突然ですが、私は今ヤンさん、ジェムさんと共に森に来ております。
そして、私達の目の前には大量のワーム。
ワームとは、簡単に言えば大きな芋虫ですね。
一匹だけなら、まあ愛くるしいと言えますが、これだけの量が集まってウネウネしていると気持ち悪いです。
さて、何故私とヤンさんが森に来ているのかと言いますと、遡ること数時間前……
「おいっ!!マリー、ヤン!!ちょっと下見に行ってきてくれ!!」
「何処にです?」
剣の手入れをしている所に、ゴリさんからの指令が下りました。
「ああ、どうやらワームが大量増殖しているらしくてな」
「……ワームですか」
ワームは繭を作り、その繭は希少で高値が付きます。
不自然な大量増殖、これは何者かの仕業だと考えているのでしょう。
繭目的だけなら、まだいいんですがね。
ワームは見た目は芋虫ですが、攻撃力はこの間の大蜘蛛に匹敵します。
それが、何匹もとなると少々骨が折れます。
「俺も一緒に連れてってください!!」
名乗りを上げたのはジェムさんです。
ジェムさんはあの日以来、ヤンさんにベッタリで離れません。
ヤンさんもそれを受け入れているんですから、凄いです。
私なら鬱陶しくて一日持ちません。
「……………」
「『そうか、じゃあ一緒に行こう』と、仰っております」
「よし、じゃあヤン、ジェム、通訳のマリー行ってこい!!」
……サラッと通訳と言いましたよね。
──とまあ、こんな感じで今に至ります。
「うえ、気持ち悪いなぁ」
ジェムさんが大量のワームを見て、思わず本音を漏らしていました。
「…………」
「『あれで、食うと割と美味いぞ』と、仰っております」
「あれ、食えるの!?」
いや、私も初耳なんですが……
あれを食べる強者がいたんですね。
「…………」
「『冗談だ』らしいです」
そして、ヤンさんがフッと笑いました。
ヤンさんが、冗談を!?しかも、微笑みながら!?
これは、凄い事ですよ!!
ヤンさんとの付き合いはそれなりにありますですが、一度も冗談など聞いた事ありません。
ヤンさんが笑うとこなど数年に一度です!!
これはいい事ありそうですね。
しかし、ジェムさんが来てからヤンさんの雰囲気が変わったのも確かです。
なんと言うか、穏やかになった?と言うんでしょうか。
前は常に気を張っている感じでしたからね。
ジェムさんを見ているヤンさんは、飼い主の様ですからね。
「うわぁぁぁぁぁ!!!やめてくれ!!」
「いやぁぁぁぁ!!!」
森の中に悲鳴が響き渡りました。
悲鳴のした方を見ると、今まさに数人の男性、女性がワームに食べられようといている所でした。
「ヤンさん!!!」
「…………」
「通訳している暇はありません!!ジェムさんは勘で動いてください!!」
「勘!?」
すぐさま救出に向かいます。
「大丈夫ですか?私に捕まってください」
とりあえず二人の女性を抱え、ワームの群から助け出します。
離れた場所まで来たら女性を下ろし、再びワームの元へ。
「マリー!!こいつ頼む!!足食われた!!」
ジェムさんが呼ぶ方へ行くと、男性の方の片足がありません。
これは、早急に止血しなければ命が危ないです。
こうしてる間にも、ワームの攻撃は続きます。
「マリー!!後!!」
ぐぁぁぁぁぁぁぁ!!!
ワームが大きな口を開き、牙を剥けてきました。
芋虫の分際で人間に牙を剥けるとはいい度胸です。
ブシュッ!!!
「──ああ、汚れてしまいました。折角手入れしたばかりでしたのに」
先程手入れしたばかりの剣で、ワームの首を切り落しました。
その際、ワームの体液がべっとり剣に付着してしまいました。
……帰ったら磨き直しです。
「……この状況で、剣の汚れを気にするのはお前ぐらいだぞ?」
ジェムさんがそんな事を言っておりますが、余所見してる暇はありませんよ?
「ジェムさん、頭上にご注意下さい。私はこの方の手当を優先致します」
「頭上?……うわっ!!!分かった!!ここは俺と兄貴に任せろ!!!」
ジェムさんは素早くワームの攻撃を剣で受け、やり返しました。
ふむ。腕が上がってきましたね。これもヤンさんの指導のおかげでしょう。
さて、私はこの方を向こうへ……
先程、女性の方々を避難させた場所まで男性を担いで行きます。
「マシュー!?」
男性を見るなり、一人の女性が駆けつけてきました。
「ああ、マシュー、なんて事……」
男性は出血が多く、息も絶え絶え。意識は……ありません。
凄く、危ない状態です。
「離れて下さい!!止血します!!」
女性を退かせ、足の付け根を紐でキツく縛り止血します。
この方はすぐにでも病院に連れていかなければ、間に合いません。
しかし、ここを離れることも出来ません。
万事休すとはこの事ですか……
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