ヨハネと獣の黙示録

〜黙示録事件篇〜
上崎 司
上崎 司

誕生日会①

公開日時: 2020年9月20日(日) 12:00
文字数:2,246

その後、ヴァルカンに一時の別れを告げたパレットは、『のどかな公園エリア』を歩いている途中、神社へと続く石段の前で足を止めた。


「そういえば、『縁日エリア』にはまだ一度しか行ってないわね。ちょっとだけ寄ってみようかしら」


パレットは射的屋の時から、正確にはコルク銃を手にした時からの記憶が曖昧だった。


石段を登りきって赤い鳥居をくぐると、白いうさぎのぬいぐるみを抱いた女の子と一緒にいる、ゆうき、たくみと遭遇した。


「あら、あんたたち、こんなところで何してるの?」


「あ、パレットさん。こんばんは」


「出たなぁ金髪女!」


「ゆぅくん、人に指さしちゃ、めっ、だよ!」


白いうさぎのぬいぐるみを抱いた女の子は、ゆうきを注意した。


「パレットさん、『秘宝獣』は見られましたか?」


「ええ。黒猫にイノシシ、ザリガニや亀、あと白銀の狼の『秘宝獣』も見たわ」


「白銀の狼って、もしかして、フェンネルのことですか?! いいなぁ、ボクも見たかったです!」


「で、金髪女は何しにここに来たんだよ」


ゆうきは、女の子に注意されたことで、ご機嫌斜めになりながら言った。


「何しにって……、なんだっけ?」


「記憶喪失かよ……」


「そうそう、思い出したわ。あたしが射的屋で取った景品、どこにやったか知らない?」


「ああ、それならたくみの家にあるぜ」


「あはは……。あの時のパレットさん、とても話せる状態じゃなかったですから……」


「ちょっと、お姉ちゃん!」


パレットが二人の男の子と話していると、白いうさぎのぬいぐるみを抱いた女の子が、パレットのスカートの裾を掴んだ。


「さっきからたっくん、ゆぅくんと仲良さそうにしてるけど、いったいどういう関係?」


(あら? この女の子、もしかして妬いてる?)


パレットは女の子の反応がちょっと可愛く思えてしまい、少し遊んでみたくなった。


「ふふん、この二人はあたしの下僕よ。あたしの言うことならなんでも聞いてくれるの」


パレットは腰に手を当て、少しだけ悪い顔をしながら言い放った。


「えっ……、なんでも!?」


女の子の顔は見る見るうちに赤く染まり、ボッと爆発した。パレットは勝ち誇った表情をしていたが、幼い女の子にはショックが大きすぎた。


「うっ……。えぐっ……。あかりが二人の……、お姉ちゃんだもん……」


「ええっ!? ちょっと……」


白いうさぎのぬいぐるみを抱いた女の子は、突然泣き始めてしまった。


「あーあ、あかり泣かしたー」


「パレットさん、げぼくってなんですか?」


その後、パレットは数分かけて、なんとか女の子を説得した。


「……という訳だから、特に何かあった訳じゃないわ」


「よかったぁ。少しびっくりしちゃった。わたし、あかりって言います」


「あたしはパレットよ。よろしく」


パレットとあかりは何とか無事に和解したようである。


「仲直りできてよかったです。あっ、そうだ!」


たくみが、ある提案を思いついた。


「今からぼくの家で誕生日会をするんですけど、パレットさんも一緒に来ませんか?」


「誕生日会?」


「はい!」


パレットは考えた。行きたい気持ちもあるが、それは『観測者』としてどうなのか。


「おいしいケーキもありますよ!」


「本当に? それならあたしも行くわ」


甘い物につられて、パレットは考えるのをやめた。


「よし、そうと決まれば競争よ!」


パレットは踵を翻して、神社の石段を駆け降りていった。


「おい、たくみの家知ってるのかよ!?」


ゆうきは、慌ててパレットを追いかける。


「ゆぅくん、走ると危ないっていつも言ってるでしょ!」


あかりも、頬を膨らませながらそれを追う。


「あはは……。みんな元気だなー」


三人が夕焼けに照らされながら遠ざかっていくのを、たくみは嬉しそうに眺めながら、石段を歩いて降りていった。


◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


「そこの道を左に曲がって、すぐのところだぜ!」


「あたしが一番乗りよ!」


息を切らすほど全力で走ったパレットたちは、表札に鴇と書かれた赤い屋根の大きなおうちの玄関に着いた。パレットは家のドアノブに手をかける。


「おれもう走れねぇぜ……」


「あかりもへとへと……」


「あら? 鍵がかかってるわよ?」


「田舎じゃねぇんだから、そりゃ鍵くらいかかって……」


三人は今になってようやく気づいたようだ。マイペースなたくみが到着したのは、それから十分以上も後の事だった……。


「では、どうぞ入ってください」


「おじゃましまーす!」


「ぼくの部屋は二階にあるので、お先にどうぞ」


たくみは、自分の靴だけではなく、他の人の靴まできれいに並べていた。


たくみの部屋は、落ち着いた緑の色合いの家具で統一されていた。部屋の壁には、『秘宝獣』のポスターがいくつも貼られていた。よほど好きなのだろう。


「よし、トランプやろうぜ!」


「あかりもやりたい!」


「Playing Cardsね、いいわよ」


トランプを配っている途中にたくみも合流し、四人はババ抜きを楽しんでいた。一人、また一人と抜けていき、戦いはいよいよを迎えていた。


「ふふん、どっちがジョーカーでしょう?」


パレットは二枚のカードを後ろでシャッフルし、ジョーカーを上に突き出した。


「こっちだ!」


ゆうきは、突き出されていない方のカードを抜いた。


「よっしゃあがり! パレット弱すぎ」


「なんでよっ、さっきと逆の手を使ったはずなのに!」


「それが単純だっての」


パレットはとても悔しそうな顔をしていた。


「もう一回よ、もう一回!」


「もうこれで十回目だぜ……。いつまでやるつもりだよ」


「当然、あたしが勝つまでよ!」


パレットは強気に答えたが、あかりとたくみも辟易していた。

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