パレットが教会の扉を勢いよく開けると、紅緋色のローブの女性と遭遇した。
「感謝するわ、パレット。あなたのおかげで、全ての封印は解かれた」
「スカーレット様、一つ聞いてもいいですか?」
教会から出て行こうとする紅緋色のローブの女性を、パレットは引き留めた。
「神がいなくなったら……、この世界はどうなるの?」
「さあ、どうなるのかしら?」
「……あたしはこれから、どうすればいいの?」
「……それを決めるのはパレット、あなた自身よ。私は応援するわ。あなたがどんな選択をしようと、ね」
紅緋色のローブの女性はそう答え、教会を後にした。
「戻ったかパレットよ……」
神父はいつもと変わらぬ様子で、教会の祈祷室にいた。
「はい、お父さん……」
パレットは神父に、思いがけない言葉を口にした。
「どうやら全てを思い出したようだな、我が娘よ……」
神父の正体は、パレットと共に連れてこられた、実の父親だった。
「いよいよだ……。我が妻を見捨てた神に、ようやく復讐する時が来たのだ!」
神父とパレットが教会の外へ出ると、軍事用ヘリコプターが上空で待機していた。
ヘリコプターからハシゴが下ろされ、神父とパレットはヘリコプターに乗り込んだ。
パレットの眼に飛び込んできたのは、圧倒的な存在感を放つ、巨大な黒い空中母艦だった。
(あたしの知らない間に、こんなものが……)
「三十分後、この町にクラスター爆弾を落とす。全てを焼き尽くすのだ!」
ヘリコプターは母艦のヘリポートに着地すると、ヘリコプターごと艦内に収容された。
艦内にいた乗員は皆、緋色のローブを羽織っている。神父は彼らの前に立ち、両手を大げさに広げ、高らかに宣告した。
「皆の者、我々の悲願がついに実現する! 我々が新世界の神となるのだ!」
「おおーっ」と沸き立つ歓声の中、パレットはたった一人、怪訝な表情を浮かべていた。
そんな中、突如として艦内にレッドコールが鳴り響いた。
「どうした、なにごとだ!?」
「何者かが急接近している模様です!」
「なんだと!? パレットよ、モニタールームへ向かうぞ」
パレットと神父は艦内を駆け、艦首にあるモニタールームへとたどり着いた。
モニターの映像には、シビレエイの秘宝獣に立ち乗りした、青髪の青年が映っていた。
(ヴァルカン!? どうしてここに……)
「ええい、早く撃ち落とさんか!」
「それが、どれだけ撃っても砲弾がすり抜けてしまい……」
「そんな馬鹿なことがあるか!」
神父は怒鳴り声で指示を出したが、ヴァルカンは艦内へと乗り込み侵入した。
「謎の人物が艦内に侵入! モニターの映像を艦内に切り替えます!」
「艦内の警備はどうなっている!?」
「はっ、ただいま第一迎撃部隊が向かっております!」
パレットは何かに勘付き、軍事用ポーチに入っていた黒色の宝箱を見ると、発信器のような物が取り付けられていた。
(ヴァルカン、あなたは敵なの? 味方なの?)
パレットはモニターに映るヴァルカンを、じっと見つめていた。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
ヴァルカンが空中母艦に侵入する少し前。黒城と青いひな鳥は、ピエロとの約束通り、陽光神社にある社に来ていた。
「夜の神社ってッ、なんだか不気味よねッ……」
「……今度肝試し大会でもやるか」
「あらッ、『非干渉主義』じゃなかったのッ?」
「……一人でだ」
「一人かいッ」
青いひな鳥はツッコミを入れた。黒城は社を開くと、身を屈んでその中へと入った。
「何も起きないじゃないッ」
ガコンという嫌な音が鳴って、社の底がいきなり外れた。
「うあぁぁぁぁっ」
「黒城ッ!?」
黒城は、滑り台のような装置で下へと一気に運ばれた。青いひな鳥も急いで後を追う。
「……どこだ、ここは」
社の底は、最新鋭の機械が揃えられた真っ暗な部屋に繋がっていた。
「ようこそ♪ 『秘密基地エリア』へ♪」
「出てわねッ、ジェスタークラウンッ!」
青いひな鳥が警戒すると、ジェスタークラウンの後ろで横たわっている人物を目撃した。
「イヴちゃんが倒れてるわッ!? やっぱり罠だったのねッ……!?」
「きゃぁぁぁぁっ……!?」
またも滑り台のような装置から、叫び声が聞こえて来た。
「痛たたっ……。ここどこ?」
「あらッ、乃呑ちゃんじゃないッ?」
「……菜の花? どうしてここに……」
乃呑は、埃を被ったジャージを払って立ち上がった。
「バンドウイルカの秘宝獣、ハーブの《エコーロケーション》を使って、あんたの位置を探って、後をつけてきたの」
乃呑は金色の宝箱を開けた。中から現れたのは、長い鼻先が特徴のバンドウイルカだ。
「Quu、Quu♪」
【Aランク秘宝獣―ソライルカ―】
エコーロケーションとは、音や超音波を発し、その反響によって物体の距離・方向・大きさなどを知ることである。
「ふぁ……。騒がしいのですよ、菜の花 乃呑」
イヴは眼を擦りながら起き上がった。
「あらッ? アンタ、ジェスタークラウンにやられたんじゃッ……?」
「……ヒナコ、また早とちりだったな」
「予想外の客人も来たみたいだけど、戦力は一人でも多いほうがいいからね♪」
ジェスタークラウンはクルクルとその場で回りながら、リモコンのスイッチを押した。
すると、ピエロ顔の小型ジェット機が基地の中央に運ばれ、天井がドーム状に開いた。
「さぁ、みんな乗り込んで♪」
「ダサいのです……」
「絶対乗りたくない」
「……同意だ」
ここに来て初めて、全員の意見が一致した。
「まぁまぁ♪ そんなこと言わずに♪」
半ば強引にジェット機に乗せられ、空に向かって飛び立った。
ジェスタークラウンはジェット機を見送りながら、小さく呟いた。
「頼んだよ、陽光町の人たち。キミたちが最後の希望なんだ……」
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