ヨハネと獣の黙示録

〜黙示録事件篇〜
上崎 司
上崎 司

第二の封印①

公開日時: 2020年10月2日(金) 07:00
文字数:1,993

翌朝、パレットは陽光公園の『アスレチックエリア』に来ていた。


「困った時はお互いさま、か……」


自分の身は自分で守る。


パレットの今までの価値観とは、真逆の考え方だった。


パレットが考え事をしていると、懐かしのボールプールの中から、「すぅすぅ」と、小さな寝息が聞こえて来た。


「あら? 誰かいるの?」


パレットは少し気になって、ボールプールの中を覗きこんだ。


するとボールプールの中に、中学校の制服を着た女の子が埋もれながら眠っていた。


「起きなさい。こんなところで女の子が一人で寝てたら危ないわよ?」


パレットは眠れる女の子の腕を引っ張り上げ、ボールプールから救出した。


以前のパレットなら、見て見ぬふりをしていただろう。


助け出された少女は、眠けまなこを擦りながら、欠伸をした。


「ふぁっ……。今、何時なのです?」


「えっと……、朝の七時よ。それより、どうしてこんなところで寝ていたの?」


「仮眠を……。十五分ほど……」


その少女は、白いスクールシャツの上に、黒い学ランを袖を通さずに羽織っていた。


腰のあたりまである銀髪が、風に揺れる。


ジトッとした眼の中に、吸い込まれるような灰色の瞳は、見る者全てを釘付けにするほどミステリアスな魅力があった。


「危うく寝過ごしてしまうところだったのです」


「ふふん、お礼なんていいわよ」


パレットは腰に手を当てて自慢げに言った。


「そうですか。それとワタシから一つ、貴方に聞きたいことがあるのですが」


「聞きたいこと……? 何かしら?」


昨晩、ワタシの学校に三名の不法侵入者が出没したのです。一人は問題児の黒城 弾。それを追って来たと思われる、生徒会の副会長、菜の花 乃呑。そしてもう一人は、謎の金髪の少女……。心当たりはないのですか?


ジト眼の少女は、スカートのポケットから迷彩柄の宝箱を取り出し、突き出した。


(……っ! この殺気、学校に侵入したときに感じた気配と同じ……)


パレットはレッグホルスターに収まった拳銃に手をかけようとしたが、睨みあったまま動かない。


(一切の隙がない……。この少女、いったい何者なの?)


パレットの鼓動が、しだいに速くなっていく。すると突然、


「ふぁっ……。物騒なので、貴方も気を付けたほうがいいのです。それでは……」


口を押えながら小さくあくびをし、ジト目の少女は身を翻した。そして、陽光中学校の方面に歩き去っていった。


「このあたしが、手も足も出せないなんて……」


パレットが感じた威圧感。あの少女はいったい何者なのだろうか。


◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


(悔しいけど、今のあたしは、この世界の戦いについていけない。あたしも強くなりたい)


パレットは陽光公園を離れ、商店街へと向かった。


情報に詳しそうな人を求めて、商店街の表通りから外れた裏通りを歩いていた。裏通りのシャッターは全て閉じ切られており、閑散としていた。


(あいつなら強くなる方法を知ってるかもしれない……。ブラウ・ヴァルカン)


パレットは、以前公園のブランコで会った青髪の青年のことを思い浮かべて、裏路地を歩いていた。


すると、ガラガラと一軒の店のシャッターが開いた。その店の看板には、『秘宝堂』と書かれていた。


(この店、もしかして……)


パレットは店内に入るや、ショーケースに顔を近づけた。ショーケースの中には、

銅色の宝箱、銀色の宝箱、金色の宝箱が並べられていた。


「これって、『秘宝』!? 値段は……一、十、百、千、万……高っ!?」


パレットは金色の宝箱の値段に驚愕し、思わず声をあげた。


「ウハハハ、その反応、『秘宝』を買いにきたのは初めてか?」


パレットは後ろから声をかけられた。


パレットが振り向くと、真っ黒の袈裟(けさ)に金色の装飾を身につけ下駄を履いた、坊主頭の筋骨隆々な漢、屈強ハゲが店番をしていた。


「俺の名は、 。この『秘宝堂』の店主をやってる」


屈強ハゲは、ニカッと笑いながら言った。


「よくいるんだ、『秘宝』を買いに来たはいいが、値段の高さにケチつける客。俺は、そんな客を閉め出す為に雇われ、そしていつの間にやら店主になっていた」


「趣味の悪い話ね……」


「そうか? これでもむしろ、うちは相場より安い方なんだがな!」


「十分高いわよ。だって秘宝って、TRG社の量産品でしょ?」


「いいや、秘宝はもう、どこでも製造されてねぇって噂だ」


「製造されてない……?」


パレットはその回答に違和感を感じた。


「TRG社以外では、秘宝を作ってないってこと?」


「ああ。コカ・コーラと同じだな!」


パレットは眉をひそめながら聞いた。


「話を変えるわ。ここは秘宝獣を売ってないの?」


「秘宝獣の売買は法律で禁止されてるんでな。うちはあくまで空っぽの『秘宝』だけを売買している店だ。『昇華』させる動物を買いたきゃ、他を当たりな」


秘宝獣こそ手に入らなかったが、銅色でも、銀色でも、金色でもない。


パレットは昨日手に入れた宝箱が、Sランクの『秘宝』であることを確信した。

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