美しく死ね。

クラスみんなで異世界迷宮に飛ばされました。生きてゴールしないと帰れないってそれ、性格悪すぎません!!?
ふきのとう
ふきのとう

三十九話

公開日時: 2020年9月9日(水) 18:27
文字数:2,910

「異世界ギャンブル。それが、新界くんたちが参加させられたものの名前です」


 そう語る高山の目は輝いている。よほど話したくてたまらないらしい。


「異世界に造られた迷宮に生贄を閉じ込め、何人生き残るかを予想する賭け事。それが異世界ギャンブル。参加者は元財閥、著名起業家、有名タレント。政府高官もいると聞いています。参加者は委員会に入会していて、全員が賭けに参加できる。ただ、迷宮の稼働には莫大な費用がかかるので、その分年会費もかなりの額ですがね。とても一般人が払える額じゃない」


 そこで高山は、小さくため息をついた。


「参加者の中には、私のように稼ぎの少ない人間もいます。そういう人間は、調達係に任命される。年会費が減額される代わりに、生贄を調達する任務を課せられるわけです。もし生贄を用意できなければ、自分が生贄となります。まあ私は、それでもいいと思っていますが、しかしもう少し他人が死ぬのをみていたい。そう思い、今回は新界くんたちを生贄にさせていただきました」


「ちょっと待ってくれ」


 水を差すようで気が引けたが、高山に呼びかけた。一つ質問をするためだ。


「先生は、俺たちのうち何人が生き残ると思っていたんだ? 今までどれだけの人間があの迷宮を生き延びた?」


「そうですね……」


 下を向いて考え込む素振りを見せながら、高山が答える。


「実は私は、賭け目的で参加しているわけではありません。それに、賭けられる金もそんなにあるわけではない。だから、何人生き残るかはあまり考えていませんでしたし、興味もありませんでした。ですがまあ、全滅するだろうとは思っていました」


「それで、俺たちを迷宮に送るのを躊躇したりはしなかったのか?」


「……確かに、罪悪感を感じないでもなかったですが、それが異世界ギャンブルを止める理由にはなりません。それに、自分の知った人間が生贄になった方が興奮するだろうと思っていましたから。実際、今までで最高のギャンブルでした。そもそも、異世界で何が起きようが私には関係ありません。あなたは、自分のあずかり知らぬ場所にいる人間の心配をしますか?」


「なるほどね」


 この高山という男は、ことごとく最低な人間らしい。俺が言えたことでもないが。


「ちなみに、この教師という職は、委員会から斡旋されたものです。調達係から脱することができるほどの金は、手に入りませんが、しかし調達材料ならいくらでも手に入る。新界くんたちは、なるべくして生贄になった訳ですよ。ああ、それから、新界くん以外であの迷宮から生き返った人間なら一人、よく知っていますよ。運がよかったようで、唯一生き残りましたね。さて、話を戻しますね」


 また、高山の説明が始まった。


「ここまで、何もかも知ったようなふりをしてきましたが、実は私もあの迷宮の正体については知りません。あの場所が勝手に生まれたのか、誰かに造られたのか、どうやってあの場所に行く仕組みが造られたのか。その全てが不明です。まあ、私が知る必要はないのですが。


 私に分かるのは、あの異世界が、空間と時間のねじれた場所であるということ。異世界に行くと超能力を得られること。あの迷宮に関しては物理法則が通用すること。こちらからは迷宮の中が観察できるということ。そして、こちらから迷宮へ行く入り口は自由に作れますが、あちらから帰る出口は一つだけということ。ああ、ちなみに能力が誰かと被ることはありません」


 一気に喋りきった高山は、そこで一息ついた。そして、何か質問はあるかと尋ねてきた。促されるままに質問をする。


「生贄となった人間の関係者にはどうやって説明するんだ? 不審に思う奴もいるだろ。それが原因で警察にばれることもあり得る」


 すると高山の顔が一気に渋面になった。どうやら、あまり訊いてほしくない質問だったらしい。


「警察にばれても問題ありません。警察上層部にも協力者がいると聞いています。それに、私たちが人を殺した証拠がありませんし、そもそも死体がない。そして、新界くんがさっき自分で言ったように、大体のことは権力でもみ消せます。ただ、何が原因で身が滅びるか分かりませんから、なるべくこちらの世界では殺人はしたくないというのが、委員会の総意です。ですので、生贄の関係者をどうにか騙す必要があります」


 そこまで言って、高山は大きなため息をついた。


「しかし、この後始末を上がやることはありません。基本的に、その時の生贄を用意した調達係が担当します。これは、多くの場合調達係が一番生贄の事情を知っているからなのですが、この後始末がかなり重労働でしてね。生贄は身寄りのない人間から選ぶのが普通です。ですが、全く他人との関わりを持たない人間はいません。そういう人間を納得させるために、奔走しなければならない。私もこれから後始末に追われるわけで、それが嫌なのでこうして時間を潰して、現実逃避をしているのです」


 高山の話を聞いて、高山が楽しそうに話す理由が少しわかった。多忙になる前の束の間の休息が嬉しいのだろう。案外人間らしいとこもある。


 高山の意外な側面を知れたところで、また気になっていたことを尋ねた。


「なあ、俺らが結構頑張ったせいでさ、何体か怪物が死んだだろう? その委員会とやら的には大丈夫なのか?」


 高山が軽く肩をすくめ、答える。


「先ほども言ったように、迷宮の仕組みについて詳しいわけではないのですが、どうやら迷宮の内容は生贄が捧げられる度に変わるようです。実際、私はあのライオンのような怪物は見たことありますが、蛇は今回初めて見ました。まあつまりは、生贄が捧げられると化け物が復活する、ということです。なので何も問題ありません」


「へえ」


 なんとも都合のいいことだ。だが、俺てたちが初めて迷宮に送られたわけではないことを考えると、予想はできることでもある。とりあえずは納得し、そして最後の質問をした。


「それで、俺はこのままおとなしく帰っていいのか? 俺がいた施設に。俺と同じ施設の奴はいなかったが、俺だけ無事に帰るってのも妙に思われるかもしれない」


 この質問には、すぐに答えてくれた。


「そのことなのですが、お願いがあります。あなたを含むB組二十人は、学校併設の新施設を使用することになった、ということにします。少し離れたところに旧校舎があったのを知っていますか? あそこを施設として使えるよう改築してあります。事情を理解している理事長と校長に無理を言って、二年前からやってもらっていました。委員会に金を出してもらえなければ危なかった」


「じゃあ、これからはそこに住めと?」


「そういうことです。この建物を出ると、委員会の者が待っていますから、彼に案内してもらってください。車が用意されているはずです」


 なんともややこしいことになった。だがしかし、俺は特に住むところにこだわりはない。とりあえず知りたいことは知れたので、今はとっとと眠りたい。


「じゃあ先生、俺はお暇させてもらうよ。また連絡してくれ」


 そう言って、立ち上がった。そして扉に向かおうとしたところを、高山に呼び止められた。


「まあ待ちなさい、新界くん。最後に一つ、話があります」


 高山が再び、話し始めた――。

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