ヨハネと獣の黙示録

〜黙示録事件篇〜
上崎 司
上崎 司

第一の封印④

公開日時: 2020年9月28日(月) 12:00
文字数:2,008

「開宝、フェンネル! 《》!」


激突した狼の攻撃により、鋼鉄の巨像は後方に大きく転倒した。


パレットは腰が抜けたのか、その場にへたり込んでいた。


「ギリギリセーフ! 間に合ってよかった」


パレットがそのままの姿勢で振り向くと、黄色のジャージを着て、フェンリルの秘宝獣を従えたポニーテールの少女が、パレットに手を差し伸べていた。


「大丈夫? 立てる?」


「ええ……」


パレットはポニーテールの少女の手を掴み、立ち上がった。


「あらッ、乃呑ちゃんじゃないッ!」


「ピーちゃん、先に言っておくけど、黒城のために来た訳じゃないから。この人を追いかけて来たの!」


「あたしを……? あっ!」


パレットはポニーテールの少女の顔を見つめて、思い出した。


「あなた、『ふれあいエリア』で戦っていた『秘宝遣い』?」


「あれ? 見てたんだ。私の名前はの 。私がここに来た理由は、それじゃなくて……」


乃呑は、Vサインを指で作りながら言った。


「愛歌の弟の友達なんでしょ? みんな心配してたよ!」


「愛歌……?」


パレットはその名前をどこかで聞いていたはずだが、思い出せなかった。


「でも変ね。誰かに後をつけられていたら、あたしなら気づけたはず……。うわっ!?」


「Nyaaaao♪」


パレットの足元には、黒色のスコティッシュホールドが気配もなく擦り寄っていた。


「……そうか、ハイドキャットの《忍び足》だな」


「そういうこと!」


「《忍び足》……? どういうことよ?」


首を傾げるパレットに、乃呑は黒猫の秘宝獣を抱き上げながら説明した。


「私のミント……。ハイドキャットの特技だよ。音を立てず、気配すら消して忍び寄ることができる、追跡や奇襲に向いている特技だね」


【Cランク秘宝獣―ハイドキャット―】


猫が足音を消して歩けるのは、爪を自在に出し入れできるおかげである。さらに、獲物に忍び寄れるよう、普段からつま先立ちで歩いているのも、足音がしない理由である。


(『秘宝獣』の特技は、戦闘以外にも応用できるのね……)


パレットはあらためて、『秘宝獣』の能力の高さを実感した。


◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


「それで、あのデカブツは何?」


話している間に、鋼鉄の巨像はゆっくりと起き上がり始めていた。


「……まぁ、なんだっていいんだけどさ」


「レア・メタル・ゴーレムがまた立ち上がって……、危ない!」


「大丈夫、大丈夫」


パレットの心配をよそに、乃呑は靴紐を結びなおし、鋼鉄の巨像に近づいて行く。


「行くよ、フェンネル!」


シューズをローラーシューズに変えた乃呑は、フェンリルの秘宝獣と共に走り出した。


「フェンネルの時効果、《サモンビット》!」


「Aoooon!」


フェンリルの秘宝獣の咆哮に連動して、上空を漂っていた三つのビットはに散らばり、援護射撃を始めた。


さらに、フェンリルの秘宝獣が急接近した。


「フェンネル、《レイジング・ファング》!」


フェンリルの秘宝獣は、猛スピードで鋼鉄の巨像の足を噛み砕いた。


「すごい、鋼鉄の脚を砕くなんて……」


「……ああ、さすがフェンネルだ」


乃呑は、白銀色の宝箱を胸元にかざした。すると宝箱の中から光があふれだし、乃呑はそのエネルギーをフェンリルの秘宝獣に放出した。


「幸と不幸の半道に、差し込んだのは暖かな光! ! フェンネル、ユニオンバースト!」


『秘宝』に集約されたエネルギーを受け取ったフェンリルの秘宝獣は、その身に白銀色のオーラ宿した。


「……Sランクの秘宝獣には、盤面を覆す『cip効果』と、秘宝遣いとの絆によって発動する『ユニゾンバースト』の二つの特殊能力備わっている」


宙を浮遊する三つのビットは、合体して一つのレーザー砲となった。レーザーの中に、光のエネルギーが集約されていく。


「こっちだよ、デカイの!」


乃呑は、ローラーシューズで走り出し、鋼鉄の巨人の注意を自分に集めた。


蛇行しながら、鋼鉄の巨像の攻撃を正確に躱していく。


(チャージが必要な秘宝獣の弱点を、秘宝遣いが補っているんだ……)


パレットの眼は、その戦方に釘付けになっていた。


「決めるよ、フェンネル! 《フル・ビット・バースト》!」


だが、鋼鉄の巨像も危険を察知したのか、既に防御の態勢に入っていた。


「待って! このままだと防がれる!」


パレットは大声で叫んだが、乃呑はそれでも強気だった。


「大丈夫だよ。だってフェンネルの《ユニゾンバースト》は……」


極大のレーザー光線が、前方へと放たれた。


「敵の防御を無視して、光属性の極大ダメージを与える!!」


鋼鉄の巨人は白い光に飲み込まれ、文字通り、跡形もなく消滅した。


「フェンネル、お疲れさま!」


「Guluooon」


「可愛いやつめ、よしよし」


戦い終えた乃呑は、嬉しそうにフェンリルの秘宝獣と戯れていた。


(この世界の人たちが彼女に憧れていた理由、今ならわかる……)


「助けてくれてありがとう。あたしはパレット。よろしく」


「こちらこそ、よろしく!」


この時パレットは、初めて「ありがとう」を口にした。乃呑もそれに笑顔で返した。

読み終わったら、ポイントを付けましょう!

ツイート