学校の地下は、入口からは想像できないほど、広い空間が広がっていた。
壁や床は大理石でできており、明らかに人工的に作られた空間だ。
「ただの学校の地下、ではなさそうね……」
しばらく歩くと、わざとらしく天井から紐が吊るされていた。
「……こういうのは干渉しないのが無難だな」
黒城が罠を無視して通り過ぎようとした時、青いひな鳥が紐をクチバシで引っ張った。
天井の一部が外れ、ガラガラと落石が降り注いだ。
黒城は「ぐぁぁぁっ」と断末魔の叫びをあげ、落石の下敷きとなってしまった。
「イイッ? 冒険には危険がつきものなのよッ!」
パレットに教えるように、青いひな鳥は胸を張って言った。
落石を押しのけ、黒城がボロボロな姿で這い上がってきた。
「……ヒナコ、お前は俺を殺す気か……」
「平気みたいねッ、次行きましょうッ」
さらに進むと、今度は壁から木の矢が飛んできた。パレットはその矢を反射的に躱した。
「パレットちゃんッ、なかなかやるわねッ」
「まぁ、当然よ……」
今思えば、公園の砂場で砂団子を避けたことや射的屋での腕前は、パレットが前の世界で軍人として培ってきた身体能力ゆえだったようだ。
木の矢のトラップを掻い潜ると、今度は迷路のような道が続いていた。黒城は左手を壁に当てたまま、迷うことなく進んでいく。
「黒城ッ、どうしてずっと壁に手を当ててるのッ?」
「……迷路で絶対に迷わない方法だ。脱出不可能な構造でもない限り、同じ道に迷い込むことは無くなるはずだ」
「なるほどねッ」
青いひな鳥はパタパタと空を飛び、上空から迷路を見下ろした。
「出口ならちゃんとあったわよッ。これで安心して進めるわねッ」
(飛べるなら最初から、道案内しなさいよ……)
パレットは冷たい眼で睨みながら、黒城と青いひな鳥の一歩後ろをついて行った。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
ダンジョンの最奥に到達すると、存在感を放っている重厚な鉄の扉があった。
(ここが最後のようね……)
パレットは拳銃をレッグホルスターから抜いて扉に張りつき、扉を少しだけ開けた。
するとわずかな隙間から、光が差し込んできた。
パレットは体で押して、ゆっくりと扉を開いた。
大広間の真ん中には、一つの台座があった。台座の上には、手のひらサイズの金色の宝箱、『秘宝』が置かれていた。
「近くに確かめに行くわよ黒城ッ!」
「……ああ」
「待って! 台座の近くに罠が張られているわ。ここはあたしに任せて」
(今のは嘘。さっさと『秘宝』を手に入れて、その後で始末してあげる)
パレットは大理石の床を一歩ずつ進んで台座へと近づいて行ったが……。
パレットの踏んだ床が、ガコンと凹んだ。その瞬間、警報器が作動した。
(しまった……、トラップ!?)
大地が激しく振動し、地面に亀裂が走り、部屋の中央より先の床が崩落した。
「なにこれッ、地震ッ!?」
「……いやヒナコ、あれを見ろ」
地面の裂け目から、鋼鉄で覆われた、八階建てのビルほどの大きさを持つ、巨大な石像が姿を現した。
「……どう見ても味方じゃなさそうねッ」
パレットは一歩後ろに跳ね退き、拳銃を構え発砲した。
「くたばりなさいっ!」
弾丸を三発撃ちこんだが、鋼鉄の巨像はピクリともしない。パレットは、軍事用ポーチから火炎瓶を取り出し、鋼鉄の巨像の顔面に向けて投げた。
「燃えなさいっ!!」
瓶の外の空気に触れ、炎が燃え上がった。
火炎瓶が直撃したことに、パレットは確かな手ごたえを感じていた。だが……、
「嘘……、でしょ……」
鋼鉄の巨像には傷一つとしてなかった。パレットは呆然と突っ立っている。
(銃も効かない。手榴弾も効かない。こんな化け物、いったいどうすれば……)
「……おい、避けろ!!」
黒城の声が、広間に響き渡った。
鋼鉄の巨像の拳がパレットに向けて振り下ろされた。
「えっ……?」
パレットは避ける間もなく、地面はクレーターのように潰れた。
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