ヨハネと獣の黙示録

〜黙示録事件篇〜
上崎 司
上崎 司

第一の封印③

公開日時: 2020年9月27日(日) 12:00
文字数:1,425

「……また干渉しちまった」


「ナイス黒城ッ、下っ端返上よッ」


「……そいつはどうも」


パレットはハッと目を覚ました。


周りの地面は潰れていたが、どういうわけかパレットの身体だけは無事だった。


「どういうこと? あたしは鋼鉄の巨像に潰されそうになって……」


「……ヒナコのCIP効果、《神鳥の守護》を発動させた。好きなタイミングで一度だけ、攻撃を無効化するバリアを張ることができる」


「一度だけだからッ、次はちゃんと避けなさいよねッ」


パレットの瞳に光が戻った。この時、パレットは初めて実感した。


この世界には、この世界の戦い方があるということを。


「そう。それにしてもあれ、どうやって倒すの?」


パレットは目の前にそびえる、鋼鉄の巨像を見上げながら言った。


「そりゃもうッ、アタシの《火炎弾》で瞬殺よッ!」


「……それはない」


「なによッ、やってみなきゃ分からないじゃないッ」


「……あの金属はおそらく、耐熱性のレアメタルだ」


レアメタルとは、地球上に存在する量が希少であるか、技術的・経済的な理由で採掘することが困難である三十一種の鉱物である。


その中でも、タンタルとハフニウムという元素の融点は約四千度。たとえ原子爆弾ですら、溶かすことはできない。


「レアメタルで覆われた巨像ってことッ?」


「……ああ。あえて名前を付けるとすれば……」


【第一の封印の番人―R・M・G《レア・メタル・ゴーレム》―】


◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


(あたしにできることはないの……?)


パレットは軍事用ポーチから、役に立ちそうなものがないかを探していた。


「黒城ッ……、飛び疲れてそろそろ限界ッ……」


青いひな鳥は、低空飛行でフラついていた。ひな鳥なため、少しか飛べないようだ。


「……わかった。少し休んでいろ」


黒城は、虹色の宝箱が付いたズボンのチェーンを外し、手首にグルグルと巻き付けた。


そして、チェーンを巻いた右腕を勢いよく伸ばした。虹色の宝箱は、青いひな鳥を回収して黒城の手元へと収まった。


「ねぇ下っ端! ……じゃなくて、黒城!」


パレットは、軍事用ポーチの中にあった鉄のワイヤーを引っ張り出しながら叫んだ。


「機動力のある『秘宝獣』持ってない?」


「……あるにはあるが」


「あるなら、あたしに貸しなさい!」


黒城は黙って頷き、ズボンのポケットに入れていた銅色の宝箱を、パレットに投げ渡した。


『秘宝』は放物線を描きながら、パレットの手に渡った。


「これはなんて名前の『秘宝獣』なの?」


「……エスケープ・ゴートだ」


「開宝、『エスケープ・ゴート』!」


パレットが銅色の宝箱を開けると、漆黒の毛皮に赤い眼をした、の秘宝獣が飛び出した。


モデルはおそらく、ヘブライ聖書の贖罪の日に、人々の罪を負わせた山羊。


【Cランク秘宝獣―エスケープ・ゴート―】


「まぁ、何でもいいわ。エスケープ・ゴート、作戦開始よ!」


(鉄のワイヤーをレア・メタル・ゴーレムの足に絡ませれば、バランスを崩せるはず……)


「このワイヤーを咥えて、レア・メタル・ゴーレムの周りを走るのよ!」


「Meeeee!!」


パレットの合図とともに、ヤギの秘宝獣は走り出した。俊敏な動きで鋼鉄の巨像の攻撃を回避しながら、その足に二重、三重に鉄のワイヤーを絡みつけていく。


(よしっ、これならいける……)


しかし鋼鉄の巨像が足を動かすと、鉄のワイヤーは音を立てて千切れてしまった。


「そんな……。これも通じないなんて、他に方法は……」


ふいに上を見上げると、今度は鋼鉄の巨像が、パレットを踏みつけようとしていた。

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