出していった時、チラッと顔が見えたんだ。その眼が、昔の私と同じ眼をしていた。誰も信じない、信じられるのは自分だけ。そんな眼……」


乃呑は、エレベーターという密室の中、自分の過去について語り始めた。

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