ヨハネと獣の黙示録

〜黙示録事件篇〜
上崎 司
上崎 司

第二の封印⑤

公開日時: 2020年11月5日(木) 17:00
文字数:1,201

「ママも戦場に行っちゃうの……?」


「そうよ。でも、必ず帰ってくるから」


あたしのママは、若くして軍の衛生兵に抜擢された。戦場での医療を担う仕事だ。


「すぐ帰ってくる……?」


「ええ、すぐに帰ってくるわ、クド」


ママは優しく微笑んで、あたしの髪を撫でてくれた。


クアドリフォリオ。四つ葉のクローバーという意味の、クリスチャンネームだ。


あたしは毎日教会に通い、神様にお祈りをしていた。「ママが早く帰ってきますように」って。そして数カ月経ったある日、ようやく神様への祈りが通じたのか、一通の封筒が家に届いた。あたしは喜々として封筒の中の手紙を見た。


手紙には、ママが敵国の軍の攻撃に巻き込まれ、死亡したという内容が記されていた。


(神様……。どうして何もしてくれなかったの? 毎日、毎日、毎日、祈っていたのに……)


そしてあたしは軍に入った。ママを殺したヤツに『復讐』するために……。


それから月日が流れ、あたしは戦場で、紅緋色のローブの女性に出会った。


気が付くとあたしは、見た事のないような場所へと連れて行かれていた。


「あなたは誰? ここはどこなの?」


「私はスカーレット。そしてここは、『神様』がいる正史の世界よ」


「正史の世界?」


「そうよ。ほら、あれを見て。あれが本物のあなたよ」


紅緋色のローブの女性が指さす先を見るとそこには、長い金色の髪をサイドテールに結んだ少女が、あたしの父、母と仲睦まじく暮らしていた。


(死んだはずの母さん……? 夢でも見ているのかしら)


「あれが、本物のあなたよ」


「本物? だったら今のあたしは何なの?」


「あなたはそうね……。『失敗作』といったところかしら?」


紅緋色のローブの女性が言っていることが、理解できなかった。


「どういうこと……?」


「簡単な話よ。あなたの存在した世界そのものが、『神の失敗作』だったのよ」


意味がわからない。この人、一体何を言っているの?


「『神』は戦争のない、完璧な世界を創りあげた。けど、科学や医療は『戦争』の中で発展してきた。そこで『神』は、一つの方法を考えた」


紅緋色のローブの女性が言いたいことは、すぐに察しがついた。


「あたしの世界を、踏み台にした……」


「その通りよ。だからこの世界には、『戦争』がないのに科学も医療も発達しているの」


『神』は、正史と呼ばれる世界のために、あたしの世界をめちゃくちゃにしたんだ。


「だから私は、あなたに提案しに来たの。一緒に『神』に復讐しない?」


あたしは思った。これは『神』という存在に抗う、またとない機会だと。


「ええ、あたしも協力するわ。あたしはクアドリフォリオ。クドと呼ばれているわ」


「あら、神から授かった名前を名乗るの? 私が名前を考えてあげるわ。そうね、『パレット』なんてどうかしら?」


「『パレット』ですか……? 弾丸を意味する『バレット』ではなく……?」


「だって、そのほうが可愛いでしょう?」


新しく与えられた名前は、不思議と悪い気はしなかった。

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