「ママも戦場に行っちゃうの……?」
「そうよ。でも、必ず帰ってくるから」
あたしのママは、若くして軍の衛生兵に抜擢された。戦場での医療を担う仕事だ。
「すぐ帰ってくる……?」
「ええ、すぐに帰ってくるわ、クド」
ママは優しく微笑んで、あたしの髪を撫でてくれた。
クアドリフォリオ。四つ葉のクローバーという意味の、クリスチャンネームだ。
あたしは毎日教会に通い、神様にお祈りをしていた。「ママが早く帰ってきますように」って。そして数カ月経ったある日、ようやく神様への祈りが通じたのか、一通の封筒が家に届いた。あたしは喜々として封筒の中の手紙を見た。
手紙には、ママが敵国の軍の攻撃に巻き込まれ、死亡したという内容が記されていた。
(神様……。どうして何もしてくれなかったの? 毎日、毎日、毎日、祈っていたのに……)
そしてあたしは軍に入った。ママを殺したヤツに『復讐』するために……。
それから月日が流れ、あたしは戦場で、紅緋色のローブの女性に出会った。
気が付くとあたしは、見た事のないような場所へと連れて行かれていた。
「あなたは誰? ここはどこなの?」
「私はスカーレット。そしてここは、『神様』がいる正史の世界よ」
「正史の世界?」
「そうよ。ほら、あれを見て。あれが本物のあなたよ」
紅緋色のローブの女性が指さす先を見るとそこには、長い金色の髪をサイドテールに結んだ少女が、あたしの父、母と仲睦まじく暮らしていた。
(死んだはずの母さん……? 夢でも見ているのかしら)
「あれが、本物のあなたよ」
「本物? だったら今のあたしは何なの?」
「あなたはそうね……。『失敗作』といったところかしら?」
紅緋色のローブの女性が言っていることが、理解できなかった。
「どういうこと……?」
「簡単な話よ。あなたの存在した世界そのものが、『神の失敗作』だったのよ」
意味がわからない。この人、一体何を言っているの?
「『神』は戦争のない、完璧な世界を創りあげた。けど、科学や医療は『戦争』の中で発展してきた。そこで『神』は、一つの方法を考えた」
紅緋色のローブの女性が言いたいことは、すぐに察しがついた。
「あたしの世界を、踏み台にした……」
「その通りよ。だからこの世界には、『戦争』がないのに科学も医療も発達しているの」
『神』は、正史と呼ばれる世界のために、あたしの世界をめちゃくちゃにしたんだ。
「だから私は、あなたに提案しに来たの。一緒に『神』に復讐しない?」
あたしは思った。これは『神』という存在に抗う、またとない機会だと。
「ええ、あたしも協力するわ。あたしはクアドリフォリオ。クドと呼ばれているわ」
「あら、神から授かった名前を名乗るの? 私が名前を考えてあげるわ。そうね、『パレット』なんてどうかしら?」
「『パレット』ですか……? 弾丸を意味する『バレット』ではなく……?」
「だって、そのほうが可愛いでしょう?」
新しく与えられた名前は、不思議と悪い気はしなかった。
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