今日は、久しぶりに便利屋に出勤です。
本業の仕事が忙しく、中々顔を出せませんでした。
いつものように『マム』の扉を開くと、そこには小さな女の子を抱えた、なんとも似つかわしくないゴリさんの姿がありました。
「ああ、マリーか──」
「ゴリさん!!幼児誘拐は犯罪です!!大人しくお縄についてもらいます!!」
「違うわ!!」
私はすぐさま縄を手にゴリさんを捕獲しようとしたら、ゴリさんの拳骨をもらいました。
「……この子はな──」
ゴリさんが説明を始めようとした矢先、ルイスさんが登場。
「ご、ゴリさん、もしかして、成人女性に相手にされないからって遂に、幼児を手篭めに──いたいっ!!」
案の定、ゴリさんに殴られておりました。
「お前ら、俺をなんだと思っている!?」
「んと~、ゴリラ?」
「お給金をくれる人でしょうか?」
ルイスさんに続き、私が答えると二人揃って拳骨をもらいました。
奥ではシモーネさん達、他の仲間が呆れたようにこちらを眺めておりました。
「……あ~、この二人は置いといて……。この子はな、『マム』の前でウロウロしていてな。俺が声をかけたんだ」
ゴリさんは頭を掻きながら、経緯を説明してくれました。
まさか、ゴリさんが声をかけて怖がらないとは素晴らしい。
普通の子でしたら、大泣きされた上に変質者扱いになりますのに。
──この子の将来が楽しみです。
「ふ~ん。お嬢ちゃん、何か用があったのかしら?誰か待ってるの?」
シモーネさんが女の子の側までやって来て優しく問いますが、女の子は徐々に涙目になり泣き出してしまいました。
「えっ!?えっ!?ちょっと、なんで泣くのよ~」
「……シモーネさんの不自然な優しが怖かったんじゃ……」
「ジェム、何か言った!?」
「い、いえ、何も言ってません!!」
シモーネさんに物申すとは、ジェムさんも立派な仲間の一員ですね。
私がしみじみしている中、シモーネさんが慌てて宥めようとしていますが、更に泣き出してしまいました。どうやら、逆効果の様です。
しかしゴリさんで泣かず、シモーネさんで泣くとは……
小さい子の感情とは分からないものですね。
──このままでは、話が先に進みません。
私は仕方なく女の子を抱き上げ、優しく腕で包み落ち着かせました。
こう見えて、小さい子の扱いには慣れているのです。
令嬢時代、何度か孤児院の視察に行きましたからね。
次第に落ち着きを取り戻した女の子が顔を上げました。
──歳的に4、5歳でしょうか?
「……あ、あのね、ママが、ママが、悪い人に、連れてかれたの……」
ゆっくりですが、説明してくれました。
「こ、困ったことがあったら、こ、ここに来なさいって、ママ言ってて……」
なるほど、ママが悪い人に連れていかれて、困ったのでここに来たと言うことですか。
となると、これはママを助けて欲しいと言うことでしょうか?
しかし、依頼となるとそれなりの金額がかかりますが……
ゴリさんも困ったように、眉間に皺を寄せて腕を組んでいます。
「あ、あのね、お金、これじゃダメ……?」
女の子の小さな手の中には、20ピールが握られていました。
「……このお金は?」
「……お小遣い……これしか残ってなかった……」
女の子は、家中探したんでしょうね。
あまり裕福な家庭では無いことは一目瞭然。それでもお母様の為にお金をかき集めたのでしょう。
それが、例え自分のお小遣いでも足しに出来たらと。
「……マリー、この金額じゃ……」
シモーネさんが女の子の手の中を見て、私に小声で伝えて来ました。
確かに、この金額では果物一つ買えません。
それでも、自分の母を救って欲しいと自分のお小遣いを差し出す女の子の気持ちを無下には出来ません。
──こんな小さい子が、立派じゃないですか。
「……分かりました。その依頼、このマリーが引き受けましょう」
「マリー!?」
「本気なの!?」
ゴリさんやシモーネさん、他の方も驚いておりますが、私は本気ですよ?
「こんな小さい子が助けを求めてきたんですよ?大人が手助けてしてあげなくてどうするんです?」
私が皆さんにそう伝えると、皆さん顔を見合せ一様に溜息を吐きました。
「まったく、お前は一度言い出したから聞かんからな」
「仕方ない、手伝ってやるよ」
「…………」
ゴリさんは私の頭をわしゃわしゃとすると、仕方ないとばかりに了承してくれました。
他の皆さんも、私に手を貸してくれると仰ってくださいました。
持つべきものは仲間です。
「それで、お嬢ちゃんお名前は?」
「私、ネリ……」
ゴリさんが女の子の名前を聞くと、ちゃんと答えてくれました。
それでは、ネリさんの為に頑張ります。
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