ヨハネと獣の黙示録

〜黙示録事件篇〜
上崎 司
上崎 司

アポカリプス④

公開日時: 2020年11月10日(火) 20:00
文字数:2,602

禍々しい姿のアノマロカリスの秘宝獣は、神父に向かって話しかけた。


「ダレノイノチヲウバッテホシイ?」


「誰の命を奪うかだと……? 誰の命も欲しくないわ!」


その不気味な姿に恐怖を感じた神父は、払いのけるようにして言った。


「ツマランヤツダ……」


死神のような風貌のアノマロカリスの秘宝獣が辺りを見渡すと、緋色のローブの人物たちは恐怖し、全員部屋から逃げ出した。アノマロカリスの秘宝獣が次に目をつけたのは、扉の前で微動だにしなかった、ヴァルカンだった。


「ダレノイノチヲウバッテホシイ?」


詰め寄られたヴァルカンは、「ふっ」と笑って答えた。


「では、某の命をやろう」


「何を言ってるのよ、ヴァルカン!」


「心配するな、パレット」


「オモシロイヤツダ……。イイダロウ」


アノマロカリスの秘宝獣は、ヴァルカンに死神の鎌のような爪を立て、真横に裂いた。

「ヴァルカァァァン!!」


引き裂かれたヴァルカンを見て、パレットは悲痛な叫び声をあげた。

だが、ヴァルカンは一瞬白い球体へと姿を変えると、元の人間の姿へと戻った。


「悪いが、某も不老不死でな……」


(まさか、ヴァルカンも『秘宝獣』だったなんて……)


彼が神出鬼没だったのは、自身の肉体を白い球体、魂へと変えられる為であった。


「今のが貴様のCIP効果だ。さぁどうする、死神よ!」


一度しか使えないCIP効果を攻略し、ヴァルカンは追い詰めたつもりだった。だが、アポカリプスの秘宝獣は、まだ奥の手を隠し持っていた。


「ナラバ、ワガエイエンノイノチヲカケ、オマエノエイエンノイノチヲウバオウ」


「しまった、道づれの技か!?」


「『クロス・サクリファイス』!!」


アポカリプスの秘宝獣が自らの肉体に呪印をかけると、ヴァルカンの肉体にも呪印が浮かび上がった。ヴァルカンは口から血を吐き、その場に倒れ伏せた。


死神の紋章が刻まれた漆黒の宝箱は、その場で粉々に砕け散った。


「ヴァルカァァァァァン!!」


「……なんということだ」


パレットは、動かなくなったヴァルカンの体を必死に揺さぶった。想定外の事態に、神父は呆然と立ち尽くすのみだった。


「あたしのせいだ……。あたしがあの時、『秘宝』を捨てていれば……」


泣いて謝っても、人の命は戻ってこない。


ふと、パレットはヴァルカンの唇に自身の唇を重ねた。


それでも命も戻らない。この世界は、おとぎ話の世界ではないのだから。


「ごめんね、ヴァルカン……。あたしも今から行くから……」


涙でクシャクシャになったパレットは、拳銃を自らのコメカミに向けた。

そこに、乃呑とイヴが駆けつけた。


「パレットさん……? 何やってるの!?」


「馬鹿な真似はやめるのです!」


二人の必死の説得も、今のパレットには聞こえなかった。


パレットは拳銃の引き金を引いた。「パァン」という銃声が、虚空に響いた。


◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇


「自ら命を断つやつは、天国になんざ行けねぇよ……」


拳銃を持ったパレットの腕は謎の人物に掴まれ、その銃口は天井を向いていた。


「家出娘を探しに来た」


パレットの自殺を止めた人物は、頭に被った赤いキャプのツバを下げながら言った。


「菜の花 乃呑、知り合いなのです?」


「いや、全然知らない人……」


誰もが困惑する状況の中、紅緋色の不死鳥が、疾風の如く部屋に入ってきた。


紅緋色の不死鳥は、ヴァルカンを緑色の炎で包むと、ヴァルカンは息を吹き返した。


【Sランク秘宝獣―phoenix(フェニックス)―】


「ヴァルカン! 良かった……」


「パレット……!? 急に抱きつくな……。息ができぬ……」


「だって……、だって……」


パレットは数分もの間、子供のように泣きじゃくっていた。


不死鳥は力を使い果たすと、青いひな鳥の姿に戻ってしまった。


そして黒城が、ある人物とともに部屋に入ってきた。


「黒城、その女性は、誰?」


「黒城、一体どういう事なのですか……」


「そこから先は、私が話すわ」


黒城と同行していた紅緋色のローブの女性は、ローブをバサリと脱ぎ捨てた。尻尾や翼が生えており、その姿はまるで、神話に登場する悪魔のような風貌であった。


「あるところに、アダムという少年とリリスという少女が暮らしていました。アダムは時を司る力を、リリスは次元を司る力を持っていました」


パレットには、赤いキャプの謎の人物が動揺しているように見えた。


「ある日アダムは、土の粘土を鳥の形に創り上げました。それに興味を示したリリスは、年度をこねるアダムの手に自らの手を重ねました。すると不思議なことが起こり、鳥の形の粘土は生命を宿し、不死鳥のヒナとして誕生しました」


パレットは無言のまま、青いひな鳥を見つめていた。


「未来の世界に興味を持ったアダムとリリスは、未来の世界に行くことにしました。未来の世界では、自分たち以外の生き物が数多く暮らしていて、アダムとリリスはこの世界で暮らしていくことを決めました」


「じゃあアダムとリリスは、ここに居るんだね」


乃呑は察しがいいような、悪いような呟きを挟んだ。


「アダムはその世界にあった、手のひらサイズの宝箱に動物を入れ、自らの力を注ぎ込みました。わくわくしながら宝箱を開けたアダムでしたが、出来上がったのは白骨化した動物の遺体でした」


「哀しい話なのです……」


「アダムが何度試しても、出来上がるのは動物の骸だけでした。それを見ていた不死鳥のヒナは、自らの息吹を加えました。時の操作と生命の息吹が混ざり合い、未来の世界で進化した動物、『秘宝獣』が誕生しました」


『秘宝獣』についての真相が、ようやく語られた。


「アダムは銅色の宝箱に百年、銀色の宝箱に千年、金色の宝箱に万年分の時を加速させる力を与えました。その実験に興味深々だったリリスは、自らの力、次元を操る力を、未開発だった無色透明の宝箱に加えました。これがSランクの『秘宝』の正体」


「狼はフェンリルに。海蛇はリヴァイアサンに。だから『架空の生物』だったのだな」


ヴァルカンの説明に、悪魔のような少女はコクリと頷いた。


「しかしアダムは現地人に浮気して、そんなSランクの『秘宝』を、どこぞのイヴとかいう少女にあげてしまいました。怒ったリリスは、パラレルワールドから人を連れてきて、神に復讐することを決意しましたとさ。……あんたのことよ、アダム!!」


そろーっと、部屋を去ろうとしていた赤いキャプの人物を、リリスは強い口調で呼び止めた。青いひな鳥は、逃すかとばかりにアダムに強烈なドロップキックをお見舞いした。

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