「おい離せバカ!!!」
石堂が叫び、脚を振るが、湯島は必死になって離さない。むしろ石堂が暴れるせいで俺の手がくぼみから離れそうになってしまう。
「落ち着け石堂! お前まで落ちるぞ!」
俺の言葉で石堂はやっと暴れるのを止めた。だが、さすがに俺でも、自分含め四人の体重を支えるのはきつい。湯島を切り捨てる方法を考えなければならない。
そして俺では、そう何個も方法は思いつかなかった。
「石堂。これからお前を宙に投げる。だが絶対に受け止めてやる。信用してくれるか」
俺の言葉に、一瞬押し黙った石堂。だが、すぐに答えを返してきた。
「当たり前だ! 郷原に任せる!」
「なら覚悟を決めろ! 行くぞ!!!」
叫び、俺は石堂が掴んでいる方の脚を蹴り上げた。能力で強化された筋力をフルで使った蹴りで、石堂と湯島が斜面に沿って飛んでいく。
飛ばされる勢いが強すぎた結果、湯島の手ががずれていった。なんとか耐えようとした湯島。しかしそこで、湯島が掴んだ石堂の靴が脱げた。靴ごと湯島の体が回転して飛んでいく。
「和田! ここ掴んどけ!」
そう言って、俺が今まで掴んでいたくぼみを和田に掴ませた。和田を抱えてでは素早く動けない。
そして、すぐに移動を開始した。蜘蛛のように横に移動し、石堂が落ちてくるであろう場所に向かう。今の傾斜なら、俺の筋力があればどうにか行ける。
そう考えたが、うまくいった。掴んでいたくぼみの位置からそれほど高さを変えずに、石堂の軌道の先に到着。石堂の落下を待つ。
ちらりと湯島の行方を見た。石堂の足首を掴んでいた湯島はあまり横には飛ばず、斜面をずっと上に飛んでいたようだ。だが、途中で斜面に激突し、斜面を猛スピードで転がっていく。その後には、血がうっすらと付いていた。意識があるのかどうかは分からないが、どのみちあれでは助からない。運のない奴だ。
石堂の方は衝突はしていないようだが、その分落下速度が速い。受け止める衝撃の大きさが予想できない。受け止めて多少落ちることは考えなきゃならない。
そんなことを考えている俺の横を、湯島が転がっていった。そんなはずはないのだが、湯島と目が合った気がした。伝わってくる憎悪を跳ね返すように、思い切り睨み返す。俺が恨まれる謂れはない。
視界が翳り、上を見る。石堂の体があった。豪速で俺へと迫ってくる。
「来い!!!」
気合をいれつつ、うまくいくことを願う。回転する石堂の体を受け止めるのはかなり怖い。だが仲間のためだ、多少の怪我くらい見過ごせる。
そして、石堂と接触した。俺の頭上に足が飛んできた。その足を手でいなし、胴体を待つ。
次に、石堂の脇がちょうど俺の肩のあたりに来た。両腕で石堂の体を受け止めた。
うまくいった。
そう思ったのも束の間だった。凄まじい衝撃が俺を襲う。石堂ごと斜め下に飛ばされた。目の前を床が上へどんどん流れていく。石堂を抱えているせいで手が使えない。つま先と膝、肘でどうにか減速を試みる。肉と骨が削れるような感覚がした。激痛が体中を走るが、泣き言を言っている場合ではない。
「うおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」
勝手に声が出た。気合が満ちる。絶対に仲間を救うという思いが、俺の全身に力を与えた。その一瞬、確かに希望が見えた。
しかし、現実は甘くなかった。
腕が耐えきれず、石堂の体を落としてしまった。石堂に衝突して俺の脚が跳ね上がり、思い切り坂に顔をぶつけてしまう。顔に痛みと熱さが帯びる。口の中に異物感がある。歯が折れたかもしれない。
だが、そんなことはどうでもいい。
「石堂!!!」
素早く下を見た。石堂はまだすぐ下にいた。体勢を整えようとしていた。だが、失敗した。呆気なく下へ転がっていく。
「くそが!!!」
すぐに上半身をひねり、下へ向かって飛んだ。上に飛ぶのと違って、かなり速い。これなら追いつける。
だが、追いついた後は?
どうやって止まるかは、考えられていない。だがとにかく石堂を助けなくては。きっとどうにかなる。
俺の脚力による落下は、半端ない速さに至った。床がどんどん後ろに流れていく。追いつく。追いつく。追いつく――。
追いついた。
石堂はどうにか体勢を整えることに成功し、四つん這いになったまま滑り落ちていた。その石堂の腕が、目前に迫る。この手を取れば。
そう思った。しかしやはり、現実は甘くなかった。
ふ、と石堂の体が消えた。呆気に取られた。一瞬思考が停止する。だがすぐ正気に戻り、ブレーキをかけて体を止める。体を回転させ、頭を上にした。
石堂を探す。だが、下にはどこにも見当たらなかった。嫌な汗が背中を流れる。早く見つけなければ。石堂が怪物に捕まる前に、救出しなければならない。早くここを立ち去りたい。
「うわああああああ!!!!!」
悲鳴が聞こえた。石堂の声だとすぐに分かった。冷や汗が止まらない。勢いよく頭上を見る。信じたくなかった。信じたくはないが、それは事実としてそこにあった。
怪物の触手に捕まった石堂の姿が、そこにあった。
喉が勝手に震える。見たくないはずなのに、目が見開かれていく。息がうまくできない。
「石堂ォォォォォォォォォォォォォォッッッッッ!!!!!」
俺には、叫ぶことしかできなかった。
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