「ちょっとマリー!?昨日休みだったんだって!?」
朝、仕事に行く準備をしていたら、エルさんが飛び込んできました。
あぁ、次の休みはエルさんにあげると約束していたんでした。
すみません。すっかり忘れておりました。
「……あれ?なんか顔赤くない?僕に見とれてる?」
……蹴り飛ばしますよ?
何故か今日は体がやたら重いのです。
頭もガンガンします。例えるなら、終始ゴリさんに拳骨をもらっているようです。
「えっ、ちょっと、大丈夫!?フラフラしてるけど!?」
「……平気です。これは、きっと飲み過ぎが原因です」
「……いや、違うと思うよ?」
昨日はゴリさんと飲みくらべをしたんです。
二人とも潰れる前にお酒が無くなり、引き分けとなりましたが、きっと自分で気付かぬうちに酔っ払っていたのでしょう。
酔っ払うとこんなにも頭が痛くなるんですね。これは初体験です。
皆さんが「二日酔いはしんどい」と仰る意味が分かりました。
心配しているエルさんを尻目に、私は仕事へと向かう為、部屋を出ようとしましたが……
「……あら?」
「──っと!!危ない!!って、君すごい熱だけど!!!??」
急に目が回り、その場に倒れ込みました。
床に倒れる前に、エルさんが受け止めてくれたので衝撃はありませんでした。
しかし、どうやら私は熱があるみたいです。
「ちょっと待って!!すぐベッドに運ぶから!!」
「……すみません。でも、仕事がありますので……」
エルさんが抱き抱えてベッドへ連れて行ってくれましたが、休んでいる場合ではありません。
今から仕事があるのです。
「君、馬鹿でしょ!?こんなフラフラな奴、使いモノにならないでしょ!?ぶっちゃけ邪魔!!」
エルさんにビシッと指を刺されて言われてしまいました。
……邪魔……邪魔……邪魔……。
私の一番嫌いな単語が頭の中を巡っています。
「えっ?なんか大人しくなったんだけど、大丈夫?」
「……ちょっと、精神的ダメージが大きかっただけです」
仕方ありません。皆様の邪魔になるのは本望ではありませんので、本日は大人しくお休みを頂きます。
「今医局に行って、医者呼んでくるから。──絶対、ベッドから出ないように!!分かった!?なんなら縄で縛り付けて行くけど!?」
流石に動きません。ですから早く医局に行って来てもらえますか?
エルさんは、私が目を瞑ってベッドで大人しくしている姿を確認すると、ようやく医局に向かったようで、バタンとドアが閉まる音がしました。
◇◇◇
ドタドタドタ……!!!
──誰かこちらに向かってきてますね……
バンッ!!!
「マリアンネ!!倒れたって本当なの!?」
──あぁ、面倒くさい方が現れましたね……
目を開けずとも、声で殿下だと判明しました。
エルさんは医局に行ったんではないんですか?
私のそんな思いも通じず、殿下の足音は私の方へ向かって来ます。
「……あら?ヤダ、眠ってる……」
目は瞑ってますが、起きています。
ですから、人の顔を触るのは止めて下さい。
「……本当に眠って様ね……。今ならキスしてもいいかしら……」
そう言われた瞬間、私は目をカッと開きました。
──寝込みを襲うのは卑怯者のやる事です!!
「……やっぱり起きてたんじゃない……」
知っててカマかけましたね?
卑怯者ではなく、底意地が悪かったです。
殿下はゆっくり私のベッドに腰掛け、私のおでこに手を当てました。
殿下の手は冷たくて心地よいです。
「……結構あるわね。辛くない?」
「……正直、風邪を引いた記憶があまりなく、どのぐらいで辛いと言うのか私には分からないのです」
私の記憶では風邪を引いた記憶があまり無いのです。
多分最後に引いたのは、6歳頃でしょうか?
なんせ、幼い頃から体を鍛えてましたので病気知らずなのです。
──健康には人一倍自信があったのですが……
殿下に頭を撫でられながら目を瞑っていると、バンッ!!と再びドアの開く音がしました。
「マリー!!大丈夫!?──って殿下!?」
次に部屋に入ってきたのはテレザ様ですね。
「……殿下、心配なのは分かりますが、病人にあまり近づかないでください。殿下に移ったら大変です」
テレザ様の言っていることは最もです。
私は風邪だと思っていますが、もし、違う病でしたら一大事です。
「大丈夫よ。マリアンネのものなら、なんでも貰うわ。人に移すと、早く治るって言うじゃない?」
いや、殿下に移すぐらいなら、このままでいいです。
気合と根性でどうにかします。
父様が言ってました。「病は気から」だと。
「もう!!ダメです!!今すぐ出て行ってください!!」
テレザ様が有無を言わさず殿下を部屋から追い出しました。
殿下は何度も抵抗していましたが、テレザ様の気迫に負け諦めたようでした。
ようやく部屋の中が静かになり、私はゆっくりと瞼を閉じました……
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