「開宝、フェンネル! 《》!」
激突した狼の攻撃により、鋼鉄の巨像は後方に大きく転倒した。
パレットは腰が抜けたのか、その場にへたり込んでいた。
「ギリギリセーフ! 間に合ってよかった」
パレットがそのままの姿勢で振り向くと、黄色のジャージを着て、フェンリルの秘宝獣を従えたポニーテールの少女が、パレットに手を差し伸べていた。
「大丈夫? 立てる?」
「ええ……」
パレットはポニーテールの少女の手を掴み、立ち上がった。
「あらッ、乃呑ちゃんじゃないッ!」
「ピーちゃん、先に言っておくけど、黒城のために来た訳じゃないから。この人を追いかけて来たの!」
「あたしを……? あっ!」
パレットはポニーテールの少女の顔を見つめて、思い出した。
「あなた、『ふれあいエリア』で戦っていた『秘宝遣い』?」
「あれ? 見てたんだ。私の名前はの 。私がここに来た理由は、それじゃなくて……」
乃呑は、Vサインを指で作りながら言った。
「愛歌の弟の友達なんでしょ? みんな心配してたよ!」
「愛歌……?」
パレットはその名前をどこかで聞いていたはずだが、思い出せなかった。
「でも変ね。誰かに後をつけられていたら、あたしなら気づけたはず……。うわっ!?」
「Nyaaaao♪」
パレットの足元には、黒色のスコティッシュホールドが気配もなく擦り寄っていた。
「……そうか、ハイドキャットの《忍び足》だな」
「そういうこと!」
「《忍び足》……? どういうことよ?」
首を傾げるパレットに、乃呑は黒猫の秘宝獣を抱き上げながら説明した。
「私のミント……。ハイドキャットの特技だよ。音を立てず、気配すら消して忍び寄ることができる、追跡や奇襲に向いている特技だね」
【Cランク秘宝獣―ハイドキャット―】
猫が足音を消して歩けるのは、爪を自在に出し入れできるおかげである。さらに、獲物に忍び寄れるよう、普段からつま先立ちで歩いているのも、足音がしない理由である。
(『秘宝獣』の特技は、戦闘以外にも応用できるのね……)
パレットはあらためて、『秘宝獣』の能力の高さを実感した。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「それで、あのデカブツは何?」
話している間に、鋼鉄の巨像はゆっくりと起き上がり始めていた。
「……まぁ、なんだっていいんだけどさ」
「レア・メタル・ゴーレムがまた立ち上がって……、危ない!」
「大丈夫、大丈夫」
パレットの心配をよそに、乃呑は靴紐を結びなおし、鋼鉄の巨像に近づいて行く。
「行くよ、フェンネル!」
シューズをローラーシューズに変えた乃呑は、フェンリルの秘宝獣と共に走り出した。
「フェンネルの時効果、《サモンビット》!」
「Aoooon!」
フェンリルの秘宝獣の咆哮に連動して、上空を漂っていた三つのビットはに散らばり、援護射撃を始めた。
さらに、フェンリルの秘宝獣が急接近した。
「フェンネル、《レイジング・ファング》!」
フェンリルの秘宝獣は、猛スピードで鋼鉄の巨像の足を噛み砕いた。
「すごい、鋼鉄の脚を砕くなんて……」
「……ああ、さすがフェンネルだ」
乃呑は、白銀色の宝箱を胸元にかざした。すると宝箱の中から光があふれだし、乃呑はそのエネルギーをフェンリルの秘宝獣に放出した。
「幸と不幸の半道に、差し込んだのは暖かな光! ! フェンネル、ユニオンバースト!」
『秘宝』に集約されたエネルギーを受け取ったフェンリルの秘宝獣は、その身に白銀色のオーラ宿した。
「……Sランクの秘宝獣には、盤面を覆す『cip効果』と、秘宝遣いとの絆によって発動する『ユニゾンバースト』の二つの特殊能力備わっている」
宙を浮遊する三つのビットは、合体して一つのレーザー砲となった。レーザーの中に、光のエネルギーが集約されていく。
「こっちだよ、デカイの!」
乃呑は、ローラーシューズで走り出し、鋼鉄の巨人の注意を自分に集めた。
蛇行しながら、鋼鉄の巨像の攻撃を正確に躱していく。
(チャージが必要な秘宝獣の弱点を、秘宝遣いが補っているんだ……)
パレットの眼は、その戦方に釘付けになっていた。
「決めるよ、フェンネル! 《フル・ビット・バースト》!」
だが、鋼鉄の巨像も危険を察知したのか、既に防御の態勢に入っていた。
「待って! このままだと防がれる!」
パレットは大声で叫んだが、乃呑はそれでも強気だった。
「大丈夫だよ。だってフェンネルの《ユニゾンバースト》は……」
極大のレーザー光線が、前方へと放たれた。
「敵の防御を無視して、光属性の極大ダメージを与える!!」
鋼鉄の巨人は白い光に飲み込まれ、文字通り、跡形もなく消滅した。
「フェンネル、お疲れさま!」
「Guluooon」
「可愛いやつめ、よしよし」
戦い終えた乃呑は、嬉しそうにフェンリルの秘宝獣と戯れていた。
(この世界の人たちが彼女に憧れていた理由、今ならわかる……)
「助けてくれてありがとう。あたしはパレット。よろしく」
「こちらこそ、よろしく!」
この時パレットは、初めて「ありがとう」を口にした。乃呑もそれに笑顔で返した。
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