ヨハネと獣の黙示録

〜黙示録事件篇〜
上崎 司
上崎 司

アポカリプス・デイ

アポカリプス①

公開日時: 2020年11月10日(火) 07:00
文字数:2,271

パレットが教会の扉を勢いよく開けると、紅緋色のローブの女性と遭遇した。


「感謝するわ、パレット。あなたのおかげで、全ての封印は解かれた」


「スカーレット様、一つ聞いてもいいですか?」


教会から出て行こうとする紅緋色のローブの女性を、パレットは引き留めた。


「神がいなくなったら……、この世界はどうなるの?」


「さあ、どうなるのかしら?」


「……あたしはこれから、どうすればいいの?」


「……それを決めるのはパレット、あなた自身よ。私は応援するわ。あなたがどんな選択をしようと、ね」


紅緋色のローブの女性はそう答え、教会を後にした。


「戻ったかパレットよ……」


神父はいつもと変わらぬ様子で、教会の祈祷室にいた。


「はい、お父さん……」


パレットは神父に、思いがけない言葉を口にした。


「どうやら全てを思い出したようだな、我が娘よ……」


神父の正体は、パレットと共に連れてこられた、実の父親だった。


「いよいよだ……。我が妻を見捨てた神に、ようやく復讐する時が来たのだ!」


神父とパレットが教会の外へ出ると、軍事用ヘリコプターが上空で待機していた。


ヘリコプターからハシゴが下ろされ、神父とパレットはヘリコプターに乗り込んだ。


パレットの眼に飛び込んできたのは、圧倒的な存在感を放つ、巨大な黒い空中母艦だった。


(あたしの知らない間に、こんなものが……)


「三十分後、この町にクラスター爆弾を落とす。全てを焼き尽くすのだ!」


ヘリコプターは母艦のヘリポートに着地すると、ヘリコプターごと艦内に収容された。


艦内にいた乗員は皆、緋色のローブを羽織っている。神父は彼らの前に立ち、両手を大げさに広げ、高らかに宣告した。


「皆の者、我々の悲願がついに実現する! 我々が新世界の神となるのだ!」


「おおーっ」と沸き立つ歓声の中、パレットはたった一人、怪訝な表情を浮かべていた。


そんな中、突如として艦内にレッドコールが鳴り響いた。


「どうした、なにごとだ!?」


「何者かが急接近している模様です!」


「なんだと!? パレットよ、モニタールームへ向かうぞ」


パレットと神父は艦内を駆け、艦首にあるモニタールームへとたどり着いた。


モニターの映像には、シビレエイの秘宝獣に立ち乗りした、青髪の青年が映っていた。


(ヴァルカン!? どうしてここに……)


「ええい、早く撃ち落とさんか!」


「それが、どれだけ撃っても砲弾がすり抜けてしまい……」


「そんな馬鹿なことがあるか!」


神父は怒鳴り声で指示を出したが、ヴァルカンは艦内へと乗り込み侵入した。


「謎の人物が艦内に侵入! モニターの映像を艦内に切り替えます!」


「艦内の警備はどうなっている!?」


「はっ、ただいま第一迎撃部隊が向かっております!」


パレットは何かに勘付き、軍事用ポーチに入っていた黒色の宝箱を見ると、発信器のような物が取り付けられていた。


(ヴァルカン、あなたは敵なの? 味方なの?)


パレットはモニターに映るヴァルカンを、じっと見つめていた。


◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


ヴァルカンが空中母艦に侵入する少し前。黒城と青いひな鳥は、ピエロとの約束通り、陽光神社にある社に来ていた。


「夜の神社ってッ、なんだか不気味よねッ……」


「……今度肝試し大会でもやるか」


「あらッ、『非干渉主義』じゃなかったのッ?」


「……一人でだ」


「一人かいッ」


青いひな鳥はツッコミを入れた。黒城は社を開くと、身を屈んでその中へと入った。


「何も起きないじゃないッ」


ガコンという嫌な音が鳴って、社の底がいきなり外れた。


「うあぁぁぁぁっ」


「黒城ッ!?」


黒城は、滑り台のような装置で下へと一気に運ばれた。青いひな鳥も急いで後を追う。


「……どこだ、ここは」


社の底は、最新鋭の機械が揃えられた真っ暗な部屋に繋がっていた。


「ようこそ♪ 『秘密基地エリア』へ♪」


「出てわねッ、ジェスタークラウンッ!」


青いひな鳥が警戒すると、ジェスタークラウンの後ろで横たわっている人物を目撃した。


「イヴちゃんが倒れてるわッ!? やっぱり罠だったのねッ……!?」


「きゃぁぁぁぁっ……!?」


またも滑り台のような装置から、叫び声が聞こえて来た。


「痛たたっ……。ここどこ?」


「あらッ、乃呑ちゃんじゃないッ?」


「……菜の花? どうしてここに……」


乃呑は、埃を被ったジャージを払って立ち上がった。


「バンドウイルカの秘宝獣、ハーブの《エコーロケーション》を使って、あんたの位置を探って、後をつけてきたの」


乃呑は金色の宝箱を開けた。中から現れたのは、長い鼻先が特徴のバンドウイルカだ。


「Quu、Quu♪」


【Aランク秘宝獣―ソライルカ―】


エコーロケーションとは、音や超音波を発し、その反響によって物体の距離・方向・大きさなどを知ることである。


「ふぁ……。騒がしいのですよ、菜の花 乃呑」


イヴは眼を擦りながら起き上がった。


「あらッ? アンタ、ジェスタークラウンにやられたんじゃッ……?」


「……ヒナコ、また早とちりだったな」


「予想外の客人も来たみたいだけど、戦力は一人でも多いほうがいいからね♪」


ジェスタークラウンはクルクルとその場で回りながら、リモコンのスイッチを押した。


すると、ピエロ顔の小型ジェット機が基地の中央に運ばれ、天井がドーム状に開いた。


「さぁ、みんな乗り込んで♪」


「ダサいのです……」


「絶対乗りたくない」


「……同意だ」


ここに来て初めて、全員の意見が一致した。


「まぁまぁ♪ そんなこと言わずに♪」


半ば強引にジェット機に乗せられ、空に向かって飛び立った。


ジェスタークラウンはジェット機を見送りながら、小さく呟いた。


「頼んだよ、陽光町の人たち。キミたちが最後の希望なんだ……」

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