オートマティズモ

社会主義国家と化した異世界日本で召喚獣が思想バトル!
小林滝栗
小林滝栗

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公開日時: 2020年10月28日(水) 13:14
文字数:1,148

ロックバンドのオートマティズモは、ツァイトガイストを解決する悪霊ハンターでもある。

ワイヤレスイヤホンにインストールされた思想獣たちを召喚し、ツァイトガイストとたたかう。精神に精神をぶつけることで、化け物を浄化していく。

だから、ツァイトガイストと思想獣には相性があって、ポポル、ダフ、メビウスは各人の思想獣を、状況に応じて使い分けながら、彼奴らの打倒を図るのである。


ルサンチマンを歪ませた、欺瞞の塊である『ボーイズ・ライフ』には、悪の陳腐さを告発できる『ハンナ=アーレント』がぴったりだと、ポポルは判断した。

『ハンナ・アーレント』はポポルのワイヤレスイヤホンにインストールされた思想獣である。


もちろん、『ボーイズ・ライフ』が黙っているわけもなくて、抑圧された欲望を解放し、アイドルへ襲いかかる。

「ヒトミヲ、ヒトミヲアゲテクレェィェィェェェェ!!!」

蛇腹状のまぶたはステージセンターで座り込む赤い衣装のロングヘヤー通称「G=ゴルバチョフ」嬢の首元へと突進していく。


「やれやれ、時代錯誤なコスチュウムだな」

詠唱に集中しながらも、ポポルの横目に『ボーイズ・ライフ』の躍動が映る。

フェミニストたちがみたら卒倒するのだろうか、それとも女性の解放だと、賞賛するのか。

G嬢の上半身は、シミュレーショニズムの影響か、国営企業が販売する大衆ドリンクのパッケージを模したブラジャアに包まれており、へそ出しだ。下半身はミニスカートで覆う。ミニスカートほど矛盾を孕んだ服装もないだろうに。 

「キヤア!!」

『ボーイズ・ライフ』の長い長いまぶたに首を掴まれ、宙に浮くG嬢は、その矛盾に想いを馳せることなど、さて、あるのでしょうか。なあんて、意地悪な問いが、ポポルの無防備な脳裏を駆け巡る。


「うおぅっち!」

すかさず、ダフが飛び上がり、ドロップキックをまぶたに見舞う。

まぶたは切れ、G嬢は床に落ちた。

『ボーイズ・ライフ』本体を牽制すべくファイティングポーズを決めるメビウス。

カンフーの構えである。

そのツァイトガイストは、まぶたを切られても、躊躇を感じない。しかし、瞳から伸びた長いまぶたは、それでも悲しそうな相貌に見える。

「フタタタタタタタタ!!フ、フタタタタタタタタ!!」

間髪入れずメビウスは無数の突きを繰り出した。

「ジュウッ」


『ボーイズ・ライフ』の表面の液体に触れるや否や、肉の灼ける音が空間を包む。

「フハッ」

咄嗟の痛みに、仮面で隠された細おもての顔を歪めたのだろう。

カンフーの構えを崩さず退くメビウスに、ダフが声をかける。

「おいっ、メビウス、大丈夫か?」

「フタ、私としたことが、油断してしまったようだ。まさか表面の脂が、炎の擬態だとは」

「おい!こいつ、直接攻撃できねぇぞ!ポポル、思想獣はまだかっ?」

「お待たせです!きます!」

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