「……行け、ブラック・チリ・クワガタ」
「ハイエレファント♪ 《ウォーターシャワー》♪」
象の秘宝獣の鼻から放たれた水流が、クワガタの秘宝獣の進行を妨げる。
「これで、チミの攻撃は、ハイエレファントには届かない♪」
「……普通のクワガタならそうだろうな。だが、ブラック・チリ・クワガタは……」
水を切り裂いて進むクワガタの秘宝獣は、二つ目の顎で象の鼻を挟んだ。
「……二回攻撃できる」
『過剰適応』と呼ばれた顎は、秘宝獣として『昇華』されたことで、第二の鋏として使えるようになっていた。象の秘宝獣は白い球体となり、金色の宝箱の中へ戻った。
「ハイエレファント!? ……こうなった以上、ボクちんも手加減なしで行くよ♪」
ジェスタークラウンは、隠し持っていた、黄色の宝箱を開けた。
雄たけびと共に、宝箱の中から一頭の猛獣が飛び出した。立派なたてがみに王冠を戴いた動物は、百獣の王、ライオンに酷似している。
モデルはおそらく、中国神話の幻獣、獅子。
【Sランク秘宝獣―スパークキング・オブ・ビースト―】
「これこそボクちんが神から与えられた、最強の秘宝獣♪」
「……Sランクの秘宝獣」
獅子の秘宝獣は、黒い雷雲を呼び寄せた。黒い雷が、クワガタの秘宝獣に注ぎ、一瞬にして白い球体になってしまった。
「これがスパークキング・オブ・ビーストのCIP効果♪ 《》♪」
Sランクが登場した時に獲得するCIP効果は、一手で戦況を大きく変える。
「……開宝、エスケープ・ゴート」
黒城が次に繰り出したのは、第一の封印の時にパレットに貸していた、山羊の秘宝獣だ。
【Cランク秘宝獣ーエスケープ・ゴート】
「スパークキング♪ 《雷撃》♪」
「……戻れ、エスケープゴート。開宝、黒蝶貝」
山羊の秘宝獣は、雷撃を受ける直前で白い球体へと戻り、代わりに二枚貝の秘宝獣をバトルに出した。
【Bランク秘宝獣ーー】
雷撃を受けた二枚貝の秘宝獣は、一撃で倒されてしまい、白い球体へと戻ってしまった。
「……エスケープ・ゴートは攻撃されたとき、強制的にランクが上の秘宝獣に攻撃を受け流す」
「なるほどね♪ でももう後がないよ♪」
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
余裕の態度を見せるジェスタークラウン。
その時だった。入り口の扉が開き、一人の少女が入ってきた。
「……開宝、ダムドレオ」
謎の少女は、学ランのポケットから迷彩柄の秘宝を取り出し、開けた。
秘宝の中から、左眼に傷のある黒豹の秘宝獣が飛び出した。
【Sランク秘宝獣ーダムドレオー】
「Guluaaaa!」
「この秘宝獣は♪ まさか♪」
「何を苦戦しているのですか、黒城 弾」
「……生徒会長」
謎の少女は、『アスレチックエリア』のボールプールで眠っていた、黒い長髪をなびかせ、学ランに袖を通さずに羽織った、ジト眼の少女だった。
「誰なのですか、その奇抜な格好をしたピエロは……」
「チミのことは神様からは聞いているよ♪ イヴちゃん♪」
イヴと呼ばれる少女は、ピエロを無視して続けた。
「黒城 弾、無駄口を叩いている暇があるなら、さっさとそいつを倒すのです」
「……ああ」
「無駄だよ♪ 生物学上最強の獅子に、敵うものなんていない♪」
「動物と秘宝獣は、違うのですよ。ダムドレオのCIP効果、《》」
黒豹の秘宝獣は、獅子の秘宝獣に襲いかかった。
「ダムドレオの《強襲》は、パワーとスピードを一時的に大幅に跳ね上げるのです」
黒豹の秘宝獣は、自身より体格の大きな獅子の秘宝獣をなぎ倒した。
Dark Moon Dominion Leopard。
通称ダムドレオ。この町の名である『陽光』とは真逆のネーミングである。
「黒城ッ、アタシはいつでも行けるわよッ」
「……ああ、もう一度頼むぞ、ヒナコ」
闘いの隙を見計らって、黒城は虹色の宝箱を開けた。
「Guluaaaa!」
黒豹の秘宝獣は、今度は青いひな鳥を襲い始めた。飛んで逃げる青いひな鳥に対し、設置されていたトランポリンを利用して叩き落としにかかる。
「ピィッ!? 何でアタシを攻撃すんのよッ!」
「黒城 弾、ワタシは貴方の味方になったとは、一言も言ってないのですよ」
黒豹の秘宝獣の攻撃を躱していた青いひな鳥は、背後から襲ってきた、獅子の秘宝獣に地面に押さえつけられてしまった。
「気を取られて油断したね♪」
「キャァァァァ、助けてッ」
青いひな鳥はパタパタと暴れるが抜け出せない。そこに黒豹の秘宝獣が再び襲い掛かった。
獅子の秘宝獣と対峙した黒豹の秘宝獣は、全身に漆黒のオーラを纏っていた。
「ダムドレオ、《ダーク・ダイブ・モード》なのです」
その隙に黒城は鎖を使い、青いひな鳥を近くに回収した。
「……ヒナコ、大丈夫か?」
「なんとかねッ……」
「……ダムドレオのダーク・ダイブ・モードは、全ての能力を上昇させる代わり、体力が減り続ける諸刃の剣だ。このまましばらくやり過ごすぞ」
獅子の秘宝獣が、黒豹の秘宝獣めがけて飛び掛かった。
「スパークキング・オブ・ビースト、《ライジング・ファング》♪」
「ダムドレオ、《レイジング・ファング》なのです」
「Gaoooo!」
「Guluaaaa!」
獅子の秘宝獣が噛みついても、黒豹の秘宝獣が噛みつき返す。両者共、食い下がらない。
「聞こえちゃったよ♪ 体力が減り続けるデメリットがあるんだって♪ だとすれば、ダムドレオが先に倒れるのは明白♪」
そんなジェスタークラウンの余裕を、イヴは嘲笑った。
「……ダムドレオにはまだ、第三の能力があるのですよ」
黒豹の秘宝獣の閉じていた左眼が開いた。瞳の中には、真っ白な月が浮かび上がっていた。月の形状は、ダムドレオの傷が増える度に変化し、新月から半月、半月から満月へと満ちるように変化していく。
「体力が減れば減るほど、能力を増していく、ダムドレオの第三の能力……」
「Gulaaaa!」
「それが《ゲッコウ》……」
漢字にすると月光、または、激昂だろうか。あるいはその両方か。
獅子の秘宝獣は、黒豹の秘宝獣の強化された力の前に地面に倒れ伏せた。
「そんな……。ボクちんのSランク秘宝獣が……」
「Sランクの秘宝獣を遣いこなす条件……。それこそが『愛』の力なのです」
獅子の秘宝獣は白い球体となって、自身の秘宝の中へと戻っていった。
これが陽光町の二枚看板。
レイティング一位。
モデルはおそらく、【ヨハネの黙示録】の【黒き獣】。
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