その後、ヴァルカンに一時の別れを告げたパレットは、『のどかな公園エリア』を歩いている途中、神社へと続く石段の前で足を止めた。
「そういえば、『縁日エリア』にはまだ一度しか行ってないわね。ちょっとだけ寄ってみようかしら」
パレットは射的屋の時から、正確にはコルク銃を手にした時からの記憶が曖昧だった。
石段を登りきって赤い鳥居をくぐると、白いうさぎのぬいぐるみを抱いた女の子と一緒にいる、ゆうき、たくみと遭遇した。
「あら、あんたたち、こんなところで何してるの?」
「あ、パレットさん。こんばんは」
「出たなぁ金髪女!」
「ゆぅくん、人に指さしちゃ、めっ、だよ!」
白いうさぎのぬいぐるみを抱いた女の子は、ゆうきを注意した。
「パレットさん、『秘宝獣』は見られましたか?」
「ええ。黒猫にイノシシ、ザリガニや亀、あと白銀の狼の『秘宝獣』も見たわ」
「白銀の狼って、もしかして、フェンネルのことですか?! いいなぁ、ボクも見たかったです!」
「で、金髪女は何しにここに来たんだよ」
ゆうきは、女の子に注意されたことで、ご機嫌斜めになりながら言った。
「何しにって……、なんだっけ?」
「記憶喪失かよ……」
「そうそう、思い出したわ。あたしが射的屋で取った景品、どこにやったか知らない?」
「ああ、それならたくみの家にあるぜ」
「あはは……。あの時のパレットさん、とても話せる状態じゃなかったですから……」
「ちょっと、お姉ちゃん!」
パレットが二人の男の子と話していると、白いうさぎのぬいぐるみを抱いた女の子が、パレットのスカートの裾を掴んだ。
「さっきからたっくん、ゆぅくんと仲良さそうにしてるけど、いったいどういう関係?」
(あら? この女の子、もしかして妬いてる?)
パレットは女の子の反応がちょっと可愛く思えてしまい、少し遊んでみたくなった。
「ふふん、この二人はあたしの下僕よ。あたしの言うことならなんでも聞いてくれるの」
パレットは腰に手を当て、少しだけ悪い顔をしながら言い放った。
「えっ……、なんでも!?」
女の子の顔は見る見るうちに赤く染まり、ボッと爆発した。パレットは勝ち誇った表情をしていたが、幼い女の子にはショックが大きすぎた。
「うっ……。えぐっ……。あかりが二人の……、お姉ちゃんだもん……」
「ええっ!? ちょっと……」
白いうさぎのぬいぐるみを抱いた女の子は、突然泣き始めてしまった。
「あーあ、あかり泣かしたー」
「パレットさん、げぼくってなんですか?」
その後、パレットは数分かけて、なんとか女の子を説得した。
「……という訳だから、特に何かあった訳じゃないわ」
「よかったぁ。少しびっくりしちゃった。わたし、あかりって言います」
「あたしはパレットよ。よろしく」
パレットとあかりは何とか無事に和解したようである。
「仲直りできてよかったです。あっ、そうだ!」
たくみが、ある提案を思いついた。
「今からぼくの家で誕生日会をするんですけど、パレットさんも一緒に来ませんか?」
「誕生日会?」
「はい!」
パレットは考えた。行きたい気持ちもあるが、それは『観測者』としてどうなのか。
「おいしいケーキもありますよ!」
「本当に? それならあたしも行くわ」
甘い物につられて、パレットは考えるのをやめた。
「よし、そうと決まれば競争よ!」
パレットは踵を翻して、神社の石段を駆け降りていった。
「おい、たくみの家知ってるのかよ!?」
ゆうきは、慌ててパレットを追いかける。
「ゆぅくん、走ると危ないっていつも言ってるでしょ!」
あかりも、頬を膨らませながらそれを追う。
「あはは……。みんな元気だなー」
三人が夕焼けに照らされながら遠ざかっていくのを、たくみは嬉しそうに眺めながら、石段を歩いて降りていった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「そこの道を左に曲がって、すぐのところだぜ!」
「あたしが一番乗りよ!」
息を切らすほど全力で走ったパレットたちは、表札に鴇と書かれた赤い屋根の大きなおうちの玄関に着いた。パレットは家のドアノブに手をかける。
「おれもう走れねぇぜ……」
「あかりもへとへと……」
「あら? 鍵がかかってるわよ?」
「田舎じゃねぇんだから、そりゃ鍵くらいかかって……」
三人は今になってようやく気づいたようだ。マイペースなたくみが到着したのは、それから十分以上も後の事だった……。
「では、どうぞ入ってください」
「おじゃましまーす!」
「ぼくの部屋は二階にあるので、お先にどうぞ」
たくみは、自分の靴だけではなく、他の人の靴まできれいに並べていた。
たくみの部屋は、落ち着いた緑の色合いの家具で統一されていた。部屋の壁には、『秘宝獣』のポスターがいくつも貼られていた。よほど好きなのだろう。
「よし、トランプやろうぜ!」
「あかりもやりたい!」
「Playing Cardsね、いいわよ」
トランプを配っている途中にたくみも合流し、四人はババ抜きを楽しんでいた。一人、また一人と抜けていき、戦いはいよいよを迎えていた。
「ふふん、どっちがジョーカーでしょう?」
パレットは二枚のカードを後ろでシャッフルし、ジョーカーを上に突き出した。
「こっちだ!」
ゆうきは、突き出されていない方のカードを抜いた。
「よっしゃあがり! パレット弱すぎ」
「なんでよっ、さっきと逆の手を使ったはずなのに!」
「それが単純だっての」
パレットはとても悔しそうな顔をしていた。
「もう一回よ、もう一回!」
「もうこれで十回目だぜ……。いつまでやるつもりだよ」
「当然、あたしが勝つまでよ!」
パレットは強気に答えたが、あかりとたくみも辟易していた。
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