オートマティズモ

社会主義国家と化した異世界日本で召喚獣が思想バトル!
小林滝栗
小林滝栗

8

公開日時: 2020年11月2日(月) 14:42
文字数:2,454

炎天下に不釣合いの、ダークなアウラ。

精神的消費を促す間接照明が意味を失う黒。


ダフの詠唱で、黒煙に塗りつぶされた『ナカツタ』の最上階で、何もかもが視えなくなる。


黒煙に、ミスティカルな波動。

腐臭はない。

『ハワイアン・ジャケット』=HJのホワイト空間と対照的である。


煙の中には、筋肉に包まれた美女が一人。

ダフのワイヤレスイヤホンから光で繋がれて。


ーー思想獣ミシマ・ユッキーナ!

ジーン・セバーグのベリーショート。

灰色の髪の毛に、光のハチマキが巻かれていて、象形文字の呪詛がうごめいている。

瞳のない目は大きく、垂れており、くっきりとした涙袋もあいまって不思議な愛嬌すら感じさせる。


もちろん腹筋は割れていて、胸は大きい。

拳をぶん振り回せば、ゆつさゆつさだろう。

腰はくびれ、でかいケツ!

ボンッキュボンに最小限のアミュレットが置かれ、卑猥さを隠し、神々しさ沸き立つ。

もちろんアミュレットにも謎の象形文字が踊る。


まさしく武闘派の思想獣!

ダフと感応して、肉体を高めあうパートナーだ。


アヴァヴァヴァヴァヴァヴァヴァヴァ!

ミシマ・ユッキーナが気を吐き、によきによきと光のハチマキが伸びる。

そして端が切れ、両拳を覆う。

思想獣の拳は、光の拳にへんげした。


「ヘィ! ユッキーナ! 思想ナッコォォォォゥ! カムゥォォォォン!」


ダフに感応し、ミシマ・ユッキーナはファイティングポーズをキメる間も無く、蹴り上がり、思想ナックルを旋回させ、メビウスにとりつくHJタイフーンを攪拌しにかかった!


アヴァヴァヴァヴァヴァヴァヴァヴァ!


HJタイフーンの骨が霧散し、後ろざまに吹っ飛ぶツァイトガイスト! 


シュウウウウウウウウゥゥバゥァァァァァァ……


骨はフロアにチリヂリになった。


アヴァ。着地し両光の拳を合わせるユッキーナ。


「メビウス! 待たせた!」

「フヒュウ…… サンクス。 もう少しで窒息するところだった…… 」


思想ナックルは収縮を繰り返し、光のフロウを生み出している。球体には象形文字が蠢く帯が縦横無尽にスライドする。


ぶっ倒れたツァイトガイストの近くには、気を取り戻したアツコがぶるぶると震えていた。


ははぁん、さては、この女は、『ハワイアン・ジャケット』のそばにいた…… BFFってやつかぁ?

アラ、アララ、お気の毒にしょっぱな吹き飛ばされたのねぇ……

どうせぇたいがい、こんな『ナカツタ』で旅行ガイドを読み腐って、誰も彼も似たような観光地を凝視めているのよねぇ……

その根には、結婚したいとか、結婚しなくても良いだとか、もしくは子供が欲しいとか欲しくないだとか、女の選択がイニシエイションされて。

人生の「AGARI」をつくることで、精神を律しようとする、人民の鏡よねぇ。

そういう社会主義の怨霊がガキどもをさらおうとする執念の結晶に昇華して。

化け物に変貌しちゃうわけだから。

途切れなく、シームレスに、日々を運んでゆく衝動を抑えて、期限期限で人生を区切ってゆく。

ライフステージなんて決めつけたりして。

執着が、安易な料理教室に未来の花嫁たちを連行して。なんのこだわりもない、ジェネリック家庭料理=アンチ郷土料理を習得しようと、アフター5とか少し精を出してアフター7だのの時間を消耗しちゃうのねぇ。


あ、それはツァイトガイストの女ねぃ。

片割れの、このアナザーBFFババアはもしかしたらもっとふわふらと漂っていて。ツァイトガイストになるような娘の強情とは違うのかもしれないねぇ。


でも、漂白する魂に自分らしさを求めちゃったりしちゃえば、それはそれで新種の強情さだから。

どんどん息は詰まってしまって。

ツァイトガイストとそうでないのとの差は、そんなないのかもしれないんだぜぃ。


ほんと、素直になれないねぇ…… 

ダフは少し微笑ましい気持ちになった。


シュウウウウウウウウゥゥ……


HJの骨は修復され、再び骨と皮から瘴気がこぼれだす。ホウキをスイングさせ左右に素早く動かすと、地を這う風を起こし始めた!



「っと! メビウス! この女を頼む! 俺はユッキーナとツァイトガイストを、叩く!」

「フハハハハ、言われなくても、やっている!」


「ッヒィ!」

メビウスはアツコを抱き上げると、足元をすくう衝撃波をすんでのところでジャンプしてかわした。大縄跳びの要領である。

突然宙に浮かび上がったアツコの声にならない声が響く。


もちろんダフも飛んで回避し、ミシマ・ユッキーナは光のオーラで弾き飛ばした!


アヴァァン!!

象形文字がうねる光にぼうっと包まれ、小気味よくリズムを作るミシマ・ユッキーナ。


ホウキ衝撃波をスカったHJは、次なる攻撃を模索し、フロアを低く滑空している。


HJの目的はオートマティズモを倒すことではない。

子供をさらって、喰らうこと!


骨と皮をカクカクさせながら、あたりをじろりじろりと舐めまわすと、ダフとメビウスの後方でうずくまる家族で視線が止まった。


休日の『赤のスタヴァ』は、旅行女子どもだけの場所ではなく、

猛暑に遠出したくない、ファミリィの時間稼ぎスポットでもある。人民父母からすれば、絵本を読めるブックカフェは使い勝手が良い。


HJがロックオンすれば、動きは早い。

臼を滑走させ、ポキポキボキボキと骨・関節を外しながら、HJタイフーンを今度は臼の上で発生させる!


「うぉ! しまった!」

衝撃波を防いだことで安堵したダフとメビウスの油断。その隙が、HJを好きにさせた。


「ああ! 私のボーイ!」

HJタイフーンに2-3歳くらいの男児が取り込まれると、人民ママが叫んだ。


「おい! 動くと危ない!」

人民パパがすかさず牽制する。


男児の泣き声すら、HJタイフーンにかき消されて。

じろりと下を向き、自らの体内でしっちゃかめっちゃかにされるボーイを嬉しそうにチラ見しながら、そのままキネとホウキを一閃した。


ブゥン!


空気を凪いで、飛びあがり、天井に突っ込んでゆく。


ダフは天を見上げ、

「おぃ、あいつまさか、空から逃げる気か?!」


ーーがらがらがっしゃんーー


『ナカツタ』の天井は割れて、建材が落ちてくる。

最上階は崩壊し、逃げ遅れた人々に灰塵が舞い降りた。

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