ヨハネと獣の黙示録

〜黙示録事件篇〜
上崎 司
上崎 司

第三の封印②

公開日時: 2020年11月7日(土) 17:00
文字数:2,532

「……行け、ブラック・チリ・クワガタ」


「ハイエレファント♪ 《ウォーターシャワー》♪」


象の秘宝獣の鼻から放たれた水流が、クワガタの秘宝獣の進行を妨げる。


「これで、チミの攻撃は、ハイエレファントには届かない♪」


「……普通のクワガタならそうだろうな。だが、ブラック・チリ・クワガタは……」


水を切り裂いて進むクワガタの秘宝獣は、二つ目の顎で象の鼻を挟んだ。


「……二回攻撃できる」


『過剰適応』と呼ばれた顎は、秘宝獣として『昇華』されたことで、第二の鋏として使えるようになっていた。象の秘宝獣は白い球体となり、金色の宝箱の中へ戻った。


「ハイエレファント!? ……こうなった以上、ボクちんも手加減なしで行くよ♪」


ジェスタークラウンは、隠し持っていた、黄色の宝箱を開けた。


雄たけびと共に、宝箱の中から一頭の猛獣が飛び出した。立派なたてがみに王冠を戴いた動物は、百獣の王、ライオンに酷似している。


モデルはおそらく、中国神話の幻獣、獅子。


【Sランク秘宝獣―スパークキング・オブ・ビースト―】


「これこそボクちんが神から与えられた、最強の秘宝獣♪」


「……Sランクの秘宝獣」


獅子の秘宝獣は、黒い雷雲を呼び寄せた。黒い雷が、クワガタの秘宝獣に注ぎ、一瞬にして白い球体になってしまった。


「これがスパークキング・オブ・ビーストのCIP効果♪ 《》♪」


Sランクが登場した時に獲得するCIP効果は、一手で戦況を大きく変える。


「……開宝、エスケープ・ゴート」


黒城が次に繰り出したのは、第一の封印の時にパレットに貸していた、山羊の秘宝獣だ。


【Cランク秘宝獣ーエスケープ・ゴート】


「スパークキング♪ 《雷撃》♪」


「……戻れ、エスケープゴート。開宝、黒蝶貝」


山羊の秘宝獣は、雷撃を受ける直前で白い球体へと戻り、代わりに二枚貝の秘宝獣をバトルに出した。


【Bランク秘宝獣ーー】


雷撃を受けた二枚貝の秘宝獣は、一撃で倒されてしまい、白い球体へと戻ってしまった。


「……エスケープ・ゴートは攻撃されたとき、強制的にランクが上の秘宝獣に攻撃を受け流す」


「なるほどね♪ でももう後がないよ♪」



◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


余裕の態度を見せるジェスタークラウン。


その時だった。入り口の扉が開き、一人の少女が入ってきた。


「……開宝、ダムドレオ」


謎の少女は、学ランのポケットから迷彩柄の秘宝を取り出し、開けた。


秘宝の中から、左眼に傷のある黒豹の秘宝獣が飛び出した。


【Sランク秘宝獣ーダムドレオー】


「Guluaaaa!」


「この秘宝獣は♪ まさか♪」


「何を苦戦しているのですか、黒城 弾」


「……生徒会長」


謎の少女は、『アスレチックエリア』のボールプールで眠っていた、黒い長髪をなびかせ、学ランに袖を通さずに羽織った、ジト眼の少女だった。


「誰なのですか、その奇抜な格好をしたピエロは……」


「チミのことは神様からは聞いているよ♪ イヴちゃん♪」


イヴと呼ばれる少女は、ピエロを無視して続けた。


「黒城 弾、無駄口を叩いている暇があるなら、さっさとそいつを倒すのです」


「……ああ」


「無駄だよ♪ 生物学上最強の獅子に、敵うものなんていない♪」


「動物と秘宝獣は、違うのですよ。ダムドレオのCIP効果、《》」


黒豹の秘宝獣は、獅子の秘宝獣に襲いかかった。


「ダムドレオの《強襲》は、パワーとスピードを一時的に大幅に跳ね上げるのです」


黒豹の秘宝獣は、自身より体格の大きな獅子の秘宝獣をなぎ倒した。


Dark Moon Dominion Leopard。


通称ダムドレオ。この町の名である『陽光』とは真逆のネーミングである。


「黒城ッ、アタシはいつでも行けるわよッ」


「……ああ、もう一度頼むぞ、ヒナコ」


闘いの隙を見計らって、黒城は虹色の宝箱を開けた。


「Guluaaaa!」


黒豹の秘宝獣は、今度は青いひな鳥を襲い始めた。飛んで逃げる青いひな鳥に対し、設置されていたトランポリンを利用して叩き落としにかかる。


「ピィッ!? 何でアタシを攻撃すんのよッ!」


「黒城 弾、ワタシは貴方の味方になったとは、一言も言ってないのですよ」


黒豹の秘宝獣の攻撃を躱していた青いひな鳥は、背後から襲ってきた、獅子の秘宝獣に地面に押さえつけられてしまった。


「気を取られて油断したね♪」


「キャァァァァ、助けてッ」


青いひな鳥はパタパタと暴れるが抜け出せない。そこに黒豹の秘宝獣が再び襲い掛かった。


獅子の秘宝獣と対峙した黒豹の秘宝獣は、全身に漆黒のオーラを纏っていた。


「ダムドレオ、《ダーク・ダイブ・モード》なのです」


その隙に黒城は鎖を使い、青いひな鳥を近くに回収した。


「……ヒナコ、大丈夫か?」


「なんとかねッ……」


「……ダムドレオのダーク・ダイブ・モードは、全ての能力を上昇させる代わり、体力が減り続ける諸刃の剣だ。このまましばらくやり過ごすぞ」


獅子の秘宝獣が、黒豹の秘宝獣めがけて飛び掛かった。


「スパークキング・オブ・ビースト、《ライジング・ファング》♪」


「ダムドレオ、《レイジング・ファング》なのです」


「Gaoooo!」


「Guluaaaa!」


獅子の秘宝獣が噛みついても、黒豹の秘宝獣が噛みつき返す。両者共、食い下がらない。


「聞こえちゃったよ♪ 体力が減り続けるデメリットがあるんだって♪ だとすれば、ダムドレオが先に倒れるのは明白♪」


そんなジェスタークラウンの余裕を、イヴは嘲笑った。


「……ダムドレオにはまだ、第三の能力があるのですよ」


黒豹の秘宝獣の閉じていた左眼が開いた。瞳の中には、真っ白な月が浮かび上がっていた。月の形状は、ダムドレオの傷が増える度に変化し、新月から半月、半月から満月へと満ちるように変化していく。


「体力が減れば減るほど、能力を増していく、ダムドレオの第三の能力……」


「Gulaaaa!」


「それが《ゲッコウ》……」


漢字にすると月光、または、激昂だろうか。あるいはその両方か。


獅子の秘宝獣は、黒豹の秘宝獣の強化された力の前に地面に倒れ伏せた。


「そんな……。ボクちんのSランク秘宝獣が……」


「Sランクの秘宝獣を遣いこなす条件……。それこそが『愛』の力なのです」


獅子の秘宝獣は白い球体となって、自身の秘宝の中へと戻っていった。


これが陽光町の二枚看板。


レイティング一位。


モデルはおそらく、【ヨハネの黙示録】の【黒き獣】

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