ヨハネと獣の黙示録

〜黙示録事件篇〜
上崎 司
上崎 司

誕生日会②

公開日時: 2020年9月21日(月) 12:00
文字数:2,073

「あかり、トランプ飽きてきちゃった」


「そうですね。パレットさん、別の遊びにしませんか?」


たくみは押し入れの中から、段ボールにしまってあったボードゲームを取り出した。


「たっくんなにそれ?」


「『まごころ人生ゲーム』って書いてあるぜ」


「パレットさんが射的屋で当てた景品です。ここで開けてもいいですか?」


「ええ、別に構わないわよ」


「ありがとうございます。では開けますね!」


たくみがパッケージを開けて中身を取り出すと、真ん中にルーレットがある大きなスゴロクゲームのようなボードと、自動車の形をしたユニット、人に見立てた棒のユニット、紙幣や証券カードなどが入っていた。


さっそくボードゲームを部屋の真ん中に置き、それを囲うようにして四人が座った。たくみは、付属されていた説明書を読み上げた。


「『まごころ人生ゲームの世界へようこそ。まず初めに、各プレイヤーは百万円を所持した状態でスタート地点に着きます』」


「百万円、百万円~♪」


パレットはご機嫌な様子で、たくみからおもちゃの紙幣を受け取った。


「そのテンションうぜぇ……」


「あはは……。続けますね。『全プレイヤーがゴールに着いた時点で、一番多くのお金を所持していた人が優勝です。ゴールに着くと、一着から順に多くの配当金が貰えます』」


「ふーん……。要するに、一番早くゴールに着けば有利ってことね」


「あかりも一番目指す!」


「おれもだぜ!」


「『なおこのゲームでは、あなたのまごころが試されます。より多くの人を助けながら、優勝を目指しましょう』だそうです。さっそくやってみましょう! みなさん何色の車が良いですか?」


たくみは、自動車のユニットを四つ、両手に乗せながら言った。


「あかりはピンク!」


「おれは赤だぜ!」


「あたしは黄色にするわ」


「じゃあぼくは緑色にしますね」


各自、自動車のユニットをボードのスタート地点に並べた。ゆうき、あかり、パレットの手が、一斉にルーレットへと伸び、三人は同時に言い放った。


「あかりから回す!」


「おれから回す!」


「あたしから回す!」


「あはは……」


自己主張の激しいやつらであった。


◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


「パレット、おれにもそれくれよ!」


「あかりも食べたい!」


「駄目よ、これはあたしが手に入れたものなんだから」


「ケチ」


パレットは射的屋で当てた、チョコレートスティックのお菓子を独り占めしていた。



たくみは気を利かせて、みんなで食べられるようにお菓子の袋を開けた。


「おっ、さすがたくみだぜ!」


「たっくんありがとう!」


「えへへ、飲み物も色々ありますよ!」


パレットは自分で手に入れた物以外には、手を付けようとはしなかった。


「パレットさん、みんなで食べるともっとおいしいですよ?」


「いやよ。それより次、誰の番?」


パレットは射的屋で手に入れた、缶ジュースのプルを開けながら聞いた。


「おれだぜ、よっしゃあ十来い!」


ゆうきは、ルーレットを勢いよく回した。ルーレットの針は八を指して止まった。ゆうきは自動車のユニットを八マス進めていく。そしてマスに書かれた文字を読み上げる。


「なになに、『道端に落ちていた百万円を拾った……』」


「いいわね。あたしも拾いたいわ、百万円」


「『そのお金を交番に届けますか?』そりゃ届けるだろ、普通」


「はぁ!?」


パレットはガタッとその場を立ち上がった。たくみはルールブックの説明を読む。


「『交番にお金を届けた場合、貰える金額は二十万円になる』みたいです。でもその代わり、『交番の人を車に乗せることができる』そうですよ!」


「やったぜ!」


「……それどんなシチュエーションよ」


ゆうきの自動車ユニットの後ろの穴に、五人目の人型のユニットがさし込まれた。


「次はパレットの番だぜ!」


「見てなさいよ、絶対一番にゴールしてやるんだから!」


パレットは勢いよくルーレットを回した。グルグルと回転した針は一を指して止まる。


パレットは俯いたまま、自動車のユニットを一マス進めた。その自動車ユニットは、誰よりもゴールから離れた位置にあった。


「これで三回連続で一だぜ……」


「お姉ちゃん、なんか可哀想……」


子どもたちから、同情の眼差しがパレットへと向けられる。


「こ、これも作戦なのよ!」


「いや、流石にルーレットに作戦はないと思うぜ……」


「いいのよ! 要はどっさりお金を集めてからゴールすればいいんだから! 『ホームレスの人が路上で倒れている。助けますか?』助けない!」


「えー、せっかく人を乗せられるマスなのにー」


「勿体ないぜ……」


「パレットさん、助けてあげましょう?」


三人のあどけない子どもたちから、可哀想な人を見る目がパレットに注がれる。


「なによ、みんなしてそんな目であたしを見るな! あたしのいたところではね、他人に構っている余裕なんて……」


パレットの心臓がドクンと激しく疼いた。


「他人に……、構ってる余裕なんて……」


(なによこれ……、すごく気持ち悪い……)


パレットは前屈みになって胸を押さえたまま、放心状態に陥った。


「パレットさん? 大丈夫ですか? ……パレットさん?」


たくみの呼びかけにも、パレットは一切反応を示さなかった……。

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