ヨハネと獣の黙示録

〜黙示録事件篇〜
上崎 司
上崎 司

結言〜福音書〜

公開日時: 2020年11月10日(火) 20:00
文字数:2,040

陽光町に帰った後、以前の誕生日会の続きをみんなで楽しんだ。


愛歌ちゃんは、帰って来たあたしたちのために手料理を振舞ってくれた。


ラヴィエルの怪我も、順調に回復しているらしい。ヴァルカンの話によると、あたしが病院で眠ってる間、心配してくれていたみたい。敵だと思ったけど、意外といいやつ。


アダムの会社、TRPG社は、『秘宝』の製造を再開したんだって。ピーちゃんやリリス様との仲も良好に戻ったそうで、そして今日、ここで結婚式が行われる予定だ。


パレットは教会の椅子に座りながら、黒い手帳の新たなページに文字をつづっていた。


「パレットさん、何を書いているんですか?」


「なになに、うわっ……」


「ちょっと、勝手にあたしの手帳を読むな!」


パレットは黒い手帳を閉じて、ゆうきが届かない位置まで上げた。


たくみは、黒い手帳の表紙を見て、首を傾げた。


「あれ? それって書き間違えでしたか?」


「ああこれ? 書き直したのよ」


黒い手帳の表紙に書いてあった『黙示録』という文字には斜線が引かれ、『福音書』と改められていた。


「なるほど、そうなんですね……そういえば、ピエロの人が『金のハッピーチケット』をくれたんです! みんなで一緒に遊園地で遊びませんか?」


おとなしい男の子は眼を輝かせてパレットの右腕を掴んだ。


「パレット、早くジェットコースター乗りに行こうぜ!」


元気な男の子はパレットの左腕を引っ張った。


「ちょっとお姉ちゃん! たっくんとゆうくんをたぶらかさないでよね!」


そこにあかりが登場し、教会は修羅場と化した。


「ウハハハ、相変わらず騒々しいやつらだ!」


「お前がそれを言えるのかよ……」


「宇利亜! ラヴィエル! あなた達も招待されてたのね!」


「ヴァルカンから事情を聞いてな。それと、俺たちだけじゃないみたいだぜ」


ラヴィエルが後ろを指すと、見知った顔が続々と教会に入ってきた。


「愛歌、一緒に前の方に行こ! ブーケトスやるでしょ!?」


「乃呑ちゃん、そういうの好きだよね」


手を繋いで歩く二人の少女の少し後ろから、黒髪の少年の姿が見えた。


「兄貴! 遅いから先に来てたぜ!」


「……ヒナコを正装にするのに時間がかかってな」


「兄貴って、あんたたち兄弟だったの!?」


黒城 弾と 黒城 ゆうき。性格が真逆なため、兄弟だとは気づかなかった。


「ふぁっ……。騒々しくて眠れそうにないのです」


「御淑やかな人♪ 神様はチミのそういうところに惚れたんだね♪」


「それでストーカーされるなんて、迷惑な話なのです……」


イヴとジェスタークラウンも、アダムの様子を見に来たようだ。


「パレット、相席してもよいか……?」


最後に入ってきたのは、終始一貫してパレットの身を案じてきた、ヴァルカンだ。

「あら、ヴァルカン生きてたの?


「ふっ、正確には二度、死んでいるがな」


「ビビビ……ガガガガ……」


式場の内部を、超小型に改造された、レア・メタル・ゴーレムが巡回していた。

一人の犠牲者も出さずにこの一連の騒動、『黙示録事件』を終えられたのは、不幸中の幸いであった。


教会に集まった人々は、一つのテーブルにつき三人、それぞれの席についた。


乃呑、愛歌、たくみの席、黒城、ゆうき、宇利亜の席、イヴ、あかり、ジェスタークラウンの席、パレット、ラヴィエル、ヴァルカンの席の組み合わせだ。


◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇


「お姉ちゃんの名前、すごく可愛い! もしかしてハーフ?」


「ボクチンもそれ、少し気になってたよ♪」


あかりが目を輝かせると、イヴは眼を背けながら言った。


「キラキラネーム……。というやつなのです……」


アダムとリリスは、知恵の果実を食べる前に未来で暮らすことになった。


アダムがイヴと結ばれるのは、別の時空の話になりそうだ。


「ウハハハ、見ろよこの生徒会新聞。またお前が一面を飾ってやがるぜ、黒城」


宇利亜が広げた新聞には、あたかも黒城が一人で『黙示録事件』を解決したかのような見出しと写真が掲載されていた。


「すげーだろ? さすがは俺の兄貴だぜ」


(……生徒会長の仕業だな)


黒城はイヴの方を見た。目立つことが嫌いな黒城に対する、ささやかな宛付けだった。

「菜の花さん、サンライト・ユニコーン、どうしたら仲良くなれるんでしょうか」


たくみは、『秘宝遣い』として長い経験を持つ乃呑に、思い切って相談した。


「うーん、伝説上のユニコーンは、純潔の女性にしか懐かないって言われてるけど……」


「純潔の女性……?」


愛歌は小首を傾げたが、乃呑はあえて説明しない。


「愛情を持って接すれば、きっとどんな動物ともわかり合えるよ」


乃呑は自身の持つ白銀色の宝箱を見つめながら、優しい表情で言った。


「パレット、お前はこれからどうするんだ?」


「これからの事はこれから考えるわ。リリス様のおかげで、生活には困ってないし」


「お前、ちょっとは遠慮しろよ……」


ラヴィエルはローストチキンを頬張りながら、思っていたことを口にした。


「ヴァルカン、あんたはどうするの?」


「某は旅に出る。一緒に来るか?」


ヴァルカンの意外な回答に、ラヴィエルとパレットは互いに顔を見合わせた。

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