オートマティズモ

社会主義国家と化した異世界日本で召喚獣が思想バトル!
小林滝栗
小林滝栗

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公開日時: 2020年11月2日(月) 14:43
文字数:1,527

ダフは、子供を救おう、なんて正義感では動かない。だってそんなベタなストーリィ。


美しすぎるじゃなぁい?


誰かを救いたい、守りたい。

そんな動機でやっていたら、それはオートマティズモではない。

ダフは、肉体と精神が調和した霊的な新次元を手に入れたいのだし、そのためには、トキオグラードの不純は、じゅうぶん打ち破るに値した。


その結果誰かが助かるとか、そういう事実は嫌いじゃないが、現実的な話は超越して、歴史と精神のストリームに、強気肉体を放ってみたい。


すべて、シームレス! シームレスに。


ただし、ドーパミン快感の追求はダメだ。


「強くなりたい! オラ、強いやつと闘いたい!」

そういうことではない。


Vローダーから支給されるベーシック・インカムによって、生活と住居は保障されている。メビウスの貯金も十分だ。生活のためでもない。


トキオグラードという都市空間、その不純、歴史感覚、それらとスピリチュアルに通じ合いながら、均衡を保ってゆく。


「ゆっきーなぁ! メビウスを!」


ダフは、『ハワイアン・ジャケット』=HJがぶち壊した天井を避けながら、屋上へとジャンプしながら、アツコを抱えるメビウスを気遣った。


ミシマ・ユッキーナは両腕の光る帯を素早く伸ばしつつ、千切りにし、無数の枝をつけたアフリカの巨樹の形を生み出した。


「思想バオバブ!」


光の枝がメビウスとアツコを包み込み、屋上へと浮上させる。


屋上の一部はぽっかりと穴が空いていて、取り囲むように、HJとダフ、メビウスが着地した。


「ヒィン!」

アツコの呻きは声にならず、足をバタバタとさせている。

そんな鬱陶しい旅行女子を抱えたままで、メビウスはその鬱陶しさの源について想いをめぐらせていた。


こんな状況で、さすがオートマティズモのリーダー、余裕である。


フム、ツァイトガイストの禍々しさは…… わかる。

HJも、総合職で働く旅行女子ご一行なのだろう。

では、ツァイトガイストにもなり損ねた、この女への、イラつきとは?


いや、私が女の半生に精通しているわけではないのだが。

HJの歪みとは別の、「実際的」な側面。

おおかたこんな女は、「私は、私を知っている」ことへの安直な自信に乗っかっているのだろう。


ーー生の安全さ。


共産党バレーにおける役割を理解していること。

すなわち、忠実な人民である。


「この歳にもなって、自分のキャラクターをわかってないとか、痛いよね〜」

なんて無邪気さを抱える、そんなシャツインなのだ。


どうせ手首を内側に折り、指先で肩を触ったかと思えばその次の瞬間には外に反らせたり、知恵の足りない語尾を使いまわしながら、


『よくわかんないけどー、私の前の彼氏はそうだったけどー、あーでも最近男がわかんない。浮気しないと思ったけどーでもでもー結婚したら感じるものが10倍とかになるわけ。一緒にいる時間も、違和感も』

『完全に別れてると、相手が誰と付き合おうが、どうでもよくなるわけじゃん。でも今みたいな不安定な状態だと、気になっちゃう。あーでも、そんな悪い人じゃないのかもなーとか思ったり』

「あーでも今の男はー経済は関係ないって言っててー気持ちのつながりっていうか、私のことを攻撃してくることはないんだよね。むしろ自分を攻撃しちゃう。ネガティブだから。それがしんどくなってきちゃって』

『………  ま、いいことあるよ』


というカラッカラの、『感性=世界』の発言で、『赤のスタヴァ』を満たしてゆくのだ。


だから人民は、イメージと身体がずれすぎていても、ダメだし、一致しすぎていても、驕りとなる。

革命精神の敗北、共産党バレー官僚主義の極致。


「フ、私がオートマティズモを駆動させたのは、こういう女も、あるんだな」

フフ、メビウスの鋭い目つきが、HJとアツコを交互に目配せする。

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